ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「パターソン」

「パターソン」観ました。
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ジム・ジャームッシュ監督作品。

ニュージャージー州、パターソン市に住むパターソン。バス運転手。

妻のローラ、ブルドックのネリーと。二人と一匹で暮らし。

朝6時15分~30分頃起床。シリアルを食べ、出勤。市営バスを運転。昼は決まったベンチで妻の作った弁当を食べ。帰宅。妻と夕食の後、犬の散歩がてら行きつけのバーで一杯のビールを飲む。そして就寝。

月曜日から金曜日。判で押した様にそのスケジュールで進行する平日。そして、幸せで…不幸な休日。そんなパターソンの一週間のお話。

 

まったり。映画としての、華々しい事件や見せ場がある訳じゃ無い。食事の後に観に行ったら。下手したら心地よく眠りに落ちてしまう映画。

でも…何だか嫌いになれない。寧ろ好きなタイプの映画でした。

 

基本的には同じ毎日の繰り返し。でも。決して同じ日なんて存在しない。

 

「またこのパターソンの浮世離れしたキャラクターよ」

 

朴訥として。毎日を淡々と過ごす。いつもノートを持参して。自作の詩をしたためる。何にでも興味があって(そしておらくすぐ飽きてしまう)妻には「絶対に才能があるんだから」と詩のコピーを取って見せろと言われるけれど、あんまり乗り気では無い。

「無くても困らない」と電話は携帯せず。

あんまり自分から話さないけれど。不愛想では無いから、人から嫌われたりしない。

 

「こういう距離感で人と付き合えるという稀有な存在」羨ましい。

 

かと言って、人嫌いではない。バスで乗客が話す内容は気になるし、コインランドリーで一人歌を作る青年にはエールを送る。行きつけのバーの、マスターや他の客に話掛けられたら対応するし、誰とも話さなかった日はちょっと寂しい。

 

「そういう無口で大人しい人物の内側に流れる、美しい日々よ」

 

また絶妙なテンポと、どこかおかしな人達。

初めに双子の話をしたからか。何故か随所に現れる双子達。バス会社の社長。本人は必死なのに、道化に見えてしまう恋を失った男。街で出会う人たちも…結局は悪者の存在しない、優しい世界。

 

「そして。妻ローラとブルドックのネリーの愛おしさよ」

 

専業主婦のローラ。(小島聖系美人)色んな事に興味があって。そして自分には才能があると信じている。パターソンの一軒家は常にローラのDIYに依って改造。何だか落ち着かないセンスのカーテンやラグも手作り。カップケーキの店がどうのこうのとか。そして唐突に高額なギターを買いたいと言い出し。

「今日はキヌアの何とかよ」「今日は疲れたからピザを取ってもいい?」

「疲れる…」仕事が散々だった日位、美味しいものを食べたい。当方なら思わずそう愚痴ってしまいそうですが。

「妻をとても愛している」戸惑う表情はするけれど。決して妻を責めたりしない。

まあ。下手したらアレ過ぎるローラですが…結局は愛し合う夫婦。

いつもと違う事があったら夫を心底心配し。自身は自由でエキセントリックだけれど、大人しくて穏やかな夫を見下したりする事は絶対にしない。(そういう発想が無さそう)

 

そしてブルドックのネリー。

「犬ってこんなに演技が出来るんやな…」あのポスト。可愛らしい。

 

一週間を描く中で。何回か訪れた、パターソンの世界を揺るがせた出来事。パターソンのスタンスに対する内外からの疑問符。それに抗うパターソン。そして決定的に事態を変えた土曜日の夜。

 

「ああ。ここで永瀬正敏が出るのか」日曜日。

落ち込むパターソンの背中を押した。日本人旅行者。
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(本当に馬鹿みたいなんですが。永瀬正敏が「これ」と言って鞄に手を入れた瞬間。「飴ちゃんか?!」と思ってしまった当方。だって…永瀬正敏が大阪云々って言うから…大阪のおばちゃんは本当にいきなり飴とかみかんとかくれたりするから)

 

特に多くの人に評価されたり、特別な事なんて無くて良い。今で十分。愛する人が居て。家族が居て。それで十分幸せ。

一見したら。単調な毎日を繰り返してと。でも一日たりとも同じ日なんて無い。そこで出会う人や景色の、ちょっとした違いを楽しめる。発見する力がある。そして自分だけが浸れる趣味がある。

 

そして新しい朝。目が覚めたら愛する人が横に居る。

 

「幸せやなあ。パターソン」

 

今思い出しても、多幸感で一杯になる。不思議で可笑しくて。美しい作品でした。