ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「スーパーノヴァ」

スーパーノヴァ」観ました。
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ハリー・マクイーン監督作品。主演、コリン・ファース/スタンリー・トゥイッチ。

 

20年来のパートナーである、ピアニストのサム(コリン・ファース)と作家のタスカ―(スタンリー・トゥィッチ)。

情熱的な時を経て、穏やかな愛情で繋がっている現在。これからも二人で生きていく。死が二人を分かつまでは…そう思っていたのに。

タスカ―に不可逆的な病が見つかった。悲しいかな特効薬はない。次第に彼の記憶は薄れ、人格が変容していくだろう。

「二人で過ごした日々を忘れていって。そして何も分からなくなっていく。」

元々が知的なタスカ―にその現実は受け入れたがいし、パートナーであるサムも正直どう受け止めて良いのか分からない。

 

サムのコンサート会場まで。二人でキャンピングカーに乗って向かう旅路。懐かしい人々との集いなどを経て。二人が出した答えとは。

 

「ああこれ。ACP案件(アドバンス・ケア・プランニング)だ…。」

 

【当方の感想文よりそのまま抜粋】

近年医療業界で見かける言葉。いわゆる『人生会議』ことACP。

自身の終末期をどういう風にするか。それを心身共に健康な内に家族や周囲の人間と話し合い、自分の意思を伝えておくこと。もし自身に不測の事態が発生し、生死を彷徨う羽目になった時…延命を行うか死を選ぶのか。その選択と決定を自分以外の人にさせなくて済むために。自分らしく生きる、または死ぬために。事前にそういう話しをしておきましょうという内容。

 watanabeseijin.hatenablog.com

 

自身に不可逆的な疾患が見つかった。その性質上、いずれ様々な出来事に対し今と同じレベルでは判断が出来なくなる。

そんな時。「元々私はこういう判断をする人間なんだ」という意思表示をし「だからこうしてくれ。」と信頼している相手に依頼しておくこと。

 

『いざ』という時。事前の打ち合わせがないことで、一体どれだけの人が苦しんだか。それは『誰かの為に生かされた人』だけではない。『本人は生きていたいはずだと決めた人』の心をも時に追いやった。

 

この作品は一貫してシンプル。つまりは、病によってこれからおそらく何もかも忘れていくだろうと思っているタスカ―は「お前の世話になるくらいなら今の状態のうちにケリを付けさせてくれ」と望んでいるが、パートナーであるサムは「そんな事を言わんと生涯を共に過ごさせてくれ」と思っている。その攻防戦(言い方よ)。

 

二人でキャンピングカーに乗ってのドライブ旅行。かつて訪ねた思い出の地。サムの実家。サムの家族や昔からの友人とのパーティ。

それは楽しいイベントではあるけれど…悲しい。それは全員が「おそらくこれが仲睦まじい二人の最後の姿…」と分かっているから。

 

誰にでも訪れる終わりの時。人は一人で産まれ、基本的には一人で死ぬ。

愛し合い。もう二度と離れない、生涯を共にすると誓っても…どちらかが先に逝く。

その『先に』となってしまう者と『見送る』立場になってしまった者。

 

当方が思ったのは…「サムよ。もしタスカ―と立場が逆だったら…?」

 

生涯を共にすると誓ったパートナー。例え病に侵されたとしても、自分との思い出を全て失ってしまったとしても…自分の事を認識できなくなったとしても…怖いけれど、決して見捨てたりしない。だってずっと一緒に居ると誓ったじゃないか。

そう言うのは美しい。けれど…もし自分がそれを言わせるほうの立場だったら?

 

パートナーを愛する気持ちは今は変わらない。けれど、その感情は無くなってしまうだろう。愛した者の事も分からなくなってしまう。自分の感情が…いつか…手に負えないモノになっていって、体という器しか残されない。そうやって自我が崩壊していく未来を感じた時。大切なパートナーにそんな無様な姿を見られたくないと思うのは自然の摂理ではないか。

 

「綺麗なままでありたい」

それは、二人の思い出。パートナーに見せた自身の姿が、これからどう変化するのか想像もつかない自分のせいで良くない方向に上書きされたくない。

 

またねえ。主演二人が持つ元々の佇まいと、サムとタスカ―というインテリジェンスで静謐なカップリング。なので、それなりにもがいているのにぱっと見の受ける印象は淡々と静かな作品。

 

お前は怖いだろう。けれど俺だって怖いんだ。一人になるのは怖い。一人にしないで。

あの。感情をぶつけ合い、そして抱き合って眠った夜。

 

人生会議はきっと一回では解決しない。

『生涯を共にする』と誓った相手と。どう互いの人生を終えるつもりでいるのかを話し合う。そんな大切なことは、たった一回では答えは出ない。けれど。

 

星空を見上げた時。尽きてしまう前にきらっと光る星のように。

互いを支え合うように生きた、二人の人生が共に美しく光るためには。

 

とりあえず作品の幕は降りたけれど。どういう答えを二人が出したのかは、観ているこちらに委ねられたのだと。当方はそう感じたし…正直答えは出せていないです。