ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「エヴォリューション」

「エヴォリューション」観ました。


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「うわあああ。エヴォリューションて『エコール』の監督かあああ」

師走の。慌ただしい最中。響き渡る当方の悲鳴。「エコールの?」「えっとエコールの?」「まさかあのエコールの?」ならば観なければと。

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2004年公開。「エコール」を。そして翌年2005年「ミネハハ」を。皆様知っておられますかね?あの歴史に名を残すロリコン映画を。

少女達だけで構成される世界。どこからか投げ入れられる、孤独な少女達。そして。何だか邪な大人達を視野に入れながら。(勿論当人たちはそんなつもりはないけれど)あくまでもイノセントな世界で。純粋培養される少女達。
…。


「ミネハハ」という原作を元に作られた「エコール」と「ミネハハ」
同じ話、同じ流れでありながら。「ミネハハ」がはっきりと「これがどういう施設なのか」「少女たちはどうなるのか」をはっきりと描いた反面、「エコール」はひたすらふんわりとしたイメージ画像で貫いた。

結果。「イノセント」という映画原題の名前のイメージのまま。「突き詰めたエレガント」極まりの映画。凄く美しいけれど。

「エレガントとかスノッブとかを。極限にまで突き詰めたら…エロになる。それもトップクラスの」ひっそりと語られる変態映画。
(決して変態映画としては作られていないんですがね。結果的には…ぶっちぎるんですよ)

「成人男性の部屋から出てきたらやばいDVD」になってしまったわけですが。


「映画部所属として。得意部門は変態映画です」そう言える当方の。大好きな変態映画。


「エコールとミネハハ」リアル界でも、力強く語った事のある案件。その監督。ルシール・アザリロヴィロック監督(女性)最新作。

決して「ミネハハ」という映画が劣っている訳ではありません。寧ろ「エコール」の不親切な説明不足な部分を十分に補っている作品ですし、二つを観てやっとその世界を理解出来るというきらいもあります。つまりは…暇があるなら両方観なよと。駄目ならば…「分かりやすさならばミネ八ハ」「雰囲気なら(そして美しい少女なら)エコール」としか…。

そしてエコール…いや、エヴォリューション。


当方が一言で言うと…「エコールは越えませんでした」

今回の主人公は少年だから?「エコール」と同じく10歳になるかならないかの子供…でも少年だから?少女じゃなくて。

「ふざけるな」目の前の(見えない)机を蹴る当方。別に当方はエロい目では見てないし。


「巨大海洋生物恐怖症」の当方が。巨大な何かしらは姿をみせなくとも。何だか不穏で。怖くて。それで座りが悪かったから。怖かった。だから…。


いやああ~。気持ち悪かったです。

一般的なグロ。この作品でも「帝王切開のビデオシーン、本物」とかありましたけれども。そんなの、どうでもいいんですよ。当方にとっては。


とある離島。大人は女ばかり。子供は少年のみ。

そこでの日常。海に集う「親子たち」「マズそうな食事」「病気だからと水薬を飲まされる子供達」「寝ている間、家を抜け出す女達の謎」

この2行だけで…もう無限大に広げられる、不穏な世界。なのに。浸れる間でもなく訪れるアンタッチャブル

「こんな事になるなんて」と文字通り目を逸らす当方。赤いヒトデ。そこへの暴行シーンにて。

全身の毛穴が立つ、ヒトデを石で打つシーン。

冒頭の。巨大シャコ?みたいなのの埋葬シーン。それだけで精神の安定を失った当方。

大真面目に答えたい…けれど。


数年振りに…この監督作品を観ていて思い出す当方。

「この作品に出ている子供さんは。そしてその親御さんは。この作品に出た事を誇りに思いながらも。でもトラウマはどうしたのだろう。この世界は…絶対トラウマになるぞ」そうとしか思えない作品。

そしてこの島の謎。

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前作「エコール」よりはずっと分かりやすいお話しですが。

「おっとこれは。リアルな手術だ」などと思いながら。

冒頭の美しくも禍々しい海の画像。そこから体を固くしたまま過ごした当方の。表情は一切柔らかくなることのないまま。

(美しそうなのに。ヒトデが載っていると思ったらパンフレット購入は見送った当方)


映画を観た後の数日。無意識に何件も「エコール」を求めてビデオ屋を彷徨う当方。結局見つからず。

「畜生‼結局は大好きなんだよ‼」

年末でお忙しいとの通達を数多見たにも関わらず。
インターネットで遂に「エコール」を注文してしまった当方です。

映画部活動報告「フィッシュマンの涙」

「フィッシュマンの涙」観ました。

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観た事の無い韓国映画

とある製薬会社の治験に参加した、しがないフリーター。
どんな化学反応が起きたのか、上半身が魚になってしまった彼。「魚人間」

「映画だかドラマかのエキストラ仲間でちょっとヤッてしまった彼女」に居場所が無いからと押しかけた魚人間。
すぐさま金になると売り飛ばした彼女の手によって、一気に世間の目にされされる羽目になり。
驚かれ。もてはやされ。そして一気に転落し、人々の記憶から追いやられた魚人間。ーそれから5年。

「社会の不正を正す記者になりたい」と当時熱く語っていた、魚人間を追っていた元新人記者を主軸に。

当時追っていた魚人間について振り返り。そして今。

一体今。彼はどうしているのか?

