ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「岬の兄妹」

「岬の兄妹」観ました。
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片山慎三監督作品。主演、松浦裕也・和田光沙

 

「足の悪い兄が、発達障害自閉症)のある妹に売春をさせる話」

 

とある海辺の地方都市。集合住宅の一角で二人で暮らしている兄妹。

共に成人してはいるけれど。兄:良夫は足に障害があって片足を引きずり、全力では走れない。そして妹:真理子は自閉症で他人とのコミュニケーションがおぼつかない。

昼間。良夫が地元の造船所で働く間。真理子が自宅から出て行かない様に足を鎖で繋ぎ、家の外から南京錠で施錠する。なのに度々破られるバリケード

 

「真理子が居なくなった。真理子知らない?」

 

冒頭。ボロ屋から転がり込む様に飛び出し、幼馴染のはじめちゃん(警察官)に泡を食って電話。方々を走り回り、海に漂うスニーカーまでさらって真理子を探し回る良夫。

数時間後、見知らぬ男からの電話があって。真理子を引き取りに行く良夫。「突っ立っていて、お腹が空いたって言うからご飯をおごった」そういう男に何度も何度も頭を下げた。けれど。家に帰ってから。真理子の下着の汚れとポケットに突っ込まれた一万円札から、どういう事が起きたのか察し、声を荒らげた夜。~そんなエピソードで幕開け。

 

父親の存在は語られず。母親も真理子の元を去った。だから良夫が真理子の面倒を見ている。

 

ある日。造船所の人員整理に良夫が引っ掛かり。「俺が足が悪いからだろう!」リストラされた良夫。寂れた地方都市には新たな職が無く。ポケットティッシュに広告の紙を差し込む内職(一つ1円らしい)を始めるが。当然生活は成り立たず。

二人で街を彷徨い、食べ物が無いかごみを漁って。仕事道具のポケットティッシュを「甘い」と食べて。そうして遂に…電気が止められた。

 

生きていくため。

「いい子いるんですがね。」「一時間一万円でどうですか?」

足を引きずりながら。真理子の売春を斡旋し始めた良夫。

 

「何でそんな事になってしまうんだよおおお。」当方の心に住む藤原竜也が終始大声張り上げて叫び続けた作品。

 

「どうして?この田舎には社会福祉の手が無いの?行政は?民生委員は?どうなってんの?」

 

障害者認定は?ましてや二人ともが何らかの障害があるのなら、お金は微々たるもんでも支給されるんじゃないの?彼等を見守る人は居ないの?社会も、会社も、友人も、ご近所さんも…それとも。

 

「そんなのは綺麗事だと?」

 

たった二人の兄妹。社会から孤立し。ボロい平屋の一軒家に住んでいる。誰からも見られないよう、中から段ボールで窓を塞いで。此処は兄妹二人の座敷牢

 

そこで何とか生きて来た。けれど…限界が来た。

 

『売春』。体を売って金を得る。それだけでも眉をしかめてしまう犯罪なのに…この兄妹の最悪な所は『妹がその重大性を理解しているのか分からない』そして『全て承知で兄が妹を売っている』生活の為とは言え…。

 

背景が悲壮なのに。どこか飄々とした感じの真理子。「恐らく真理子は寂しかったんやろうな。」そう推測する当方。男達は性欲処理に真理子を買うけれど、触れられ、求められる喜びで溢れる真理子。(そして…下品な言い方ですが。多分床上手なんですよ)

 

「と言ってもさあ。こんな地方都市で、こんなことしていたら直ぐ様人の目に付くって。警察やおっかない人に見つかるやろうし、病気や妊娠の可能性だって…。」

…まあそうなるわな。危なっかしすぎる兄妹二人の危険すぎる犯罪行為の、数々の顛末に溜息が止まらなかった当方。

 

「お前はなあ!足が悪いんじゃない!頭が悪いんだよ‼」

 

そう言って良夫を殴ったはじめちゃん。彼の言っている事はまとも。けれど言いたい。

「じゃあ頭が悪い奴はどうやって生きていったらいいんだよ!」

 

この兄妹が生きていく術を。一体誰なら教えてくれるんだ。誰なら寄り添ってくれるんだ。誰も二人の力になっていない現実の中で、何を以って正解だと言うんだ。

 

誇り高く死ねと言うのか。体を売って何が悪い。売れるモノがあっただけ良いじゃないか。今生きていく為にはこれしか無かったんだ。

 

「こんなの。もう誰も何も言えないよ…。」

 

しかも、たった二人の家族。良夫と真理子との生活は一生続く。

真理子さえ居なければ。もう少しまともに生活出来る。真理子の居ない人生…けれど、良夫はその選択を選ばなかった。

 

真理子にとって、この売春生活はどうだったのか。

数多の男と寝て。体を重ねていく事で、目覚めていく性の喜び(陳腐な表現)。けれど。男なら誰でも同じでは無かった。

「こんな恋の見つけ方があったなんて。」まさかの。曇天の雲行の中で。一筋の光の気配。

 

売春稼業の顛末。最悪を塗り重ねて。行きつくところまで行きついて。映画館なのに思わず声に出して溜息を付いてしまった当方。

 

「結局は。グルグル回ってまた同じ生活か。」最終。冒頭と同じく、また真理子が居なくなったと探し回る良夫の姿にもう止めてくれと思った時の、あの電話。良夫の表情。

 

「これは…ハッピーエンドでいいんやんな?」まさかの。まさかの希望の持てるラストを持ってきたんだと。お願いですから。お願いします。

そう願ってやまないです。

映画部活動報告「天国でまた会おう」

 

「天国でまた会おう」観ました。
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第一次世界大戦終結寸前のフランス。

1918年。西部戦線。そこで知り合った、同じ部隊兵士のアルベールとエドゥアール。

その舞台を率いていた暴君、プラデル中尉。彼の無茶な指令に従った結果、敵からの攻撃にて生き埋めに会ったアルベール。そんなアルベールを救おうとして爆破を浴びて、結果顔の下半分を失ったエドゥアール。

