ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「トンネル 闇に鎖された男」


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「トンネル 闇に鎖された男」観ました。

 

韓国。主人公のジョンス。車で走行中。

トンネルに入ってしばらく経った時、まさかのトンネル崩落事故に遭遇。車ごと生き埋めになってしまう。

スマートフォンは無事。電波も繋がった為、自力で救助を要請。しかしかなりの規模で崩落していた事、元々の崩落した原因も「手抜き工事」であり、地図もずさんであった事から、ジョンスの所在地すらも割り出せず。作業は困難を極める。

ジョンスの持ち物はバッテリー残量78%のスマートフォン。娘の誕生日だからと買ったホールのケーキ。そして500mlペットボトル2本。

果たして彼は無事愛する家族の元に帰る事が出来るのか。

先日の韓国映画祭り『お嬢さん』での「藤原伯爵」の記憶も新しいハ・ジョンウ主演。そして彼の妻セヒョン役に、皆が大好きぺ・ドゥナ。キム救助隊長にオ・ダルスを於いて。

「一人で真っ暗なトンネルに閉じ込められて。いつ崩れてくるかも分からない密閉状態。食料だって知れてるし。唯一外部と繋がっているスマートフォンだって、いつかは充電が切れる…ってこれ。当方なら発狂の後、絶望死するな」

まず心を強く持てない。救助を待つのだって、せいぜい2日が限界。なので…彼が結果待った日にちを考えると、ぞくぞくと寒気がしました。

 

手抜きの突貫工事で出来たトンネル。開通してせいぜい一か月程度で起きた大事故。なのに、現在進行形の第二トンネル工事を進めたいとか抜かす、ふざけた施行業者。(しかも第二トンネルは事故の起きたトンネルの直ぐ近くで。「後は発破実験だけなのでやらせて欲しい」とか言い出す始末。その実験をしたら、衝撃でジョンスの埋まっているトンネルが更なる崩落を起こしかねないのに)

悲劇の人物として、散々煽る報道各所。大切な充電を使ってしまうのに、ぬけぬけとジョンスに電話。その模様を生中継。

そして。救助活動が長期に渡るにつれて「もう生きていないんじゃないか」「いつまで続けるつもりか」と世論を扇動。そんな時に、最悪な現場事故も発生。「死体回収にこれ以上犠牲が払えるか」始めこそ好意的であった国民の、悲しく冷たい手のひら返し。

国のお偉いさんも、兎に角好感度を上げたいが故の風見鶏な対応。

 

「ありそう~。申し訳ないけれど…いや、この国に限らず…ありそうやなあ」

 

誰もが勝手な事を言う中で。最後まで一貫して「救助隊長」であり続けた「キム隊長」

「絶対に諦めるな!彼は生きている」スマートフォンでまだやり取り出来ていた時から。音信普通以降も必死でジョンスの生存を信じ続けた、救助の鑑。

 

そして。完全に抑えの演技で終始したぺ・ドゥナ。終始あの大きな目をウルウルさせながら。夫の帰還を信じ。でも世論に押し流されそうになった、悲劇の妻。

 

冒頭からトンネル崩落シーンまでのテンポは非常に早く。その後もずっと緊迫した流れでありながら。意外とコミカルなシーンも多くて、ずっと息をひそめて全身を力ませ続ける様な事はありませんでした。

 

パグ犬とのやり取り。キム隊長の告白。あの女性の…悲しいけれど「俺の水が!!」という心の声とか。何だかおかしい。状況は全然おかしくないのに。何だかおかしい。

 

「主人公ジョンスの人間味溢れる感じ。よく分かる」

 

この手の作品にありがちな、悲劇の主人公の完璧な人間性

可哀想な彼は、真面目で曲がった所なんて一つも無い。いつだって正直で真っ当に生きてきた。なのに…というステレオタイプではなさそうな、主人公ジョンス。

 

なかなか来ない救助に苛立って。状況を共有する事になりそうな相手に「俺の貴重な水が」「スマートフォンが」とヤキモキして。でも。

本当は喚き散らしたい。何をちんたらしているんだと。早く助けに来い。休む間も無く助けに来い。俺の水だぞ。俺のスマートフォンだぞ。飲ませられるか。貸せるか。そう言ってやりたい。でも。彼は言わなかった。結局きちんとやるべき事をやった。

不安なのは自分なのに。電話越しの妻を、子供を労わった。

 

迷う感じも。でも結局は正しい事を選択した事も。その彼の心情は凄く良く分かる。

 

「ごくごく平凡な。大人の男性」彼は聖人君子でも、かと言って悪者でも無い。

普通の、家庭を持つ成人男性。それが非常にリアル。

 

ちょっとうがった見方をしがちな当方としては「スマートフォンGPSとか…携帯会社なら所在地が早くに割り出せるんじゃないの」「そのクラクションはもっと早くから使おうぜ」「車のバッテリーってそんなに持つの?」「そういう傷は破傷風とか敗血症とかを招くな。エコノミー症候群、バッククラッシュ症候群も危ない」「そして多分そんなに動けないぜ」なんてぼんやり思ったりもしていましたが。

初めのトンネル崩落事故から最後まで。ノンストップのパニック映画。でも意外と明るいシーンも挟み込んで。かと思えば辛辣な社会風刺映画でもある。

「また新しい韓国映画が出た」

なかなか見ごたえのある127分。

そして。今後何らかの交通機関を使って移動する時には、水分とモバイルバッテリーをきちんと常備しておきたいなあと。そう思った作品でした。