韓国映画…歯が浮く様なラブモノか、目を覆いたくなる様なバイオレンスモノか。当方は勿論後者を贔屓としている輩なんですが。

「この韓国映画は観た事が無い。このビジュアルで。シュールではあるけれど、完全にコメディには持っていかない。と言うか寧ろ社会派」

まさかの。まさかの社会派風刺青春映画でした。

韓国の社会事情…全く存じ上げませんが。

「地方大学出身である事が、そんなにネックになるのか」「公務員になる事はステータスなのか」エトセトラ。エトセトラ。

「治験」というものが結構ブラックで高収入のバイトである事は、当方も昔読んだ松尾スズキ氏のエッセイで知ってはいました。
「一体何を目的とした検査なのかは知らない」「ただただ暇だった」

でも。その「一体何を目的としたのかが不明」なのが最も怖い点で。

問題発覚後。製薬会社の研究者トップが明かした「この薬の実態」
結局、凡人にはピンと来ないミラクルフードの一貫。でもそれが何故か「魚人間」を生み出してしまう。
(ちなみに、そのミラクルフードのビジュアルの最低さ。あれは「カレー味のうんこ」案件の最低ビジュアル。あれを口にする時、当方は己の尊厳を失いますよ。どんなに長寿だの健康を訴えられても、越えられないラインの向こう側でした…)

「人間をこんな姿にしてしまうなんて!」と製薬会社に立ち向かう記者の主人公。魚人間の彼女。魚人間の父親。人権保護を専門とする弁護士。
対する製薬会社。世間。

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と言っても。魚人間側のキャラクター陣も、元々は彼の味方では無い。

TV会社に正式に雇用されたいと足掻く非正規記者。結局は魚人間を愛していないがめつい女。同じく金にならないかと窺っている父親。信用ならない弁護士。

そして、魚人間。

当方がこの作品で印象的なのは、魚人間が「人間に戻せ」とは言っていない所でした。
(人間に戻せる云々の話は、確かに最終出てはいましたが)

魚人間になってしまった事については、寧ろ受け止めていて。それに対して本人はどうこう言ってない。
彼女だの父親だの、メディアだのは「どうしてくれるんだ」とおざなりな怒りを露わにするけれども。

「自分はとにかく平凡でいたかったんだ」

騒ぐ周りに対して。記者にそう語った魚人間。

「彼は分かっていたんよな。この姿は最終形態では無いという事。このまま自分が魚になる事を…」

最早空中では生きられない。水の中の方が、体が楽。もう自分はこの世界には居られない。

組織に対して。世間に対して。どう振舞えば、低スペックの自分を上手く売り出せるのか。そんな色気も持ちながら。魚人間に乗っかった「味方」の人間たち。周りがそうやって、ある意味魚人間を利用している事を。知っていた魚人間。

「そんなの…どんな気持ちがするか…辛すぎる」

ただただ平凡な人生を望んでいた。社会に出て。恋をして。家族を作って。働いて。そして歳老いて…死ぬ。そういうありきたりな幸せを。(ですがね。ロンリー貴族の当方は叫びますがね!これって、全然簡単には手に入らないんですよ‼)

なのに。ちょっとしたバイトが。取返しの付かない事態になって。

センセーショナルな変化。そしてそれに乗っかって勝手な自己主張をする、今まで知らなかった人たち。

彼らは魚人間になった自分にしか興味は無い。

元々世間に埋もれた存在でありたかった。でも。思いがけず「出る杭」になった事で、見たくなかったものが沢山見えて。打たれて…苦しくて。
生理的にも苦しくて。もう此処には居たくない。

昨日の敵は今日の味方。皮肉な事に、魚人間に最終的に出来た、分かり合えるささやかな仲間は製薬会社の研究者。


ところで。「巨大海洋生物恐怖症」の当方ですが。この作品は興味を持って観に行きましたし、悪寒に襲われる事無く観る事が出来ました。

「まあ…魚人間のビジュアルはどう見ても被り物程度やし。人間を襲う訳でも無いし」

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リアルに魚人間を見たらですか?勿論失神、発狂レベルですし「お母さん。怖いもの見ちゃったから一緒に寝て」と幼児体の当方が枕片手にべそべそ泣くと思いますが。まあスクリーンで観る分には、同じ疾患の方も(会った事ありませんけれど)比較的穏やかに観れると思います。