何とか命を取り留めたエドゥアールだったけれど。ボディイメージの変化に耐えられず「誰にも会いたくない」と戦死を偽装。アルベールと一緒にひっそりとパリに帰ってきた。

しかし。戦没者には哀悼の意を見せるものの、帰還兵には冷ややかな母国。帰ってきたけれど、かつての恋人も職も失ってしまったアルベールは安定した職に就けず。貧しい部屋にエドゥアールと二人で住んで。日々不安定な生活を送ってきた。

元々は良家の御曹司。加えて芸術的センスに長けていたエドゥアール。醜く変化してしまった顔。傷はひどく痛み、強い鎮痛剤が手放せない。

昔部隊で一緒だった時、エドゥアールが描いていた絵を見ていたアルベール。貧しかろうが。エドゥアールには絵を描いて欲しい。そうして少ないながらも画材を買って自宅に置いて。

悲観していたけれど。次第に創作意欲が湧いてきて…変化してしまった顔を覆う仮面を作るエドゥアール。しかし。そこで二人は終わらない。

 

かつて戦地で戦った…戦った?混乱している現場をいいことにサディストっぷりを振りかざしていたプラデル中尉。

帰還した彼が今、パリで成功していると知り、復讐を企てるエドゥアール。

その内容は。「戦没者を悼む記念碑を販売する企画に応募」「戦没者記念碑コンクールに応募」その落ちは「優勝し実際のモノは納付せず、報酬だけもらって高跳びする」というもの。

「こういうことを考える奴の好きな作風はこういうんだよ」受け狙いの作品デモを作成するエドゥアール。活動資金を稼ぐ羽目になったアルベール。

 

けれど。「戦没者追悼記念碑コンクール」の主催者はエドゥアールの父親だった。

 

冒頭。西部戦線での修羅場シーンが「あれ?『ダンケルク』のノーラン監督居るんですか?という位しっかりしているんですね。砂にまみれ、疲弊した兵士達。緊張感。爆音と共に上がる砂煙。次々倒れ、亡き殻と化す兵士達…。

そこで語られるエドゥアールとアルベールの関係性。ただ同じ釜の飯を食った(日本人的表現)だけじゃない、互いが互いにとって、命の恩人。

「よくそんな不衛生な環境で感染症も起こさず…(当方の声)。」まさかの生還を果たしたエドゥアール。けれど顎を砕かれた彼のビジュアルは本人にとって耐えがたく。(ってそりゃあそうでしょうよ。)しかも声は出ない、ご飯も食べられない。痛みはモルヒネ等の強い鎮痛剤でしか緩和出来ない。

 

「パリに帰ってきた。けれどそれが何だっていうんだ。人前に出られる顔じゃなくなった俺が一体何が出来るというんだ。」「絵が描けるじゃないか。」

 

戦地に行く前。裕福な家庭で育ったエドゥアール。父親は不在がちで、金さえ与えておけばいいと考えている。なのに、自分が絵を描く事を許さなかった。

絵が描きたい。何かを生み出したい。姉は自分の絵を喜んでくれた。なのに。滅多に姿も見せない父親が。自分の才能を認めてくれない。…自分を認めてくれない。

 

なのに。戦地で知り合ったアルベールが。きらきらした目でエドゥアールに絵を描いてくれ、何かを生み出してくれと迫ってくる。

 

そして。たまたま配達で二人の住処を訪れた少女。怪我のせいで、声を失ったエドゥアールの気持ちを通訳出来る少女との出会い。彼女が仲間に加わった事で三人の結束は高まり。戦没者関連詐欺へと加速していく。

 

「計り知れない痛みを受けた者が復讐をする話…でもその対象者は二人。意味合いの違う二人。」「『天国でまた会おう』これは誰が誰に向けて言った言葉なんだろう。」

 

「今は戦争中だ」そう言って。混乱した現場で、仲間であろうが誰彼構わず銃を向けたかつての上司プラデル。そんなクズが今、のうのうと戦地から帰って来て。『戦没者関連事業』で財を得ようとしている。

確かに誰もが必死。なりふり構わず生きていた時代なのかもしれない…けれど…やっぱり許せない。しかもよりによってプラデルはエドゥアールの姉と結婚。二人の間に愛は無く、明らかにエドゥアールの実家の資産目当て。こいつは潰さなくては。

「また清々しいまでのクズ。彼には彼なりの悲しい事情が…とかが一切無いから…。」

最後。戦地でああ言った事を思うと感慨深い、そんな一言をプラデル自身に言わせて。そして陥った顛末。冷え切った当方の一言「因果応報。」

 

もう一つの復讐。それは戦地に向かう前まで、一切エドゥアールの才能を認めなかった父親。けれどこれはさっきのストレートな案件とは全く違う。

エドゥアールが戦死した」そう聞かされて。エドゥアールと関わる時間が少なすぎた。もっとエドゥアールと触れたかった。言うべき言葉があった。そう思い打ちのめされていた父親の元に、エドゥアールがかつて自宅で画いていた絵数枚を差し出した、エドゥアールの姉。

戦没者追悼記念碑コンクール。子を失った父親は、恐らく純粋な気持ちで企画した。

そこに寄せられた幾つかの作品デモ。どれもこれも似たような…なのに、一発で息子の絵を見抜いた父親。

これは…?何だか知っている。このサインは?この絵の作者は?

