ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ひらいて」

「ひらいて」観ました。
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綿矢りさの同名小説の映画化。首藤凛監督作品。

 

主人公の木村愛(山田杏奈)、高校三年生。成績優秀で推薦で大学進学もほぼ決定。目立つ容姿な上に人付き合いもそつなくこなす愛は学校のヒエラルキーでも上位。けれど愛が人知れず目で追っていた相手は、同じクラスの西村たとえ(竹内龍斗)だった。

特別目立つわけではない。けれど頭が良くて落ち着いたたたずまいのたとえ。けれどふとしたことから、たとえが同級生の冴えない女子、新藤美雪(芋生悠)と付き合っていると知り、居ても立っても居られなくなった愛だったが。

 

原作未読。アイドル事情にも詳しくない。そんな当方が「うわコレ凄い」という口コミに惹かれ思わず鑑賞…そして「うわコレ…」となった作品。

 

冒頭。文化祭の出し物の練習でダンスを踊る愛。いかにもアイドルっぽいグループダンスの中心でどこか不機嫌に踊っていたら、メンバーの一人である美雪が輪から外れてどこかに向かっていく。思わず後ろから付いていくと、公舎の裏で低血糖により意識を失っている美雪がいた。

 

美雪は一型糖尿病を患っていた。かつては同級生の前で打っていたインスリン注射も、いまでは移動しひっそりと空き教室で打っている。

 

知ってはいるけれど、取り立てて交流があるわけではない。ただの同級生。けれど…たとえの彼女なら話は別。

 

悪友たちと勢いで夜の公舎に忍び込んだ愛は、自分の教室へ向かい、そこでたとえが時折読んでいる手紙たちを入手する。そこから知った、たとえと美雪の交際。

 

一人でインスリンを打っていた所に突撃し、半ば強引に美雪と友達になった愛。休日一緒に映画やカラオケに行って二人の進展ぶりを聞きだし、どこかに割り込む術が無いか策を講じる。

 

順を追って展開を書いていくのもアレなんでサクサク行きますが。もうねえ~当方は愛ちゃんから目が離せなかったですよ(作中で皆から愛ちゃんと呼ばれていたので。当方も以降この呼称で行きます)。

山田杏奈という美少女(少女?…いやでも二十歳であの貫禄の演技は凄い)。そして「分かる~こういうヒエラルキー上位の、全方位手を抜いていない女子」「気が強くて、男子にモテる」「でも性格良くない。自分が恵まれた立場に居るって自覚していて、周りを無意識に格下に見てる」愛ちゃんのキャラがきっちり立ちまくっていて、そこを心配する要素が全くない。

 

目立たないけれど、きちんとしていて秀才のたとえと地味系女子の美雪。高校生活ももう終盤。特別目立つような二人は、清く正しく?交際を続けていた。そして、たとえが無事に希望する東京の大学に進学が決まったら、上京して二人で暮らそうと決めていた。

この二人にしたら…地味だろうがなんだろうが、幸せに過ごしてきたところにアドレナリン全開の猛獣が突っ込んできたようなモン。しかも全然悪びれる事もないし懲りる事もなく、二人を食い尽くそうと何度でも襲い掛かってくる。

 

「どうやったらたとえを手に入れられる?」振り向かせる、なんて生ぬるい。何としてでもたとえの心をむしり取りたい。私がこんなに欲しがっているんだから。欲しいもので今まで手に入らなかったものなんてなかったんだから。

 

「愛ちゃんよ…年老いた当方は分かる。欲しくても手に入らないモノなんて、この世にはゴマンとある」「泣いても喚いても、努力しても手に入らないモノ…あるよ」

ありもしないロッキングチェアを揺らしながら溜息を付く当方。

「でも。愛ちゃんはこうやって知るしかないんやな…」

 

欲しい欲しいと手に入れられないから暴走するのか。はたまた清純カップルを踏みにじりたいのか。なりふり構わぬ行動は遂に目的を見失い、自分のテリトリー『学校ヒエラルキー上位の素敵な愛ちゃん』の座を失っていく。

 

結局、たとえと美雪の結束は固い。自分の魅力を持ってしたら直ぐに陥落すると思っていたのに「俺はお前みたいなやつは嫌いだ」「お前は何だか全てが嘘くさい」(言い回しうろ覚え)。まさかの恋する相手、たとえから突かれた図星に逆上する愛ちゃん。

 

そして「ああこういう…」という、ぶっ飛びの行動で繋がりを持った愛ちゃんと美雪。どう考えても「ざまあみろ」の要素も含んだきっかけ。なのにどこまでも純度の高い解釈をした美雪の心を踏みにじる事は出来なかった。寧ろ、傷を負ったのは愛ちゃん。

 

同一人物かと疑うばかりにズタボロを体現する愛ちゃん。キラキラしていたオーラはどんよりと沈みこんで。身だしなみもいい加減。精神状態も不安定で授業中急に叫び出して教室飛び出してしまう。ああもうなんでそこまで堕ちてしまうのか。

(また、意外とかつてのイケイケ仲間たちもきちんとしていたんよな…心配してくれる友達。落ち着いてからでいいから、向き合った方がいいよ)

 

文化祭で。愛ちゃんとたとえ達のクラスが展示物として製作していた、ピンクの折り紙で折った鶴を花に見立てた桜の木。

たしかに可愛かったけれど禍々しくもあった。何故折り鶴を桜の花に見立てるのか。文化祭前に黙々と鶴を折っていた愛ちゃんが、卒業前には虚ろな目でその鶴を開いている。折り目が沢山ついたその紙は、正方形に戻るけれど刻まれた皺は戻らない。

 

「ああもしかしたら…」ありもしないロッキングチェアを揺らしながら、脳内に浮かぶ画。愛ちゃんとたとえと美雪が三人で過ごす放課後。

どこかおぼこいたとえと美雪のカップル。その二人に、愛ちゃんがちょっとお姉さんぶってアドバイスしたり三人で放課後に寄り道する光景。

もし愛ちゃんに、たとえに対する恋心が無かったら。そして地味な同級生の友達美雪にたとえという彼氏が出来たという世界線だったら。

どれだけ爽やかで微笑ましい青春だっただろう。たとえの家庭の事情で、二人は高校を卒業したらこの場所を後にする。その二人の背中を、寂しさをみせないようにして押す愛ちゃん。

 

けれどそんな世界線は無かった。たとえと美雪、二人の選択肢は同じだけれど、愛ちゃんは自爆を重ねたボロボロの元猛獣。しわくちゃになった折り紙。

 

最後。愛ちゃんが美雪の元に駆け寄って放った言葉。一見「ん?」と思いますが。

 

また一緒に遊ぼう。お前はハリボテだと言われた愛ちゃんが、全身全霊でぶつかった相手。本物に触れたら、綺麗に折った鶴はひらかれて、しわくちゃの紙に戻った。消えない皺。

…でも構わない。また新しく何かになればいい。楽しかったよね。また遊ぼう。

 

「ああもうなんなん。もうコレ…凄い」語彙力喪失。

終始愛ちゃんから目が離せない。もしクラスメイトなら嫌いやのに…完敗です。