ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「裸足の季節」

裸足の季節」観ました。

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北トルコの片田舎に暮らす5人姉妹。
冒頭。海で遊ぶ彼女たちの姿。男子学生も交え、ただ無邪気に海に飛び込み戯れていた。それが余りにも眩しくて。

でも。それを目撃していたとある大人が「あの娘達は、海辺でエロいことをしていた。ふしだらだ」と噂する。

以来、自宅に軟禁状態にされ。
化粧品やらは取り上げられ。電話は仕舞い込まれ。
「クソ色」の服を着せられ、ひたすら楽しくもない花嫁修業をさせられる。

そして。一人。また一人と嫁がされていく。


「ちょっと待って。トルコって。そういう国なの?」

この作品について「トルコ版ヴァージンスーサイズ」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」というご感想もちらほらと見掛けました。
そして「末っ子の力強い目。それは希望」と結ぶ方々。

希望?希望なんですかね?

当方は…。何だか悲しいやら戸惑うやらで。上手く言語化する事が出来ずにいます。

「トルコがどんな国なのか全然知らない。絨毯とトルコアイス、飛んでイスタンブール位しか…。」

「うーん。正直、イスラム教圏内やし…閉塞的な面もあるとは思うよ。」

知り合いの社会科教師が、言葉を選びながら、歯切れ悪く答えてくれましたが。

21世紀の現代で。こんな閉じられた世界があるのかと。

監督のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン。女性監督なんですね。

「女性監督なのか…。だからこんなに生々しくなるのか。」

女は表に出るな。肌を露出して町中を闊歩するなどもってのほか。社会を回しているのも、自由も男のもの。女は子供を産み、大人しく家を守り、男を支えろと。

そして。現代ではナンセンスとしか言いようがない、厳格な「処女性」の厳守。

結婚するまでに他の男と接するなんて。
所詮女の性は汚らわしいという認識。下手に色気付いてしまう前に、子供の内にとっとと結婚させてしまえと。

初夜。汚れたシーツを見せるという儀式。

「いややあああ。こういうの。」

これ。昔テレビで見た。「世界まる見え」みたいな…兎に角、世界の驚きエピソードみたいなやつで見た事あるぞ。

たまたま見てしまっただけ。でも、当時よく分からなかった当方の記憶に「不快な光景」としてインプットされた、世界の下世話でデリカシーの無い儀式。

それは…トルコだったのか…?


「トルコにも色んな考え方があります。開かれ、自由に生きていく人も増えるなかで…でもこういう閉鎖的な考え方の人も居ます。」(監督インタビューを当方意訳)

多様な考え方。性の在り方が認められる世の中で。世界はそう流れていってるのに。
でも。建物から出ず。ひっそりと暮らす人もいる。

「せめて考えを押し付けない様に出来たらな…。」


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次々と嫁がされていく姉妹。でも。実は不幸な結婚をした者ばかりではない。

かねてから付き合っていた彼氏と。ある意味手順を踏んで晴れて結婚した長女。

でも。その姉にあてがわれるはずだった相手と結婚する羽目になる次女。

同じ日に結婚する二人。前夜のパーティで幸せ一杯の長女の傍ら。酒を次々と煽り、涙する次女。
そして。件のデリカシーの無い儀式。

あの、死んだ目をした次女。

そして三女の顛末。

どうして?どうしてそれでも彼女たちの育ての親の祖母は、五人姉妹皆を片付けようとするのか。

「私が生きている間に皆が嫁いで貰わないと」

当方の推測ですが。

あの祖母は、自分の価値観の押し付けが暴力だとは思っていない。

女はとっとと嫁いで、早く子供を産んで。男を立てて。家をしっかり守っていく。それが女の幸せ。そういう価値観。

当方は、この考えの全てを否定はしません。わりと全世界的にこの考え方はあると思いますし。ただ。

「考え方を否定はしないが、肯定もしない。」

各々の価値観があって。その多様性を認めないと。

全く違う価値観を持つ者と、とことん話し合うのは理性的。でも、たとえ話に折り合いが付かなくとも、ねじ伏せるのはナンセンス。

第一、価値観なんて、経験等でいくらでも変わるし。

祖母は「あの娘達が皆幸せになって欲しい」という希望から、こんな婚活行動に出ている。その純粋な善意。

という名の暴力。悲しいかな。あの姉妹にとっては。


「あの…。ところで…男性からはどうなんですか?こういう結婚って?」

女性監督故なのか。描かれない男性視点。

だって。突然嫁をあてがわれるって。好意は二の次で親が決めたどこかの女の子って。戸惑うのは一緒じゃないの?

「若いからいいんかい?映画の姉妹は皆可愛かったけれど。そうとも限らんやろう。」

またね…。一人のヒーロー以外、男は軒並みクズかぼんやり。(叔父に至っては百害あって一理なしの悪魔)

そんなやつばっかりじゃなかろう。トルコ男性。

(意外と男性側の意見も聴いてみたいけれどな。開放的な意見も。閉鎖的な考え方も。)


最後。確かに。強い意志を持って飛び出していく末っ子と四女。


図らずも、現実にも現在不穏なトルコに思いを馳せながら。



彼女たちなりの幸せを見つけられます様に。


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