会いたい。この作者には何としても必ず会わなければ。会って話をしなくては。

 

父親側の心理描写はありませんでしたが。実際のあのシーンから察するに、絶対こういう気持ちであったと推測する当方。

何も俺の事なんか分かっていない。そう思っていた相手=父親からの言葉。

 

「あの爆発を受けた時俺は死んだ。こんな姿になって。それでも何故生きている。何の為に。何の為に。」

あの父親との会話の為…だったんじゃないですか。そう思った当方。だからああいう選択をしたんじゃないですか。

 

「天国でまた会おう」エドゥアールからのメッセージ。

一旦は死んだと思った自分に生きる価値をくれた人たちに。エドゥアール自身は生きる答えを見つけた。でもゴールは人それぞれ。「俺は先に飛ぶけれど。ゆっくり来たら良い。また会おう。今度は天国で。」

 

どうなんでしょうね。当方は大筋ではそういう話であったのだと。そう思っているのですが。

 

後、単純に美術が非常に美しい映画作品なんで、観ていて麗しい気持ちになる。

幻の様にはかなげで…残酷で。泣けてくるけれど、これはハッピーエンドだ。だっていつかまた会えるから。今度は素顔で。笑いあって。そう思う作品でした。
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映画部活動報告「アリータ  バトル・エンジェル」

「アリータ  バトル・エンジェル」観ました。
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木城ゆきと原作『銃夢』の映画化。ジェームズ・キャメロン監督作品。

近未来。かつて火星連合共和国(URP)と没落戦争があった。終結後300年後の地球。

そのビジュアルは砂時計。上層部にザレム-誰も見た事の無い楽園と、その下に退廃しきったアイアンシティが広がっていた。

ザレムから落ちてくるゴミ…。ごみ捨て場を漁っていたサイバー医師イド。偶然見つけたロボットの頭部…それを持ち帰り、手持ちのパーツをカスタムした結果生まれたサイボーグ戦士アリータの物語。

 

「氏の原作漫画全巻を持っている。だからこそ厳しい目で見たつもりだが…高得点だと思う。」

 

映画部部長からの重々しいメール報告…原作未読、仕事の都合でたまたま初日鑑賞を果たした程度の当方からしたら…「だってよ!」で終わらせても良いような気がしましたが。さらっと。

 

300年の時を経て。イドの手に依って新たな生を受けたアリータ。けれど以前の記憶は一切無い。

イドと共に生活。町を一緒に散歩して。全てが初めての景色。目新しくて。そこで出会った青年、ヒューゴ。

アイアンシティで大人気の競技、モーターボール。一つのボールを選手が争奪しながらゴールに投げ込む…ただしその争奪手段は荒手。魅せられるアリータ。

治安が悪い世界。不穏な犯罪者が跋扈する街で。懸賞金付きのお尋ね者を捉える『ハンター』という特殊な自警団。

夜な夜なそっと街に繰り出すイドの姿に初め「犯罪者なのでは?」と不安になり後を付けるアリータ。けれどイドは「診療所運営資金の為」小銭を稼ぐハンターだった。

追っていたお尋ね者に襲われ、窮地に陥ったイド。そこで反射的に反撃したアリータの脳裏によみがえった一部の記憶。その後徐々に「自分は300年前の没落戦争で作られた人型最終兵器(兵士)であった事を思い出すアリータ。そして。

「自分は一体誰と何の為に戦っていたのか。」「かつての相手は今。そして火星連合共和国の現状は。」「300年後の現在。自分が大切で守りたいものは何か。その為には誰とどう戦うのか。」

そういった事を描いていた…と認識しているのですが。

 

如何せん、こういう特殊レギュレーションが入り乱れたSF漫画が飲み込めない脳の構造なんで…しどろもどろ。ボロが出過ぎない内に撤退しようと思う次第。

 

『アリータのビジュアル問題』

「目は全てを映す鏡だ。だからそれが大きいという事は云々」みたいな事をJ・キャメロンは語っていましたがね。アバターのビジュアルからしてももう、彼の生み出す造形キャラクターの癖なんだろうと思う当方。

予告編等で違和感しか感じなかった、アリータのギョロ目。不思議な等身。けれど意外とアリータ誕生から5分後には何も感じなくなった。

寧ろ「CGでここまで動けて、こんなに表情が出せるんやなあ~」と感心。

そして、誕生の頃の小中学生くらいの体つきから、とあるきっかけでバージョンアップした大人の体に艶めかしさを感じた当方。

 

『モーター・ボール』

当方にはイマイチルールがよく分からんかったゲーム。会場の中、ローラースケート的なシューズを履いて、選手は一斉スタート。目の前を素早く動くボール。それを捕まえ、決められたゴールに投げ込むという、球技一般に通じるレギュレーション。けれどそこにはチーム等存在しない。あくまで対個人。加えてボールの争奪方法は無法地帯。互いに高速で動いているため、衝突・転倒は当たり前。それどころか敢えて他の選手に危害を加えたり…果ては殺したり。

「うーん。ハリポタで言う『クディッチ』ですか…嵌る人には嵌るんやろうスポーツシーンなんやろうけれど…。」歯切れの悪い当方。

(せめてその競技がきちんとゴールするまでを見ないと…後、本当にルールが無さ過ぎて…。)

 

『ザレムとアイアンシティ』

まだ見ぬ楽園。掃きだめみたいなこの世界からしたらさぞかし素敵な場所なんだろう。

行きたい。行ってこの目で見たい。触れたい。感じたい。アイアンシティに住む誰もが憧れる、空中都市ザレム。

一体どうしたら行ける?金か?コネか?だとしても一体誰に…。

そのコネクションを見つけた青年ヒューゴ。けれどその為に必死で貢ぐヒューゴのやって居る事はチンケな犯罪。不毛すぎて。

アイアンシティからザレムに何らかの物資を輸送しているエアシューターみたいなのはあるけれど。一体アイアンシティから何を送っているのか。

(一応それらしい答えは出ていましたが。当方は原作未読なんで好き勝手な事を言います…『底辺だと思っている者が憧れる楽園は大抵ディストピアなんだがな説』。アイアンシティの人間は体の一部が欠損したらサイバーな部品でそれを補うけれど、ザレムに住む者は逆で、最早人間としてのパーツが無いとか。)

 