魚人間騒ぎが終結して5年。彼に関わっていた人間は、概ね成功したポジションに居て。でも。

「一体あれは何だったのか」

確かに組織に、世間に認めて貰いたかった。でも。魚人間に関わった事は。その原動力は。確かに色気はあった。でも。あの頃持っていた信念。そこに嘘は無かった。

「ちょっと追憶が長いのかな」と思っていた本編の、ガラッと新しいページが開かれる瞬間。その間違いのなさに、深く頷く当方。

「これは観たことが無い韓国映画

ラブで無く。バイオレンスでも無く。こんなにふざけたビジュアルでありながら、しっかりとした社会派風刺青春映画。

「新しい韓国映画を観た」しかも92分という、コンパクトさで。有難い。


最後に。当方は初日鑑賞でしたので、ノベルティーにチョコレートを貰いました。とろっとして、大変美味しかったです。

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映画部活動報告「アズミ・ハルコは行方不明」

「アズミ・ハルコは行方不明」観ました。

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山内マリコの同名小説の映画化。

5月のある夜に失踪した28歳OLの安曇春子。
ふらふらと男に依存する20歳の木南愛菜。
男だけを襲う、女子高生のギャング集団。
交わるんだか交わらないんだか。そんな三者の生き様を描いた作品。

何かこれ、予告が凄く面白そうだったんですよね。それで、観に行ってきました。

「このパターン…当方は知っている…『渇き』案件だ」
「渇き」役所広司の顔面アップなど大スクリーンでは迫力のありすぎた、あの大爆発映画…劇場が明るくなった後皆が無言になった。あの。


「ちょっと…思っていたんと違う…。」

それは当方がうら若き女性では無いからだと思います。
当方は老いた、ロッキングチェアに座って、文句を言いながら延々とゆすっているだけのおいちゃんですから。

「もう若くない」と言われ始める27歳。(27歳は若いですよ)ぱっとしない毎日。小さな会社で、明らかに働いていない無能上司からの「女ってのは」という偏見パワハラを受け続ける日々。実家は辛気臭く、どこに居ても居心地が悪い。そんな地元生活。

20歳。何も考えていなくて。水商売とアクセサリーショップ店員。一見誰とでも仲良く騒いでいるようで。女友達なんて居なくて。男とはすぐに寝てしまう。

少女とかいうファンタジー生物ではもう無い。でも、一足飛びに大人にはならない。女子高生は無敵。
女子高生たちは群れを成し。男を襲う。それは「男であるというだけで、問答無用にぼこぼこにする」という理不尽なもの。

28歳になった春子の失踪するまでの日々と。春子が失踪した後、町の掲示板に貼られた「安曇春子尋ね人ポスター」をグラフティーアートとして拡散しまくった二人の男とつるんでいた愛菜。そしてずっと活動し続けている、女子高生ギャング集団。

この三者の時系列がもう。ずっとシャッフルし続けるんですね。

「しかし、蒼井優。「オーバー・フェンス」と続いたからか。この「地方都市に住む、妙齢の不安定女子」の既視感。板に付いているな~」

そしてよくトイレットペーパーが切れる家だなあと。当方も長く実家に生息していましたが。当方の宅だけだったんでしょうか?母親っていうのは「何かが安い日」という時にこの手の日常消耗品を買う傾向があるので、トイレットペーパーのみが夜に切れるなんて無かったですね。なんて、それはさておいて。

家族に頼まれて。トイレットペーパーを買いにドラッグストアに行って。そこで再会する幼馴染み。

特に甘く盛り上がる訳でも無く。でも何となく距離は縮まって。セックスし。互いの孤独を満たしていって。穏やかで。満たされていく心…のはずが。


成人式で再会した同級生。そこから一気に加速して「付き合っている感じ」の20歳カップル。

「というか!高畑充希のはっちゃけ感よ!」

役柄的にも鬱々としがちな蒼井優とは全く正反対。もう「居る居る。こういう頭悪そうな空っぽギャル」全開。下品な言葉使い。緩すぎる頭と貞操観念。結局は男に依存して鬱陶しい。(顔が可愛いからアリ)リアル過ぎて…NHK朝ドラ女優なんて肩書きを叩き割っているその姿に、好感度が急上昇しまくった当方。完全に主役を食う勢い。

言ってる事もコロコロ変わって。彼氏とその新しい友達は「男同士の遊び」に夢中で。そうするとすぐに二人に便乗。(何故かすぐにストリート系ファッションに完全切り替え)散々騒いで。でも男たちはちょっと怒られたら止めてしまい。ついでに自分も二人に捨てられて。


「春子が失踪するまで」の経過。「愛菜が一人で疾走するまで」の経過。
男達の勝手や態度があるあるで。その積み重ねが結構なストレスになってくる。

「お互いに心を寄せていたと思っていたけれど。ただ相手が弱っている時に都合よく慰めていただけの存在だった」
「男二人で仲良くなって。途端に自分は切り捨てられた」「男だけでつるむ」
「女は30になると終わりという言葉の暴力」「女は能力が低い、だから給料も安いという管理職の考え方」
「本命が現れたら、ポイ捨てされる」「無かった事にされる」「キレられる」「無視される」「あの睦まじい日々は何だったのか」

