ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「親愛なる君へ」

「親愛なる君へ」観ました。
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台湾。ピアノ教室の講師・ジェンイー(チェン・シュ―ファン)。老婦・シウユーとその孫・ヨウユーとの3人暮らし。重度の糖尿病を患うシウユーの介護と、まだ幼いヨウユーの面倒を一人で見ているが彼らとジェンイーに血の繋がりはない。

ただの間借り人であるジェンイーが何故彼らに尽くしているのか。それは、この二人が今は亡き同性パートナーの家族だから。

ある日、シウユーが急死した。その死因を巡り、疑いの目を向けられる事になったジェンイー。しかも警察の捜査が進むにつれ、ジェンイーにとって不利な証拠が次々と見つかっていく。

 

第57回台湾アカデミー賞金馬奨)の最優秀主演男優賞と最優秀助演女優賞、最優秀オリジナル音楽賞受賞作品。チェン・ヨウジエ監督。モー・ズーイー主演。

 

港町に立つ家。そこに住む、シンユ―とヨウユー。糖尿病と難治性潰瘍を患う老婦のシンユ―と小学生のヨウユー。二人ではままならない生活の面倒を見、切り盛りしているのは『間借り人』のジェンイー。

血の繋がりのない赤の他人。そんなジェンイーがかいがいしく二人の面倒を見ている理由…それは、かつて愛した同性パートナーが遺した家族だから。

ヨウユーがまだ幼かった頃に他界したパートナー。シウユ―とヨウユーの世話をする事が何よりも弔いになると感じていたジェンイーであったが。

 

冒頭、ジェンイーが法廷に立つシーンから幕明け。『シウユーを殺害した罪』で審判されることとなった彼には一体どういう事情があったのか。

 

物語はサスペンス調で進められるが、終始もの悲しい雰囲気が漂う。

海辺の家で暮らす3人。あくまでも間借り人のジェンイーは屋上に寝泊まりしているが、家族の生活の全てを担っている。

小学生のヨウユーは「もう一人のパパ」とジェンイーに懐いており、老婦であるシウユ―も体調に波があり頼らざるを得ない。

昼間はピアノ教室で子供たちにレッスンし、帰ったら二人の世話に明け暮れる日々。

 

劇中で取り調べ中に「どうして亡くなったパートナーの家族の面倒を見ているのか(言い回しうろ覚え)」と聞かれた時に「もし僕が女性で、結婚した相手が亡くなったとしてその残された家族の面倒を見ているとしたら、同じことを言いますか?」と答えていて、確かに性差は無いはずだな…とは思いましたが。だとしてもジェンイーの『未亡人』としての徹底ぷりよ。

 

ヨウユーは懐いてくれて可愛いけれど。シンユ―がねえ…(溜息)。

糖尿病がかなり進行しており。おそらく他愛もない足の怪我から難治性潰瘍へと移行した。痛みが強く身の置き所が無くて、そのせいで感情にもムラがある。

大人しく医者のいう事を聞いていたらいいのに、民間の得体の知れない何かに頼ろうとする。一時的に透析をする羽目になったり、足切断まで状態は悪化しているのに治療を放棄する。挙句薬に依存する。はっきり言って「コンプライアンス不良患者」。

名演を評価され、助演女優賞を受賞するに至ったチェン・シュ―ファン…彼女の真に迫ったシウューの演技に、下手したら舌打ちしそうになった位苛々した当方。

 

「体が辛くなったら泣きつく。そうやって中途半端に病院に掛かりながらも、治療に対して非協力的。かといって自宅で自己流で良くなるはずがない。挙句家族に当たり散らして家族の精神を追いつめ疲弊させる。薬の飲み方もヤバい。ホンマにタチが悪い。」「誰かがシウユーを殺したとしても、これは自業自得だ。」

(なかなか自分の病気と向き合えない、怖い、という感情は当然理解していますけれど…ここまでくるとやっぱりシウユーが悪いですよ)

 

最終的に「何が起きたのか」は明かされていましたし、その流れも「ああ…なんでこんなことになってしまうのか」と悲しくなってしまいましたが。それでも当方は「自業自得だ」としか思えない。

 

ひたすら、愛する者=家族を守ろうとしたジェンイー。

養子縁組をし、晴れて親子となった。ヨウユーが可愛くて大切で、本当はパートナーと一緒に育てたかったけれど…これからも一緒に暮らすための環境を整えつつあった。

体調がコントロール出来ている時のシウユーは、辛辣さを顰めて自分をねぎらってくれる。そんな穏やかな家族のシーンがただただ悲しい。

 

闇の薬物売人。20代の最高潮だった頃のいしだ壱成みたいなビジュアルの彼がジェンイーに言った「無理をして詰め込み過ぎるなよ(言い回しうろ覚え)」。

あまりにも献身的過ぎるジェンイーの姿に、これは精神的に息詰まるだろうと思っていたので、こういう存在の人物が居た事に内心ホッとした当方。

 

そして。亡くなってしまったパートナーとの暖かい思い出と、「どうして彼は逝ってしまったのか」が語られる終盤。

 

「パートナーの死後、ずっとあった贖罪の気持ち。それが今回シウユーの死を問われた時に罰を請け負う事で家族を守ろうとしたんだな。」

でもそんな自己犠牲…よくない。

 

ヨウューがねえ。本当に可愛いんですわ。熱演が素晴らしい。

ジェンイーを「もう一人のパパ」と呼んで懐いていた。なのに…祖母の死後、周りが色々言ってくる。ジェンイーは自分が知っている人間ではないと言う。

結局全てを分かっていたヨウユーが、ジェンイーと引き離されるシーンには、当方の脳内で中島みゆきを流しながらの涙、涙。これはあかん。

そして最後…穏やかに幕を下ろしながらの、ヨウユーの歌にまた泣く当方。

 

ジェンイーは果たして『愛する家族』を守れたんですかね?

 

幕を下ろした後の世界が、ジェンイーとヨウユーにとって暖かいものであって欲しいと切に願います。