『アリータのキャラクター』

兎に角「恋する女は綺麗さあ~」の世界。300年前は人型最終兵器という戦士。今もその精神は流れているけれど…その根底にあるのは「嬉しい・楽しい・大好き!」。

初めて見た世界。そこで出会った青年ヒューゴ。彼は何でも教えてくれた。チョコレート。モーター・ボール。二人でバイク(っぽいやつ)でドライブして。デートして。色んな所に連れて行ってくれた。色んな事を教えてくれた…人を好きになるって事も。(ポエマー当方)

「俺はザレムに行くんだ!」その為ならば。この心臓すらもあげる。賞金目当てでモーター・ボールにも出場する。

「その自己犠牲精神…個人的には疲れる…重い…あんたには自己意志が無いのか…なまじ元々のポテンシャルが高いんやから、こんな当方に合わせたらあんたの能力を無駄にしてしまうやないか…。」束縛されると爆死する当方。グイグイくるアリータに食傷。

 

己の潜在意識と能力。戦士であり、未だ続くこの世に生を受けたからには果たしたい任務。けれど。それとは別に。大切にしたい人が居る。

 

「そんなアリータが受けた、初めての恋とその結末。それが今後の原動力になっていくんでしょうけれど…ちょっと最後らへん駆け足でとっ散らかった感が…。」

 

『続編について』

「はっきり言って、続編ありきで作ってますよね。じゃないと余りにも投げっぱなし…。」もごもご語尾を濁す当方。と言うのも。

何しろ原作未読なもんで。今回全体のどこまでを描いたのかよく分からない。

全てを知る人達からしたら、良く出来た再現映像だったのかもしれないけれど…正直何も知らない者からしたら『俺たちの大好きなあの作品について語った会』というキャッキャ感が否めない。(当方にしては珍しく手厳しい発言)

 

「ならば…きちんと続編を作って、落とすべき所に落とすべきだ。」「それこそが『俺たちが大好きなあの作品』に対する、真摯な姿勢だろう。」そうはっきり言い切りたい…のですが。

 

「この作品の公開が延びに延びていた事を思うとな~続編なんていつになる事やら。」

 

ひとまず当方はブチブチ文句を言う前に、原作『銃夢』を読むべきではないか。そう思う所です。

映画部活動報告「パペット大騒査線 追憶の紫影」

「パペット大騒査線 追憶の紫影」観ました。
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「人間とパペットが共存する世界。パペットは二級市民として人間達にぞんざいに扱われていた。」

主人公のフィル。元LA市警警察官。しかもパペット初の警察官。しかしある事件から職を失い、現在は私立探偵事務所を構え、細々と暮らしていた。

ある日。事務所に訪れた、サンドラと名乗るパペット。『お前の秘密をばらすぞ』という脅迫状が送られてきた。犯人を見つけて欲しいとの依頼。

恐らくチラシ等からアルファベットを無作為に切って、それを紙に貼りつけて文章にした脅迫状。「この『P』の飾り文字…見た事あるな…。」

街にある、パペット専用のポルノショップ。そこにある作品の綴り文字と同じだと、ショップに訪れるフィル。しかしフィルが店の奥で顧客ファイルを調べている間、店内に何者かが侵入。店員と客が皆殺しに会ってしまう。

殺人(人⁈)現場と化したポルノショップ。駆けつけてきたのは、警官時代にフィルとバディを組んでいたコニー・エドワーズ(メリッサ・マッカーシー)刑事。

「ただの強盗事件だ。」パペットなんかただの綿袋だと馬鹿にするコニーと、ひと悶着するフィル。

しかし、その直後。フィルの兄で俳優のラリーが、何者かが放った犬に噛みちぎられて殺された。

「これは…関連性があるのでは。」

ポルノショップで殺されたパペットとラリーの共通点。それは昔、人間とパペットが共演して人気となったコメディ作品『ハッピータイム』の共演者だった。

かつてのボスから再びバディを組めと言われ。一体これはどういうことかと奔走するフィルとコニー。しかし共演者たちの連続殺害は収まらず…。

 

「大人のセサミストリート。」

 

全くのノーマークでしたが。2月22日公開直前、おもむろに目にしてしまった今作の情報。「セサミストリート…だと…?パペット…。」

中学生当時。「英語を学ぶならセサミストリートがお薦め。」という何処からかの声に。NHK教育番組で何回か見た記憶。正直あまり嵌らなかったので、継続して見続けた訳ではありませんが。ですが、鍵っ子だった当方は幼少期から、NHK教育番組でやっていた数多の人形劇やパペットと人間の寸劇に散々触れてきており。グッチ雄三とパペット仲間がエンタメを繰り広げる『ハッチポッチステーション』なんかも大好物。

「人間とパペットが共存する世界線で映画作品を⁈」ワクワクする気持ちを抑えつつ、映画館に向かったのですが。

 

「全身の力を抜いて。空っぽの頭で楽しめる作品でした。」

 

アメリカ本国ではR指定だったのに。何故か日本ではPG-12。とは言えこれ、中学生が傍に居たら気まずくなりますが…幸いどう見ても周囲はR18以上の観客陣。当方、安堵。というのも。

 

「エロ。グロ。エロ。薬物でのハイテンション。エロ。」パペットならいいのか。まあ、確かにコレ人間でやったら一発退場だと思いますけれど。

 

「ポルノショップでの結構赤裸々なプレイやエログッズ」「綿が飛び散ったり、ずぶ濡れでぐしょぐしょの死体」「あ。パペットにとってはこれが薬物なんだ」「パペット同士のセックスってこういう…」「にしても!それ…白いの!どういう体の仕組みだよ!」「そのチラリズム、結構です」そんな、およそ中学生には説明出来ないシーンの連続。(それでも「どういうこと~?」って無邪気を装って聞いてくるガキんちょには「うるさい!早く寝ろ!」と大人の理不尽ぶつけますよ。当方は。)

 

まあ好き放題。アメリカ本国でラジー賞候補にノミネートされまくった、本家セサミストリートから怒られた、そんなエピソードも納得の人形劇。ですが。

 