「そもそも、自分は本気で愛されていない」

何も疑う事の無かった子供の頃。少女のままで。そのままだと思っていた。まさか。自分がこんな人生を送る事になるとは。

誰からも愛し、愛されて…とはいかなくても。少なくとも誰かには愛されて。そう思っていたのに。何故自分を愛してくれない。認めてくれない。


散々黙って受け止め続けた、男たちの「無邪気な暴力」を。最大のダメージを与える形で返した先人。でも、彼女の様な手段はレアケースでしかない。

その、たまりにたまったフラストレーションの爆発。を暗喩するものが「女子高生ギャング集団」であったのかなあと思う当方。

男たちに反撃など与えさせない。いきなりの先手。男でありながら弱い相手にやられるという屈辱。それは…形は違えど、長きに渡って男たちから受け続けた暴力に対する反撃。


「そんな風に考えるしか無いなあ~」ロッキングチェアーを前後に揺らしながらぼやく当方。

ちょっと時系列がちゃかちゃか動きすぎかと。登場人物の会話とかはリアルそのものなんですが…如何せんとっ散らかってしまって、下手したら「一体何を言いたかったのか」と思われかねないかなあと思う当方。

結局、あの女子高生ギャング集団の存在がふわふわし過ぎていて…。


結論も含め。何だかしまらんなあ~多分当方が老いたからやろうなあ~とともやもやしながら。劇場を後にしました。

映画部活動報告「 砂の器」

午前十時の映画祭「 砂の器」観ました。


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1974年公開。松竹、橋本プロダクション第一回提供作品。野村芳太郎監督。脚本橋本忍山田洋次
ベテラン刑事今西に丹波哲郎。相棒の若手刑事吉村に森田健作。新進気鋭の作曲家和賀に加藤剛。その他緒形拳菅井きん渥美清等のそうそうたるメンバーで渋く渋く染めた作品。

「ああ。これもまた何曜日かのロードショーとかで観たんやろうけれど。全然覚えていない作品」

当方の父親の本棚には松本清張西村寿行が並んでいましたが…如何せん、あんまり食指が延びず。

恥ずかしながら。今更この映画を観に行きました。

もう42年前の作品なのか…そりゃあ、時代を感じるなんてもんじゃないな…ならば「何だよそれ!」という突っ込みは野暮という事を肝に銘じて。

一応、最終的なネタバレはしないで進めていきたいと思います。

6月。電車の操車場にて顔を潰された男性の死体が発見される。元々は身元不明であったその男。

彼と若い男性を前日酒場で見かけたという証言。
彼らの会話から「ズーズー弁でカメダと言っていた」というエピソードを得て、秋田県の亀田に刑事二人が調査に行く所から話は始まる。しかし捜査は空振り。

ほどなくして被害者の養子が現れ、身元が判明。全く東北とはゆかりが無かった被害者。まさかの中国四国地方出身者。

しかし「ズーズー弁と島根弁は似ている」という驚きの事実が判明。しかも島根に「亀嵩」という地域があると判明。向かう今西。
しかし、殺された被害者は全く人から恨まれる様な人物ではないと聞かされるばかり。
その間、にわかに信じられない勘と執念で吉村が新たな証拠を見つけ出す。

そして浮かび上がる、和賀という男。

一体被害者は何故殺されたのか。
和賀はどう関わっているのか。

和賀という男は、一体何者なのか。

てな事をやっていました。

「いやあ~。流石松本清張作品。そしておおらかな時代。警察がこんなに当てもない私見で電車で地方に行かせてくれているとは」

大体「カメダ」という地域名。流石にこの時代でも警察ならデータベースで調べられるでしょうが。て言うか地図を見なよ。伊能忠敬が日本地図を作り上げてどんだけ経っていると思っているんだ。

(ああ…やっぱり当方は突っ込みありきでしか話を進められません)

新聞で毎日連載されていた原作ではきちんと意味があったらしいのですが。正直「冒頭の秋田はいらんな~」と思ってしまった当方。

ただ、その超大作をあれこれとはしょり。「新事実が浮かぶ度にまた振り出しに戻る」という繰り返しを最小限にしたらしい映画版。

まあ…大変お疲れな体で行って、暖かい映画館に温められたら…ちょっと眠くなってしまいそうな前半の捜査編。

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一応当方は寝たりはしませんでしたが。正直な話、ちょっとまったりしてしまいました。

なので「夏で暑いんなら、スーツのジャケットは何処かにしまっておいたら。肩に掛けたらしわしわになるし、いつか無くすぞ」「瓜美味そう~」「加藤剛の男前さよ」「血がいかにも絵の具」「そもそも酒場のお姉さんは、若い男とかズーズー弁なんてざっくりした事よりもっとはっきり相手が誰か分かるやろう」なんてぼんやりした事を考えてしまいました。

その後和賀という男に行きつき。彼の事を探っていく事になるんですが。

「いや…新聞の社説コラムからあのシャツに思考が行き着いて見事見付けるって。ちょっと考えられない奇跡やけれど…」

若くて情熱的な森田健作ならばそれが可能なんだと。モヤモヤするこちらの気持ちを押さえ込み。

和賀は一体何者なのか。彼の背景は?
一体どんな過去があったのか?

