ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「TITANE/チタン」

「TITANE/チタン」観ました。

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第74回カンヌ国際映画祭最高賞受賞。主役のアレクシアを演じたアガト・ルセルは今作が長編デビュー。ジュリア・デユクルノー脚本・監督作品。

 

おなじみ「カンヌ騒然!」の文言。けれど『RAW~少女のめざめ~(2016年)』の監督作品と知って。「相当胸糞悪い思いをするだろうな(褒めています)」と思いながら鑑賞に至りましたが。

「一体何をみせられたのか」

街で見かけた、不思議な看板の店にふと興味を持って暖簾をくぐったが最後…無理やり引きずり込まれて、奇天烈な出し物を見せつけられた挙句その建物ごと爆発した、みたいな衝撃(何このたとえ)呆然自失。

 

幼いころに自動車事故で開頭手術を受けた主人公のアレクシアが成人し車とセックスして妊娠し出産する。

…ひとことでいえばそういうお話なんですけれども。

 

車に異常な興味と執着を持つ少女、アレクシア。自動車事故にあって開頭手術を受け、頭蓋骨を固定するために側頭部にチタンプレートを使用している。(「う~ん。子供の手術にあんまりチタンプレートは使わないけれどねえ(脳外科医談)」)

側頭部の傷跡が独特。そんなビジュアルを持つアレクシアは、成人した現在も車への執着が冷めやらず。モーターショーでショーガールとして生計を立てている。

日々モーターショーでセクシーなダンスを披露し観客を翻弄させてきたアレクシアは、ある夜車と情熱的なセックスをし、じきに妊娠したとわかる。

動揺し暴走した結果、連続殺人と放火を犯し、指名手配される羽目になったアレクシアはふと見かけた捜索願から『10年前に7歳で失踪した少年エイドリアン』に成りすますことを思いつく。

 

(今のところストーリーを順当に追っているんですがねえ。もうすでに「何て?」の連続)

 

顔面を自ら洗面台に打ち付け、鼻を骨折させて様相を変え。女性、ましてや妊娠中とばれないように胸とおなかにさらしを巻いて、エイドリアンの父親ヴァンサンと対面する。

 

とにかく暴力的で衝動に突き動かされるアレクシア。なれなれしく近づいてくるファンは容赦なく殺害。爆音とライトで煽ってくる大型車とセックス。ショーで知り合ったダンサーとイチャイチャしていたかと思うと殺害。同じ家にいた仲間も皆殺しと、とにかく容赦がなくてやりだしたら止まらない。

 

この作品に対して「なんか凄いもん観たけれど、一回観たらもう十分です」と言ってしまうのは間違いなく「痛い表現が多すぎる」から。

当方と、一つ空いて隣に座っていた見知らぬ男性。何度も「うっ」と息をのみ、体をすくめた。痛い。実際には感じていない痛覚が反応する。

アレクシアの長い髪をまとめる、金属の長いかんざし。おもむろにそれを引き抜き、相手に突き刺して殺害する。そのかんざしを自身に突き刺し堕胎を試みる。口の中に椅子の足を突っ込んでその椅子に座る。顔面を自ら洗面台に打ち付けて鼻を折る。

「いってえええ~」

序盤のシャワールームでのシーンで。イチャイチャしていた相手の乳首ピアスに濡れた髪の毛がからまったとき、力ずくで髪を引っ張った時点でのけぞった当方と男性。

 

「出会ったやつは必ず殺す!」そんな、やりたい放題の殺人鬼アレクシア。

なのに。17歳の少年エイドリアンに成りすべく、エイドリアンの父親ヴァンサンと体面したところからガラッと話は変わる。

そもそも。23歳の女性が何故17歳の少年に化けられると思うのか。(そこまで顔が似ているとも思わなかった)性別が違う。ましてやアレクシアは妊娠中で体も日々変わっていくのに…。

「まあ…トラブルが起きたらすぐ殺せばいいやと思ってたんやろうな」

 

エイドリアンの父親、ヴァンサン・消防署長。

7歳で失踪した息子を想って10年。警察署で薦められたDNA鑑定も拒否し、目の前に現れた人物を『俺の息子エイドリアン』と認定した。

消防署に隣接する宿舎兼自宅にアレクシアを連れ帰り、隊員たちにも「息子」と紹介し消防隊に入隊させた。

消防署長。体を鍛えてはいるけれど、ステロイドを筋肉注射しても加齢には勝てない。そんなヴァンサンを見ていると始めは「いつ寝首をかかれるか」とハラハラしてしまったけれど。

 

「お前が誰であろうがお前は俺の息子だ」

どう考えても17歳の息子じゃない。今同じ家で暮らしている相手は赤の他人で、しかも女性だ。けれどかたくなに「俺の息子だ」と譲らないヴァンサン。

それは…10年前に失ったエイドリアンへの贖罪。償うチャンスをもらえている事がたまらなくて。もう二度と離したくない。

(奇人変人が跋扈していた世界観で、唯一まともだったヴァンサンの元妻。あの人がいたからヴァンサンの異常性に背景が生まれたよ…)

 

圧倒的な狂気をはらむ相手。とまどい毒気を抜かれているうちに、次第にヴァンサンの大きすぎる愛情に包み込まれてしまったアレクシア。

 

(とはいえ。アレクシア決して両親から愛されていないようには見えなかった。自動車事故は不幸だったけれど。両親と実家に住んで、不遇な扱いなんて受けていなかった。勝手にアレクシアが道を外れていっただけで。)

 

暴力的で衝動に駆られて刹那的に生きてきたアレクシア。思いもよらない命を授かり戸惑っていた渦中で、圧倒的でゆるぎないな愛情をもつヴァンサンに出会い、そしてやっと安心できる居場所を見つけた…けれど。

 

「ああそうやった。チタンプレートが体内にある云々っていう設定があったな」「金属と人とが融合した赤子の誕生…それは怪物の誕生ととるべきか、それとも…」

 

「結局いったい何をみせられていたんだ」

 

 

こじつけて解釈するのは本意ではありませんので。観て感じたまま。とっ散らかったままに書いてみましたが。これは…想像以上にまとまらない…。

 

万人受けはしない。痛い描写が多くて再見したくない。けれど、たった一回観たその作品は頭と心を大混乱させ挙句爆発させる。壮大な何かを見せつけられた、そんな気持ちで呆然自失に至ってしまう。なのに。

エンドロールが流れるなか。マスクの下で満面の笑みを浮かべてしまった当方。

こういう作品に出会ってしまうんでねえ。映画はやめられないんですよ。