監督、ブライアン・ヘンソン。『セサミストリートの人形作家、ジム・ヘンソン』という超一級の父親を持ち。母親、姉、ブライアン本人皆パペット使い。まさにパペット家族。

そんな監督が筆頭なのもあって。「パペットの動きよ!」「すげえええ!」「どうやって動かしているんだ!」「どうやって撮っているんだ!」の連続。(エンディングの最中流れていたメイキング画像に釘付け)

 

お話自体は…おバカを全身に纏いながらも、まま王道なバディもの。

昔腕を慣らした名コンビ。けれどフィルの失敗によって無関係な一般市民を傷つけてしまい。そしてコンビの間にも亀裂が生じ。そのまま月日が流れ…早12年。

しかし。今回新たに勃発した連続殺人(人?)事件。そしてきっかけとなったある依頼。それらは一見なんの関連性も無いと思われたが。実は実は。という。

 

元警官のハードボイルド探偵フィルも良かったですが。相棒の人間刑事コニーがまた最高でしたね。ぱっと見はただの太ったおばちゃん。豪快で。一見パペットを馬鹿にしているけれど、意外と人情深い。そして実は彼女には秘密が…。

探偵事務所の秘書。あのナイスバディ。キュートな人柄。当方も傍に居たら好きになっちゃうタイプ。

そしてフィルの元彼女。『ハッピータイム』に出ていた女優(人間)。今はポールダンサー。そのアバズレ感。(余談ですが。彼女がニンジンを噛みながらポールダンスをしている時、客のウサギが「俺の中のピーター・ラビットが目覚めそうだぜ!(言い回しうろ覚え)」と言った時。声を出して笑ってしまいました)

パペットも人間も軒並みキャラが立っている。しかも…あの世界線マジックなのか、悪者すらも全然嫌いにはなれない。寧ろ好き。

 

「これは…加害者でもあるけれど被害者でもある。」「そもそもの全ては12年前、あんな事にならなければ…。」なあんて真面目に考えるのは野暮。だって作風がドライだから。くよくよすんなって!結果オーライ!(あんなに人(人?)が死んでいるのにな)

 

「得意分野は変態映画です。」映画部員として聞かれたらそう答えてきた当方。これは立派な変態映画。大好物の、全身を弛緩して観る事が出来る作品。でしたが。

 

「PG-12とは言え。中学生にはお薦めしないし、中学生どころか、おふざけの心が無い人とセサミストリート好きには怒りすら込み上げる危険性がある。」そう忠告。

 

非常に観る人を選ぶ作品。当方は大好きです。

映画部活動報告「女王陛下のお気に入り」

女王陛下のお気に入り」観ました。
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ヨルゴス・ランティモ監督作品。

 

18世紀のイギリス。アン女王(オリヴィア・コールマン)。国を統治する立場でありながら、その身体及び精神は不安定。そんなアン女王を心身ともにサポートしていた、アン女王の幼馴染で親友のマールバラ侯爵夫人=サラ(レイチェル・ワイズ)。

しかし二人の関係は次第に政治的な分野にまで波及し。最早サラの傀儡同然となっていたアン女王。

おりしもフランスと戦争中の時代。微妙な戦局。このまま戦争を続けるのならば、軍資金として国民の税金を上げる決断をしなければならない。けれど実行すれば国民の不満を買うのは必須。一体、女王としてどう振舞うのがベストなのか…。

 

そんな時宮中に現れたアビゲイルエマ・ストーン)。没落貴族。遠い親戚であるサラを頼ってやって来た。移動途中馬車から落ち、泥だらけの姿で。

 

貴族?馬鹿馬鹿しい。父親の借金のカタに15歳で身売りされた、今はただの小汚い若い女。せいぜい女中どまり。そこで骨をうずめる…そう思われたのに。

 

加齢。過剰な食生活。運動不足。…肥満。糖尿病。ある夜、女王が痛風発作で苦しんでおり、その処置に呼ばれた女中に同伴したアビゲイル。しかしそれは患部に冷やした肉を貼りつけ、包帯で巻くというお粗末なもの。(余談ですが。あれ、一体どういう状態なんですか?当方は『痛風』って尿酸が溜りに溜って神経痛を起こす病気だと認識しているんですが。皮膚ボロボロになっていましたけれど…あれって『蜂窩織炎』じゃないんですか?「女王は糖尿病云々」というセリフもありましたし…痛風発作も起こしているんでしょうけれど。何らかの傷をきっかけに炎症が収まらなくてああなっていたんじゃないんですか?)

明らかに炎症を起こしているその皮膚に合う薬を、と女王が寝ている間寝室に忍び込んで自作の薬草軟膏を塗るアビゲイル。捕まって。

不法侵入の罪で鞭打ちの罰を受けている最中。女王に呼ばれたアビゲイル

 

それをきっかけに。女王の寵愛を受け始めるアビゲイル

初めはおどおど。次第に虎視眈々と『お気に入り』の座を仕留めていくが…。

 

「これ。スポ根コメディ作品ですわ。」

 

孤独で不安定な女王。その女王を操る、女王の恋人。そこに乱入してきた没落貴族。

「あの二人…親密だなと思ったら…ヤッテんの!(作中には無い、下品な言い回し)」。アン女王とサラの関係を偶然知ってしまったアビゲイル。けれど「私はもっとエロいことが出来るわよ!」という発想の転換。「あの子。口でしてくれるの。(作中にあった、下品な言い回し)」

「私を愛してくれる?」「貴方は私のもの。私だけのもの。」「何が何でものし上がってやる」そんな三つ巴の攻防戦。

 

こまごまとした手口はすっ飛ばしますが。アン女王の恋人サラと成り上がりアビゲイルのアン女王を取り合う、丁々発止の闘い。

「これでどうだ!」「はっ。甘いな小娘が!」「うぬう…ではこれはどうだ!食らえ!」「うわあ!やりやがったな!」そんなスポーツさながらのやり取り。全然情緒なんて無い。(まあでも。この内容をドロドロにやられたら、ただのメロドラマになってしまって食傷した予感がします)