秋田。島根。その二つの地域が。40年以上経って、一体今どうなっているのか。

秋田のあの風景は、何となく今でもあんな感じなんだろうなと思いましたが。
「おそらく島根県亀嵩という地域はあんな田舎では無くなっているんやろうな」
あの映画のロケ地がそのままの地名なんでは無かったりするんでしょうが。

なんて。何故そんな事を思ったのかというと。

「大阪は今でも一緒だからだ。特にあの地域は」

新大阪駅が現在と全く変わらず。そして通天閣のある新世界。あそこは今でもまんまあの景色。(細かい事を言えば店とかは違うでしょうが)

「3月14日」と聞いて直ぐに「大阪大空襲か」とピンとくる当方。そしてその後の混乱で和賀が取ったどさくさの行動も「あるやろうなあ~」と思った当方。(これは地域差では無く。戦争という混乱した時代ならどこでもあったんじゃないかという話。そして余談ですが。大阪は戦争が終わる前日の8月14日にも空襲があったんですよ。そのたった一日の悲劇も悲しい話で聞いた事があります)

どう考えても怪しい和賀。しかし、彼と容疑者を繋ぐものがはっきりしない。(観ている側は何となくピンと来るエピソードが早くにありましたが)ただ、それがどうしてそうなるのかが弱い。そう思っていながら話は中盤を過ぎ。

そして、遂に和賀の新曲を引っさげたコンサートが行われる。そこで流れる新曲「宿命」

その協奏曲「宿命」に合わせ。捜査本部一同が集まる中「和賀の逮捕状を請求したい」と切り出す今西。そして明かされる和賀の過去と殺人に至る動機。


「ああ…そうくるのか」

種明かしまで一切語られる事が無かった、悲し過ぎるエピソード。流れる「宿命」



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昔の日本映画は本当に冬が辛い。
厳しい親子の心情に寄り添いまくる雪景色。寒い。寒い。
(またも余談ですが。近年の日本映画で「雪景色が辛い」と心底震えたのは「北のカナリアたち」でした。あれはお話し事体はどうかと思いましたが、雪の冷たさ、景色と辛いエピソードに涙が出ました)

辛すぎる放浪の親子。

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役者たちは殆ど無声で、流れるのは「宿命」の演奏。あの父親加藤嘉)の演技に映画館でも鼻をすする音がどこかしらから聞こえ始め。少年の歪んだ表情と、時折演奏シーンにバックしてスクリーンに現れる、整いまくった加藤剛の顔。

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「もうこのシーンだけで、くどくど語らなくても分かる」

圧倒され。
泣くとかでは無く、兎に角無言で見入っていた当方が。あの、加藤嘉の最後の姿にどっと涙が出て。

だって。だって。あの父親がどんな気持ちでああ言ったか。それを思うと…。


「午前十時の映画祭に外れなし。やっぱり名作を出してくる」胸が一杯で劇場を後にした当方。

後日。母親とたまたまこの「砂の器」の話になって。

「これ。京都の映画館で当時観に行ったわ。何かデラックスシートみたいなやつで」「昔の映画館って二階席とかあったもんなあ」

「これ、加藤剛がお父さんを殺してしまうやつやんな」「うん?全然違うで」

悲しいかな…。概ね内容は合っていましたが。
母親には近日中に改めて観てもらいたいと思います。

映画部活動報告「シークレット・オブ・モンスター」

「シークレット・オブ・モンスター」観ました。

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ジャン=ポール・サルトルの「一指導者の幼年時代」を下敷きにした?と言われる作品。

1918年。ベルサイユ条約締結前のフランス。アメリカからやって来た、政府高官の幼い息子。
まるで少女の様な美しい少年が。その麗しい外見とは裏腹にどんどん歪んでいく…。
果たして、何が少年をそうさせたのか?そしてその少年の行く末は?

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主人公プレスコット役を演じた、トム・スウィート(撮影当時9歳)その美しさ。

「まあ…美少年を愛でる作品なんやろうなあ」

ヒトラーを。スターリンを。ムッソリーニを。そんな独裁者達を思わせる…事も無く…。

変態映画作品を得意とする当方がワクワクして観に行った作品。そして…。

「これ。思ってたんと違う」

不安定な年頃の少年が。馴染みの無い土地に行って。父親は仕事で忙しく。バイリンガルの母親と二人。他に少年に関わる人間は、年老いたメイドと、若いメイド。そしてフランス語を教えてくれる若い女家庭教師。

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父親の存在感は無。母親は気難しく、はっきり言って子育てには興味が無い。年老いたメイドのみが彼に対して甘々で。そして何かエロい家庭教師。

「こんなナイスな布陣で。何でこんな事になってしまうのかね?」

勿体無い。勿体無い。

何故当方がそう思うのかというと…少年、初めから嫌な奴やからですよ。

少年の癇癪=爆発を、三段階で一応みせる構成なんですけれども。冒頭から人様に石を投げる少年。そして悪い事とは思っていない少年。

「これ普通は…元々は純粋やった少年が、環境が変わったりしていく中で視野が広くなったり狭くなったりしながら人格形成されていくっていう流れじゃないの?」

確かに少年に対して起きていくアクション。唯一懐いていた年老いたメイドとの別れ。エロい家庭教師との関係。


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(っていうかね!何なのかねあのスケスケのブラウスとその下は!どういうつもりかね!そりゃあ、あの少年じゃなくても同じ事をするよ‼…また彼女と二人で居るシーンの光の柔らかさよ)

