映画部活動報告「マイ・エンジェル」
「マイ・エンジェル」観ました。
マリオン・コティヤール主演。バネッサ・フィロ監督作品。
南仏コート・ダジュールの海辺に住む親子。シングルマザーのマルネール(マリオン・コティヤール)と8歳の娘エリー(エイリーヌ・アクソイ)。
マルネールは素朴で誠実な青年ジャンと再婚。その結婚式でお話の幕は上がる。
両家の親族と仲間たち。楽しい結婚式。けれどいつものごとく調子に乗って酒を煽るマルネールに依って、式の雰囲気は次第に台無しになっていって。
挙句、酔った勢いで招待客と不埒な行為に及んでいる現場をジャンに見られてしまったマルネール。成田離婚よりもっと早い時点での破局。
結局また母子二人の生活に戻ってしまった。
元々定職にも就いておらずその日暮らし。遂にはカードも止められ。ケースワーカーの家庭訪問はやり過ごしたけれど、心機一転生活をやり直そうという気力が湧かず。
そんなマルネールをクラブに連れ出す悪友。案の定、その日知り合った男と意気投合。エリーを置いて出て行ってしまった。
「マリオン・コティヤールって、結構真面目な役柄が多いイメージやったけれど…。こういう役も出来たんやなあ。酒にも男にもだらしない、大人になれない子供。だらしない体つきまで仕上げてきて…。」
『ビッグ・フィッシュ』『インセプション』『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』…最近では『サンドラの週末』『たかが世界の終わり』エトセトラ。エトセトラ。
多くの映画作品で彼女を見かけてきたけれど。今回は今まで見たことのないマリオン・コティヤール。
「身も蓋もない言い方をすると。育児放棄したダメな母親と、置き去りにされて崩れ落ちそうになった娘の話。」なんですが。
「あのさあ。あんた母親っていう立場を選択したんやろう?だったらいい加減大人にならんと。娘が可愛いんやろ?」「いい年してそんなアホみたいな恰好して。何?その服。化粧。はしたない。周りの同じくらいの人間見てみ?だれもそんな恰好してへんで。」「あんた、誰とも寝るから重宝されてるだけやで。陰では皆笑ってる。はっきり言って、旬は過ぎてるんやって。落ち着けって。」
当方の心に住む夜回り先生の説教。THE正論。マルネールに対する、至極真っ当なご意見にうなだれる当方。心が痛い。
「何故なら…当方は酒飲みだからだ。しかもどうしようもない系の。」
大切な場で緊張しないように酒を煽る。そしていけない歯車を回してしまう。ここまでの人生ハイライト体験はしでかしたことはありませんが。…共感性羞恥。いたたまれない。
酒でやらかした失敗。けれどそれは「酒のせい」ではない。要は潜在意識があったからこその行動だし、記憶があろうがなかろうが取り返せない、ごまかせない。そういう致命的な失敗に依って、手に入るはずだった幸せを台無しにしてしまった。
「多分だけれど。マイネールにはどこかで「私なんかが幸せになれるはずがない」みたいな無意識な思いがあって。だから幸せになれそうになったらぶち壊しに掛かってしまうんじゃないか。」
当方的に「ああ。分かる…。」と思ったシーン。心機一転家中の酒を流しに捨てて片付けて。ジョンに「私変わるから」と電話して…でももうジョンにはすっかり愛想を尽かされているから電話にも出てもらえなくて。で結局また酒を買ってしまう~あああ~(涙)。
「でもさあ。あんた一人やったらどうにでもなったらええけど。あんた子供居るやん。」
全然引き下がる気の無い夜回り先生。そりゃそうだ。マルネールがいつまでたっても子供だなんて本来エリーには全く関係ない。
「あんたは勝手に朽ちていったらええけど。8歳の子供を振り回してんの、どうよ?」
そう。この物語の本当の主人公はマルネールの娘、エリー。
問題があり過ぎるマルネールだけれど。娘エリーを愛している事は揺らがない。エリーを「マイエンジェル。」と呼んで、可愛く着飾って、お揃いのメイクをする。決して手をあげたりしない…けれど。
「身体的な暴力をふるったりはしていないし、愛情は注いでいるんやろうけれど…大人が乱れる場に連れ出したり…結果率先して破廉恥な親の姿を見せて。挙句育児放棄で恋人と駆け落ちって。立派な虐待案件。」
流石の酒飲み仲間当方もマルネールを擁護しきれない事態になっていくけれど。何が悲しいって、エリーがマルネールを大好きで求めていたこと。
綺麗なママ。ダメなところもあるけれど、一緒に居たらぎゅってしてくれる。一緒にお風呂に入って、可愛くお化粧してくれて。遊んでくれる。だからずっと二人がいい。なのに。
一緒にクラブに行ったきり。タクシーで一人自宅に帰らされた後、ママは帰ってこなかった。
「学校よ!早く!早くエリーを然るべき施設に保護させてやって!死ぬって。」
うわあああ~叫びたくなる、一人になったエリーの生活。
あれ。正味どのくらいの日にちだったんだか分かりませんでしたが。8歳の子供はたった一日二日でも一人では生きていけない。そう思うんですがね。
結局エリーが見てきた親の姿。それがああいうエリーを生み出した。流石の酒飲み当方も震える光景。これはあかん。絶対にあかん。
母子の住む部屋の前に暮らす老人。彼の元を何度も訪れていた青年フリオ。ドア越しで不毛な往来を続けていたフリオに付いて行ったエリー。
「危ねええ。そいつがおかしな奴だったらどうするつもりだったんだ。」肝を冷やしたけれど。至極真っ当な人物だったお陰で助かったエリー。
紆余曲折あって、今は一人でトレイラーハウスで暮らしているフリオ。かつてあった事。今の自分の状態。独りぼっち。そんな孤独に引き寄せられ、共鳴していく二人。
母子二人の世界が全てだった。けれど強制的に一人になった。私にはパパもママもいない。いるのはフリオだけ。
勝手な大人の事情に散々振り回されてきたエリーが。地団太踏んで感情を爆発させた瞬間。とはいえフリオだって8歳の少女を受け止めることなんか出来ない。
この後、怒涛の「大風呂敷を畳んでいく」展開になっていくのですが。
「一体これはどうなるのが正解なんだ。」映画鑑賞後、ずっと頭の中をぐるぐる回って。結局落としどころが見つけられなかった当方。
「母親マルネールはとりあえず心療内科か精神科に行って治療を開始。家庭の経済的問題は行政に保護して貰う手続き(生活保護)を。エリーは児童保護施設に入所。流石に他人のフリオが面倒を見る義理は無いし、時々面会とかしながら友情を温めてくれ。」
淡々と語る当方心の夜回り先生。おそらくそれが一番自然な打開策なんだと思いますが。
「海に消えようとした人魚姫を。助けに来てくれた王子様がいた。それだけで彼女は強くなれる。じゃあ、これからの彼女にとってベストな選択は?」
難しい。答えが出せない。美しく幕は降りたけれど…一体エリーはどうなるんだ。そしてマルネールは。フリオは。
むしろこの後の彼らを観たい。極力幸せな展開で。そう思った作品でした。