けれどその中心に居るアン女王ときたら「私を取り合うなんて…(うっとり)」という「喧嘩をやめて~二人を止めて~私の~為に~争わないで~」という、舐めに舐めたまったり声すら出さない塩梅。

 

この三人の女性の中で。当方が好きだったのはサラ。

アン女王の幼馴染(全然見た目年齢が合っていませんでしたけれど)。少女だった時から二人は一緒。女王と侯爵夫人と身分は違うけれど、昔からの付き合い。それ故にずけずけと周囲には言いにくい事も指摘出来る。

「立場こそ女王だけれど。あの子は私が居ないと何にも出来ない甘ったれ。」そんなセリフは無かったけれど。間違いなくそう思っている。そう確信する当方。

アン女王に対して彼氏面で接していたサラ。けれど。

 

アン女王。17人の子供を妊娠したけれど。誰一人として成人まで育たなかった。その代償として17匹のウサギと暮らす女性。…というしんみりエピソードも持ち合わせては居るけれど。

不安定なメンタル。誰かが寄り添っていなければどうしていいのか分からない。だからサラや、ポッと出のアビゲイルに舵を取られてしまう。

「何と言うか。彼女にまともな忠臣がいない事が本当に不幸だと思う。ちゃんと中立で客観的な視点でアドバイス出来る人物(恋愛感情無し)が居たら…意外と職務を全うできそうな気がするのに。女王に寄ってくる奴らが軒並み自己主張したい奴過ぎて。」「後、精神年齢が女子高生(女子ばっかりで仲良しこよし)。」

あかんたれよのう。しっかりせんと。あんたは一国一城の主やのにのう。当方、溜息。

 

成り上がり没落貴族、アビゲイル

サラ贔屓の当方なんで。アビゲイルは「この泥棒猫が!叩き出してしまいたい!」の一言。狡猾で図々しい。

初めこそ大人しく。けれどひとたびチャンスを得たと思えば、必死にしがみついてくる。

何故。何故あんたがのし上がる為に私たちの安定の地を提供しないといけないの。私たちは閉ざされた空間でひっそり楽しくやっていた。何故あんたがそこを踏み荒らすの。何故私がここから追い出されるの。

私たちは心で繋がっていた。体も繋がっていたけれど。私たちには共有した時間と経験と、そこから生まれた信頼関係。そして愛があった。だから繋がっていた。

あんたには何もないくせに。あんたはただ自分の欲だけでアンに近寄った癖に。(サラ拝当方)

 

イギリスとフランスの戦争。不安定な情勢と経済。政治家や軍人はここぞと女王に取り入って自分の思うように国を動かしたいと画策するけれど。「私はそういう事には加担しない」ガンと突っぱねるアビゲイル

 

「じゃあ貴方が最終的に手に入れたかったものは一体何だ。」呟く当方。

 

貴族の地位?贅沢な暮らし?

徹底的にやり合って、相手から全てを奪って。貴方は何を手に入れたの?

 

思わず映画館がどよめいた幕切れ。あのぼんやりと瞼を閉じるような不親切なラストに『散々殴り合った後、疲れて眠りに落ちる真っ白なアイツ』を連想してしまった当方。

 

これはスポ根コメディ作品。

散々打ち合って、疲れたらお休みなさいです。

映画部活動報告「赤い雪 Red Snow」

「赤い雪 Red Snow」観ました。
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30年前の雪の日。自宅で鳴った電話。それに出た幼い弟が「今から出かけてくる」と言った。

母親に頼まれて後を追った兄。なのに。

いつの間にか弟を見失った。永遠に。

 

あの日あの時。一体何があった。弟と自分に何が起きた。

 

思い出せない。けれど。恐らく…いや、アイツは絶対に見ている。知っている。自分たち兄弟に何が起きたのか。

 

「みんなお前が悪いんだろ」

 

今作品が長編映画デビューの、甲斐さやか監督作品。

弟を失った傷をずっと抱える、主人公白川一希を永瀬正敏。当時起きた一希の弟失踪を初め、地元の不穏な事件諸々に関与していたと思われた(そして限りなくクロに近い)女容疑者の娘、江藤小百合を菜菜菜。事件の真相を追う記者、木立省吾を井浦新が演じた。

 

こんなにも冬が。雪が。寒々しい日本映画は久しぶりでした。

 

雪の醸し出す白。けれどそれはべしゃべしゃの水気を含んだ灰色から泥色。背景も概ね暗く。その中で映える赤は朱色で。そんな独特のコントラスト。

 

永瀬正敏井浦新。何だかびっくりする位豪勢なキャストの中で。やっぱり圧倒的な存在感を見せた、菜菜菜。」

 

自殺サークルがデビュー作品だったと知って。「なるほどなあ~」と唸った当方。兎に角不穏な雰囲気を終始漂わせた怪物俳優。この作品に於いて最大の要。

 

30年前。小さな田舎町で起きた少年失踪事件。けれど。その前後からたびたび起きていた不審な事故死や火事。それら一連の出来事に関わっていたと思われる、ある女(夏川結衣)。

娘と二人暮らし。手ごろな男を見つけては取り入って。体のいい所で殺してしまう。そういう手口に違いないのに。何故か捜査網を潜り抜けてしまう。警察は何度か彼女を捕まえているのに。ヘラヘラを笑いながら黙秘を貫くばかり。結局逃げられr、現在は消息不明。そうして30年の月日が経った。

 

「居るんですよ。あの女の一人娘が。あの島に住んでいるんですよ。」

 

記者を名乗る木立が見つけ出した『あの女』の娘、江藤小百合。

まさか。自分が未だに住んでいる、この場所のすぐ向かいにある小さな島に。アイツもまた…抜け出せなくなっていた。

 