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少女と間違われる事を最強に嫌悪しているくせに…美意識は半端ない。

あの、プライドが高くて不安定で強引な母親は、間違いなく少年の人格形成に関与しまくっているのに。そして母親だけではなく、あの夫婦の関係もネックやのに…あんまりみせる事も無く…。

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何だか、要所要所で布石は置いていっているな~と思ったのですが。ちょっと置きっぱなしで、回収が雑かなあと思いました。

「あんたね。話は一から十まで全部言わなあかんのかね?自分で考えたり、思いを巡らせたり。頭を使いなよ」そんなご意見。ごもっともではありますが。

最後に「時代考証などの映像は配給会社で追加しました」みたいなテロップが流れた時。「それは流石に無かったら訳わからんかったぞ」と思った当方。

つまりは「自分で考えな」が多すぎる。にしては思わせぶりなヒントが多すぎて、でも繋がらなくて。却ってエピソードと大きな流れがちぐはぐになってしまって…持って回った言い方をしてしまっていましたが…一言でいうと「何が言いたいのか分からない」と感じてしまう。
(一応映画鑑賞後に解説みたいなやつは読みましたが…それは分からんやろう~としか…)


「合う人にはばしっと合うんやろうけれど。これは好き嫌いがはっきり分かれそうな作品やなあ」

ビジュアルは最高でした。何より少年が美しい。そして女性陣が軒並み美人。屋敷も背景もゴシック。色のトーンも落ち着いている。

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そして音楽。

この作品で特記する事は「音楽のものものしさ」もう終始不穏な音楽。何かが起きていくという、不安を煽る音。人によっては「オーバーだ」と言われかねないですが。当方はサントラを買っても良いなと思ったくらい、好きなタイプ。

「そうか。終始この音楽を流して、セリフが一切無くて。それなら楽しめる気がする」
出ました。当方の「オサレバーで流れるオサレ映像映画枠」それならしっくりくる。

散々グチグチ言いましたが。

あのパーティー。カーテンに移る炎。

ラストシーン。実は誰だったのか。それを思うと、やっぱりなかなか憎めない。癖は強いけれど…そんな作品でした。

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映画部活動報告「ファンタスティックビースト と魔法使いの旅」

「ファンタスティックビースト と魔法使いの旅」観ました。

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ハリーポッターの新しいシリーズが遂に幕を開ける!今度の舞台はハリーポッターの活躍した時代から70年前のアメリカ。人間界と魔法界の間に交流が無かった時代。
主人公は、魔法動物学者ニュート・スキャマンダー。魔法動物の収集をしていた彼。まさかの一体を人間界に逃がしてしまった事で、魔法界からも迫害されつつある。そんな彼が人間界で魔法動物を探しながら巻き起こす、ドタバタファンタジー」

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大体こんな感じの煽り文句で予告していたと思いますが。

「ハーリハリハリハリポタ~」昔クドカンの夜中にやっていたドラマで子供が歌っていたあのメロディーを脳内で流しながら。


ハリーポッターシリーズ、一作たりとも映画館で観ていない」

何曜日かのロードショーでは見たり…見なかったりしましたが。でも、原作は読んでいます。しかも一巻以外は発売日購入で。(と言っても、コスプレして書店に並んだりはしていませんよ…お若い方はご存じ無いでしょうが、当時そういう社会現象があったんですよ。当方はひっそりと地元の田舎書店にて購入しました)

とはいえ、別にハリポタファンでもなかった当方。(面倒なんでここからはハリポタと省略させて頂きます)

専門学生であったはるか昔。同級生のクミが熱く薦めてきた「ハリーポッターと賢者の石」後にも先にも彼女に何かを薦められた記憶はありませんが、兎に角面白いんだと。その勢いに負けて件の本を購入した当方。貧乏学生には厳しい、まあまあなお値段で、尚且つ武器になりかねない分厚いハードカバー本を。

注意)ここからの感想はあくまで当方の主観であって、ハリポタファンを不快にさせる意図はありません…先にお詫びします。

「これ…好きじゃない」目を輝かせて感想を待つクミに一体何を言ったのか全く覚えていませんが。これは当方の苦手な部類の児童文学。

「ハリーは偉大な魔法使いなんだ」こういうフレーズが意味なく太字で表記。何だか登場人物達の言葉の言い回しが変。(確かヴォルデモードが俺様とか言っていた様な気がする。何だよ!お前ジャイアンか)細かい設定が所々曖昧。

あとがきの作者のサクセスストーリー…わざわざ少年少女にその事情を書かなくてもいいんじゃないか。知らんがなという自己顕示欲を感じたり。そして本に折り込まれていた「ふくろう通信」なる、訳者のこの本に対するダダ漏れの思い。ほんまにな…わざわざ少年少女に(以下繰り返しの為、省略)

