ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「17歳の瞳に映る世界」

「17歳の瞳に映る世界」観ました。
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アメリカ。ペンシルバニアに住む女子高生のオータム。

唯一の友人でいとこのスカイラーと一緒にニューヨークへ旅立つ二人。

それは予期せぬ妊娠に対する中絶手術を受けるためだった。

 

未成年の妊娠。そして親に同意を得ないまま秘密裏に中絶手術を遂行する。

現在立派な中年の当方には「あかんあかん」と眉を顰めるばかりの、この二人の女子高生の行動。

「当然倫理的な命の重み云々もあるけれど。何より貴方の体が心配だ。」「未成年で未成熟な体を、取り返しのつかない状態にしたくない。」「もしそういう事態に陥ったら一体誰が責任とれるのか。」「貴方の心に寄り添いたい。だからまだ早まるな。」

分別のついた大人の当方は、兎に角この主人公オータムを止めただろう。

「もし選択肢が同じ結果になるとしても、きちんと考えて。」

けれど。17歳のオータムが選択したのは「親にもパートナーにも告げずに中絶する」だった。

 

この作品の、もどかしくも秀逸なのは「主人公たちの取る行動に徹底的に寄り添っているところ。」肯定も否定もしない。ただただ淡々と彼女達に伴走する。

 

17歳のオータム。学芸会?の出し物で突っ込みにくい陰気な歌を披露するなどのノリ切れない女子。友達は同級生でいとこのスカイラーくらい。

実は気になっいた。遅れている生理や体の変化。一人産婦人科を受診したオータムは自分が妊娠したと告げられる。

親に相談できないまま。自然に流産する手立てはないのかと調べた挙句、ペンシルバニアでは未成年の中絶が難しいと知ったオータム。

唯一オータムの妊娠を知ったスカイラーと共に長距離バスに乗って。二人は旅に出た。

 

オータムの行動の全てに溜息を付いてしまう当方。あまりにも危なっかしくて。

当方は「不本意な妊娠を責めたりしないから。一番良い選択肢を一緒に選ぼう」と思うけれど。

オータムの行動は「誰にも知られたくないし信じられない」という周囲への拒絶。

 

当方が地味に嫌だなと思ったシーン。学芸会の後の打ち上げで、同級生の男子がオータムを「メス豚(言い回しうろ覚え)」と揶揄する場面があったんですよね。

それ自体も嫌な気分になりましたが。帰宅後も苛々している実娘に対して、父親も「メス豚呼ばわり」を蒸し返してオータムをイジリ始めるというシーン。

母親は当然父親に対して怒りを示していましたが…「そういう男性が同じ家庭内に居る」というのは、自身の体の変化を言いにくい、万が一同性である母親に真実を告げたら、廻りまわって家族に傷つけられるだろうと思うと…母親にも何も言えなかっただろうなと察した当方。

 

兎に角オータムの願いは「何事も無かったことにして日常に戻ること。」

同級生でいとこのスカイラー。同じスーパーでバイトしていた彼女は、オータムの窮地を知って、即行動…そして二人の中絶旅行は始まった。

 

またねえ。スカイラー。可愛いんですわ。

見た目の可愛いさ。それ故にバイト先の店長からセクハラをされていた。

オータムの妊娠と中絶したいとの意向を察して。バイトのレジの売り上げをポケットにねじ込んだスカイラー、そして二人は長距離バスに乗って旅に出る。

見た目の可愛さとは裏腹に。結構行動派…というか悪知恵の働くスカイラー。

けれど…やっぱり可愛い見た目故に、長距離バス内でもナンパされ。到着したあとのニューヨークでもその男性との縁は続く。

これもねえ。当方の老婆心がガンガン疼く案件。それは「視点を変えれば『運命の人』に見えるかもしれないけれど…やっぱり知らない男性と閉塞的な場所に行くのは危ないぞスカイラー。」自身の軽率な行為の危険性を意識しないと…そう思うけれど…この作品はスカイラーの行動もまた否定も肯定もしない。

 

オータムもスカイラーも決して多くを語らない。

キャラクターに心情をセリフで語らせない。寡黙で、交わすのは不安げな表情。

だからこそ老いたる当方は一方的に気をもんでしまうのですが。

ニューヨークの「明日には中絶手術が受けられる」産婦人科のカウンセリングで。「これは形式的なものだから。」と告げてからカウンセラーがサクサク質問してきた内容に対する、オータムの表情。

17歳。年齢にしては性交体験が豊富。けれどそれは幸せなもの?強制されたことは?暴力は無かった?相手は避妊した?

答えられる質問もある。けれど…言葉に詰まる質問がある。これまでの性交体験…若さ故の無茶もした。けれどそれは…一方的では無かったか。そこで当方の脳裏に過った「メス豚」呼ばわりし嘲け笑った男子たち。オータムが体を重ねた相手は今こういう事態になっても信頼できる相手ではないという絶望。

これまで終始寡黙で無表情だったオータムが、表情を歪め…言葉を詰まらせて涙を見せた瞬間。

 

「ああもう。頼むから。頼むから今じゃなくてもいいから…誰でもいいから相談してくれ。」「貴方を大切に出来る相手に体を預けてくれ。」泣きたくなった当方。

 

中絶手術を行う病院も、色んな事情を鑑みて宿泊施設がある事を提案したのに。「何とかなる」と突っぱねるオータムに歯噛み。

子宮頚管を広げるラミナリアで出血するなど「ああもう!だから安静にせいと言ってるでしょうが‼」脳内で叱咤。本当に!体を大切にしてくれよ!

 

なので…最後ペンシルバニアへ帰るオータムとスカイラーに「お疲れ様でした」と小さく口にしながらも、泣きたくなった当方。

 

これは、17歳の女子高生二人が判断し行動した出来事に否定も肯定もしていない物語。大都市には(実際の所どこまで本当なのかは分からないけれど)未成年の女性の中絶手術を手助けできる施設がある。

そこに家族に秘密で駆け込む未成年。その目的は「何事も無かったことにしたい」という切羽詰まった気持ちだったけれど…。

「なあ。命の重さ。忘れんといてくれよ。」

歳を取った当方はやっぱり説教臭い事を言ってしまう。

「誰かを堪らなく好きになって。相手が欲しくて体を重ねる。自然な気持ちやし悪くない。でも…自分が相手を想う気持ちよりも相手のウエイトが明らかに低いと感じた時は少し待ってくれ。」「大好きなその相手も大切やけれど自分の事も大切にしてくれ。」

 

とは言え。こういった選択を選んだオータムを、もうこれ以上追いつめてはいけない。

きっとしばらくはスカイラーがそっと寄り添ってくれる…けれど。

「ちゃんと貴方たちを大切にしてくれる相手に自分を委ねてくれ。」

 

説教臭い当方からの切なる訴え。17歳の瞳に映る世界に頼むから届いて欲しい。

大丈夫。そこまで絶望的ではないはずだと大きな声で伝えたいです。