「一体何があったのか。」

 

母親のネグレクトから学校に行かせてもらえず。ずっと家の隅に押し込まれていた小百合。日々行われていたDV。そんな中、入れ替わり立ち代わり訪れていた男。全てのやり取りを見ていたはずの小百合。

アイツなら知っている。一体あの雪の日に。何が起きたのかを。

 

現在は寂れた旅館で清掃スタッフとして働く早苗。一人で雑に働く最中、客の鞄や財布から金を抜いて。

「何だか怖いんです。」早苗のふてぶてしい態度に他のスタッフは怯え。そんな反面、男性スタッフとの体の関係も匂わせる。自転車通勤の途中、立ち寄る雑貨店(田舎あるある日用品+食料品を置いている個人商店)では手慣れた手つきで万引き。

「碌な大人になっていないな~。」顔をしかめる当方。

小さな島の外れにある、小さな家(小屋)。そこに年上の男性(佐藤浩市)と住む小百合。

 

「こんな汚らしい佐藤浩市はなかなかお目に掛かれないな。」

インテリ崩れを装うけれど。はたから見たらただの酒臭い汚いおっちゃん。働かず早苗にくっ付いて朝から晩までずっと飲んでいる。どうやら彼は早苗の母親の元恋人で、かつては早苗の母親に金目の男を紹介していたらしい。早苗の母親が姿を消した今は早苗の元にずるずる居座っている。

「汚いけれど…佐藤浩市って元々醸し出している雰囲気が『しっかりした小奇麗な人(当方比)』やからなのか。違和感…。いっそ不健康に痩せて髪の毛も散らかしてみたらいいのに…。」勝手な事を思う当方。濡れ場なんかもあるんですが…もっとえげつない感じでもいいのに(本当に勝手)。

 

閉鎖された空間。すたれた生活を送っていた所に。突如現れた、木立省吾と白川一希。二人の男。彼らは昔早苗見たものを吐き出せと言う。

 

「被害者と加害者。はたから見た立場ははっきり分かれているけれど。全体像が見えた時。その境界線は余りにも紙一重。」

 

記者木立の要求は「真相を知りたい」。けれど。一希の「知りたい」は違う。「言って欲しい」。

 

弟の失踪に対しあやふやな記憶しかない一希。あの時弟は「~ちゃん(友達)のお家に行ってくる」と言って自宅を飛び出した。後を追った自分は、何故弟に追いつけなかったのか。弟の姿を見失った時、当時早苗親子が住んでいたアパートの前に居た。けれどそこから自分がどうしたのか思い出せない。

何故「弟は川に行った」と言ったのか。分からない。どうして。どうして。

母親は弟を探し回り。終いには発狂し。結局家族は崩壊した。

自分のせいか。あの時弟を見失った。真実を思い出せない自分のせいか。

 

「真実は一つな訳じゃないですか。」作中、とある人物が発した名探偵コナン風発言。

教えろ。お前は全部見ていたじゃないか。母親と同じだんまりか。何でも良いから言え。逃げ惑う早苗に畳みかける一希。

 

「みんなお前が悪いんだろ。」

 

弟に実際に手を下した人間が居る。けれど。じゃあお前はなんだ。

分かっていたじゃないか。あの女の存在も。こんな場所で居なくなった弟は何をしているのかも。お前は日ごろ弟に対してどう思っていたのか。これはお前が望んだことじゃないのか。

 

確かに真実は一つ。けれど。そこにどういう意味付けをするのかは個々に依って違う。

一希が望んだ、彼の答え。それは「お前が悪い」。

自分でそう導きだすのは怖い。だから『見ていたはず』の早苗にそう言って欲しかった。

 

~と。そう解釈した当方。けれど。

では『見ていたはず』の早苗はどう解釈しているのか。

 

正直、最後の二人が佇むシーン。「一蓮托生。ってやつですか…。」散々持ってまわった丁々発止を繰り広げてきた割に、風呂敷を畳まずに投げて来た感じが否めず。すっきりしない当方ですが。

 

「早苗は過去のいろんな事件現場を見てはいるけれど。恐らく彼女は初めからはまともに語らないだろう。彼女に真相を求める者は、常に己にとってに欲しい言葉を要求するから。事件が起きた当時ならまだしも、年月が経った今。『~だからこうなったんだろう』の確認作業をしたいだけだから。」「ただ。時間を掛けて互いの話をすり合わせて行けば、真相はシンプルな方向に収束するのかもしれない。」

 

霧の中。同じ泥船に乗った二人は。一体どうなるのか。

 

モヤモヤとすっきりしない。歪で不穏で…印象的な作品でした。

映画部活動報告「バーニング 劇場版」

「バーニング 劇場版」観ました。
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1983年に発表された村上春樹の短編小説『納屋を焼く』の映画化。イ・チャンドン監督作品。第71回カンヌ国際映画祭にて『万引き家族』と共にパルムドールを争った(らしい)。

村上春樹かあ…何だかんだまともに読んだのは『ノルウェイの森』くらい。」それも当方の感想としては「ワタナベの奴、入れ食い状態やな!数多の女がアンタに抱かれたがっているぞ!」という茶化したもの。今回の原作も未読。映画も意識していませんでしたが。

 

「何だか…とても高評価の嵐。何だ何だ。このうねりは。」劇場公開後。どこかしらからか聞こえてくる声。声。そうなるとうずうずしてしまって。

 

「なんともまあ。映画らしい映画であったことよ。」

 

アカデミー賞関連やらの大型映画が次々封切られる中、下手したらいつの間にか公開終了してしまいそうでしたが。何とか鑑賞。結果溜息。これは映画館で観る映画案件。

 

「一体どういう照明や器具を使えばこんな夕暮れや闇が撮れるんだ…。」

 