「文句ばっかり!じゃあ何で全巻買ったんだよ!」ハリポタファンの皆様はキレてそう言うでしょうが。

「続きものだったからだよ!!」(逆ギレ)

初めから7部あると言われたから。連作の作品はきちんと見届けるのがマナーだと当方は思っていたから。それだけですよ。

ダンブルドアとハリーの、船で延々水を飲む下りなんだ」「て言うか、従弟のダズリー家での下り、心底要らない」「スネイプ先生を幸せにしてやってくれ」エトセトラ。エトセトラ。

そのハリポタ全巻の現在ですか?知り合いの小学校教師に譲渡しました。
当方の様な荒んだ心の持ち主では無く、然るべき健全な少年少女達がワクワクしながら物語を楽しんでいると聞いています。

いかんいかん。初めて当方がハリポタに対する思いを口にしてみたら、とんでもない長さになってしまいました。


「で。何でこの作品は観ようと思ったの」うんざりの口調でしょうが。

「それは…あの。ちょっと仕事とかでやるせなくて…真っすぐ帰宅したくない時とかあるじゃないですか。そういう時になんかスカッとしそうな映画を観たかったというか。で、丁度上映時間が良い感じに合うやつとか…そういうのやったんですね」「エディ・レッドメイン目当てですか」「何でだ。それはちゃうぞ(即答)」

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エディ・レッドメイン。「そう言えば「レ・ミゼラブル」も「博士と彼女のセオリー」も「リリーのすべて」もこの映画館のこのスクリーンで観たな」そう思い返して地味に驚いた当方。甘々の顔立ちと、幅広すぎる役者魂。体を張る事も厭わず。非常に男気を感じる役者だと、当方は思っているのですが。

「でも…ちょっとこの作品に於いては女性ウケを意識しすぎたキャスティングやったんちゃうかなあ~」

だって。この主人公が魔法動物を逃がしてしまったのが発端なんでしょう?いや。他に問題は多々ありましたけれど。元々事態を引き起こしたのは彼の魔法動物なんでしょう?おっちょこちょいでは済まされない。エディ・レッドメインの男前魔術で目くらまししていましたが。この主人公に「男前」以外の良い所、ありますかね。

「不景気。時代も暗く」「そして魔法使いと人間の折り合いも悪く。と言うか、ほとんど交流など無い」「暗い心が呼び覚ます、闇の力」

J・Kローリングは本当に毎度暗い題材を持ってくるよなあ~と思う当方。そして概ね登場人物は陰気。でもそこでぶっちぎりの明るさで話を盛り上げる人物。

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「パン屋~のおじさん!」

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いやあ~。この作品は彼無しでは救われませんでしたよ。この圧倒的な陽のキャラクター。

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コミカルで、動きも機敏。唯一の人間でありながら、魔法云々の奇妙な事態にフレキシブルに順応。純粋。総じてキュート。ちょっと切ない展開もあるけれども。

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「彼を幸せにして下さい」汚れちまった当方が思わず祈った、彼のこれからの人生。

後は…コリン・ファレルですかね。

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「このベタベタの男前は…誰でしたかね」と一瞬プロファイル出来なかった当方。「ロブスター」以来でしたから。そう思うと同一人物とは思えないですけれども。正直、当方は「ロブスター」の彼の方が好きです。

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(後、余談ですが…この画像で思い出してしまって。帰宅が遅くなったからといって、その人物のしていたベルトでお仕置きって。それを示唆していたシーンはワクワク案件でしたが。その実態が「ベルトの金属部分で手を打ち付ける」という折檻でしかないものだった時。心底嫌悪感に襲われました)

まあ。ハリポタシリーズには、基本チャチャばかり入れてしまう当方の健在という確認。

エディ・レッドメインの髪型。ラーメン大好き小池さんをベースに8:2位で分けている感じか?変じゃないか?」「大型魔法動物と目線が合っていない」「最後の悪キャラの下り…急転直下な変身。何故?」「大風呂敷を大慌てでしまう感じ…」エトセトラ。エトセトラ。


「今回の作品シリーズは全5作?」

今回は小説も買っていませんしね。付き合いませんよ。

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映画部活動報告「ガール・オン・ザ・トレイン」

「ガール・オン・ザ・トレイン」観ました。

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電車に乗る主人公の女性。どうやらこの電車は彼女にとっての通勤電車らしい。車窓からの景色を眺める彼女。
彼女が必ずチェックする一軒家。そこに住む若い夫婦。二人の生活を想像する彼女。

これだけなら、電車通勤あるあるなんですが。

「この一軒家は、かつて彼女が別れた夫と住んでいた家。夫は今でもその家に住んで。新しい家庭を築いている。その夫婦の様子を毎日車窓から眺める主人公」

おっかねえええ。それだけでもアンタッチャブルな案件ですが。

結婚生活中から。アルコールに溺れていった彼女。悲しかな、現在は立派なアルコール依存症

己をセーブ出来ず。酔っては元夫に連絡するという、悲しいストーキング行為。周囲の目も冷たく。

ある日。血だらけで目を覚ます彼女。そして、元夫の家の隣家の女が行方不明になったという報道を目にする。すぐさま彼女の元に現れる警察。
その隣家の女が行方不明になる前、現場近くで目撃された彼女。でも酔って記憶の無い彼女には何も説明が出来ず。

一体あの日。何があったのか?元夫恋しさ故、憎い現在の妻と間違えて隣家の女に危害を加えたのか?まさか…殺したのか?

彼女自身が説明できない中、どんどん容疑者としてマークされていって…。


「酒飲みにキツい映画…」涙目の当方。


「飲んで~飲んで~飲まれて~飲んで~飲んで~飲み潰れて眠るまで~飲んで~」そんな酔いどれ当方にとって。身を切るような厳しいあれこれで一杯。息もだえだえになる作品。


「て言うかな。記憶無くすまで飲むなよ」

夕日の差し込む取り調べ室で。下戸ポリスの声が聞こえる。震える当方の声。「分かっていますよ」「いや、分かっていない。そんなになるまで酔っぱらうって事のみっともなさ。自覚しなさいよ」「分かってる。でもな…どうしても酔わなやってやれん事があるんや。しんどい気持ちをぶつけられるんは…酒だけなんや…。」「噓泣きは止めて貰えますか。大体、生きていてしんどいのは貴方だけじゃないでしょうが。そんなのは弱虫の戯言ですよ」「…うわあああああああ。殺せ!当方を殺してくれえええ!!殺してえええ!!!」

辛い…酒飲みと下戸の間にある溝の深さ。決して交わる事の無い、真っ黒な奈落。


すっかりアルコール依存性で廃人寸前の主人公と。新しく妻の座に収まった元愛人。その子供のベビーシッターで、行方不明になった元夫の隣家の女。

その3人の女の視点。時系列を前後しながら。物語は進んでいく。

子供が欲しかった。でも出来なかった事からアルコールに溺れだした主人公。この夫婦の家を仲介した不動産業者であった元愛人。いわくありげな少女時代を送った隣家の女。

そして、話のキーとなる、カウンセラー。隣家の夫。そして元夫。3人の男達。

「元夫…。どうして主人公はそんなに依存するのか?どういう魅力が?マイホームを買う為に知り合った不動産屋の女と出来て、挙句結婚ていうのもアレやけれど。普通、そのマイホームに新しい女と住むかね?それとも、この国ではそれはよくある事なのかね?」おかしくないか?その神経。「そしてそんな危ない元妻からの連絡は拾わないように出来るやろう。着信拒否設定とかさ。警察に言うとかさ」一応言い訳はしていましたが…納得しかねる。

「面倒臭えええ。という隣家の女のメンヘラサクセスストーリーを延々聞かされるという(いや、そういう大変なお仕事なんだとは理解しています。…お疲れ様です)カウンセラー。ちょいちょい仕掛けられるハニートラップ。という名の、とんだ地雷。一筋縄ではいかない隣家の女。そしてその夫。DVスレスレ。


「犯人はこの中に居る!」

当方の中の、蝶ネクタイをした眼鏡少年や金田一家のご子息はそう言ってるし、そういう話でしたが。

「これ…なんだかんだ言って、この主人公の彼女やったら悲しすぎるけれど…サイコな感じも出せるな」なんて思っていた当方。

流石に「犯人はさあ~」なんて続けませんので、話の先はこれ以上は書きませんけれども。

「うん。そうやろうな」(真顔)映画館で頷いた当方。結構凡庸な展開。現実世界では穏やかに受け入れた最後。ですが…。



「酒飲みを馬鹿にするなああああああああああ!」

もうすっかり夜のとばりが落ちた取り調べ室で。他の下戸ポリスに取り押さえられながらも、椅子を蹴り倒し、机をひっくり返そうとする当方。大暴れ。

酒を飲む奴は愚かだと。善悪の判断もつかない、誰からも信用されない。

「いい加減にしろよ」「俺に抱かれようと思ったんだろ?誰がお前みたいな酒飲みのクズと!!」作中の彼女への発言のひどさ。膝を折って泣きたい言われ様。

(まあ。確かに彼女の飲み方は怖かったですけれどね。でっかいマイボトルにリキュール詰め替えて、ストローで飲むって。当方の父親は「酒をストローで飲むな」とよく言ってましたし…あれ、凄い酔うんですよ。大体、人目を気にして入れ物を移し替えて酒を飲むという行為自体が依存症。流石に当方も新幹線とか長距離移動で遊びに行く時以外には社内で酒は飲みませんし。後、そんな彼女の凄い所は二日酔いになっていなかったという事。流石にあんな飲み方をずっと続けたら胃も肝臓もやられますけれども)


そこまでドン底やった彼女が。浮き上がれる場所を見つけた。光が差し込んだ。


「彼女にとって、それが新しい朝でありますように…」

未だ暗闇の取り調べ室から。酒飲み当方はひっそりとエールを送りたい。そんな作品でした。