大学文芸創作学科卒のイ・ジョンス。小説家志望。現在は運送配達のバイトの傍ら、文章をしたためる日々。

ある日。店先で呼び込みをしていた女性に声を掛けられたジョンス。彼女はジョンスと同郷のジン・ヘミと名乗る。整形し、こうやってイベントコンパニオンを生業にしていると。「今夜一緒に飲みに行かない?」一風変わったヘミにグイグイ引き寄せられるジョンス。

「アフリカ旅行に行くの。その間飼っている猫に餌をあげて欲しい。」後日ヘミのアパートに訪問。流れるようにセックスする二人。(THE春樹イズム:当方の造語)

ヘミが旅立った後も実家から彼女のアパートに通い、一向に姿を見せない猫に餌をやるジョンス。

北朝鮮との国境直ぐの村。常に北朝鮮のスピーカーからの放送が響く、ぽつんと立った田舎の一軒家。そこに一人で住むジョンス。

というのも、実家に一人で住んでいた父親が公執行妨害で逮捕され拘留、裁判中だから。母親はとっくの昔に家族を捨てて不在。父親が細々と酪農を営んでいた実家にはまだ牛が居て。放ってはおけない。

うらぶれた田舎でくすぶる日々。書きたいものも特になくて。折角ヘミと出会ったのに。もんもんと己を持て余すジョンス。そこに掛かってきた、ヘミからの帰国の一報。

翌日喜び勇んで空港に向かったけれど。そこにはヘミと親し気に笑い合うハイソな男性、ベンが居た。

 

何だか随分丁寧にここまでの話をなぞってしまった。これではあらすじを書くだけで終わってしまう…という事で軌道修正しますが。

 

当方だって文筆業じゃないし…何様だと言われればそれまでですが。これだけは言える。「ジョンスは小説家にはなれない。少なくとも今の彼では。」

 

自分以外の人間に対する視野の狭さ。想像力の無さ。それは若さだけではない…様に見えた。育ってきた環境や…貧しさ故の卑屈感なのか。

 

退屈な毎日に突然現れたヘミ。「可愛くて我儘で強引。一回セックスしたくらいで好きになってんじゃないよ!童貞か!:当方の声。」って、多分童貞か似た様なもんだったんでしょうけれど。しかも出会って盛り上がった直後(物理的に)会えない日々が続いた事でマックスまで募る恋心。なのに。

待望の再会なのに。新しい男を連れて来た。しかも年上のイケメン、高収入。生活レベル故の余裕なのか、落ち着いた佇まいのベンに押されるジョンス。

案の定、ベンにヘミを持っていかれるジョンス。恋人同士な二人は楽しそうだけれど…何だかへミが道化に見える時もあって。そしてある日。突然へミは姿を消した。

 

「年老いた当方からジョンスに告ぐ。へミはやめておけ。手に負えん。」

 

デートで突然ジョンスの家に遊びに来たヘミとベン。庭先で三人で始まる酒盛り。そして訪れたマジックアワー。

 

若い。けれどそれがいつまでも続かないと知っている。自分は確実に老いて朽ちていく。子供の時。この景色の中をジョンスと走り回った。でももうここに居場所はない。もう子供ではいられない。何処にも居場所はない。なのに。

 

何故この夕暮れはこんなに美しいのだろう。

 

ヘミの親が語っていた絶縁状態や、他のコンパニオンの言葉なんかも合わせると、「恐らくへミは深刻な金銭トラブルに陥っていて。身から出た錆で失踪又は拉致されたのだろう」と考察する当方。それが彼女が消えた真相ではないかと。

 

 

そうなると、一番割を食ったのが、無邪気で無神経なベン。

「決して悪意は無いんよな~。ただ育ちが良くて薄っぺらいだけで。」それだけなのに。

金も時間も持て余しているベンにとって、ヘミは新しいおもちゃ。可愛くて、くるくる動いて。これまでもこういうおもちゃは常に手元に置いてきた。けれどヘミにはジョンスという付録が付いてくる。それが違う。

 

「僕の趣味はビニールハウスを焼く事です。」「今日も下見に来たんです。」「二か月に一回くらい…丁度今ぐらいかな。君の住むこの家の近くで。いいのを見つけました。」

 

ジョンスとヘミとベン。三人か交差した、奇跡みたいな夕暮れ。踊りつかれたヘミが眠ってしまった所で、おもむろにベンがジョンスに語ったサイコパス趣味。

直後、ヘミが姿を消した。

 

「ミカンがあるかないかじゃなくて。ミカンが無い事を忘れればいい。」

 

ジョンスとヘミが出会った日。二人で行った居酒屋で。「最近パントマイムを習っているの。」とミカンを剥いて食べる仕草をしてみせたヘミ。「上手いもんだな。ミカンがあるみたいだ。」と関心したジョンスに、ヘミが返した言葉。

 

何があって、何が無いのか。目の前に見えているもの。誰かが発した意味深な言葉。金銭的なステータス。自分の目の前にあるものだけで判断しては、相手の本質を見失ってしまう。

 

ビニールハウスを焼くとはどういうことなのか。

 

ストレートに受け取って。そこからは「ベンがヘミについて何かを知っている」と破滅に向かうジョンス。そうなると途端に雪だるま式に加速。「ちょっと待て。ちょっと待て。」「何かジョンス…上手くいかない全ての憤りをぶつけていないか?⁉」痛々しい位に驀進するジョンスに心の中で声を掛けるけれど。当然届くはずもなく。

 

それは…かつて「父はかっとなると何も見えなくなるんです。」と語っていた貴方の父親と同じ事をしているとはいえないのか?ジョンスよ…。

 

けれど。この判断で救われた者もいた。あの最後の表情で。そう思った当方。

(もう随分分かりにくい書き方をしていて辛い。ネタバレ回避を死守すると、ポエムにしかなりません。)

 

「なんともまあ。映画らしい映画であったことよ。」

 

一体ジョンスはこれからどうなるのか?そう思うのに。目を閉じると、あの奇跡の様な夕暮れのシーンが浮かんで。何かが込み上げてくる当方です。