ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「KCIA 南山の部長たち」

KCIA 南山の部長たち」観ました。
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1979年10月26日。当時の韓国大統領、朴正煕(パク・チョンヒ)が暗殺された。

1961年。軍事クーデターで政権を握り、以降18年もの間トップに君臨したパク大統領。「独裁者」と批判される反面、絶大な人気も誇っていた彼を殺害したのは、自らの側近であった中央情報部部長(KCIA)、キム・ジェギュだった。

韓国本土のみならず。世界中が衝撃を受けたニュース。一体何が起きていたのか。

 

「あくまでも史実に基づいたフィクションです」という前振り。キム・ジュギュをキム・ギュピョンと。KCIA元部長キム・ヒョウンウクをパク・ヨンガクと名前変更。

主人公のキム部長をイ・ビョンホンが演じた。

 

『大統領直属の機関として絶大な権力を振るった韓国中央情報部。通称【KCIA】。組織を束ねる者は、その庁舎の所在地から通称"南山の部長”と呼ばれ恐れられた。』(作品チラシより抜粋)

冒頭。「KCIAとは」という、淡々とした組織紹介。それは「敬愛する閣下の為ならば、不届きな連中は根こそぎ粛清する次第です!」と言わんばかりの硬質な精神をもつ組織。

不敬な発言や行動をする者ならば、例えそれが民間人であろうと拷問、殺害もありえたという。

 

なのに。まさかの元KCIA部長パクがアメリカに亡命。アメリカ下院議会聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発した。さらには暴露本となる回顧録も執筆中であるという。

逆鱗に触れたパク大統領から、パク元部長への接触を命じられたキム現部長。

かつて朋友だったパク元部長。回顧録回収のために接触したキム部長。しかし、それは己の運命を変える歯車が回り出すきっかけだった。

 

暗殺事件が起きた1979年10月26日。その約40日前からを描いていくこの作品。

1961年。軍事クーデターで共に戦い、政権樹立から関わっていたパク元部長とキム部長。

クーデターを経て大統領に就任したパク大統領。「国のために」と懸命に戦った。けれど。18年の歳月を経てた今、かつてのカリスマはじわじわと腐食されていた。

 

「己が忠義を尽くすべきは、果たして何なのか。」

 

先日交わした、映画部部長との感想メールのやり取り。

イ・ビョンホンは今こそ格好いい」

 

パク大統領の側近でありながら。結果彼を殺害するに至ったキム部長。

かつては共に国の為に闘い。「この国を良い国にするんだ」と虎視奮闘した、そのカリスマ性にほれ込み尽くした相手を己の手で殺める。

けれど。それは決して「国のため」という大義名分のみには収まらない。そう思った当方。

寵愛を受けていた立場が崩れ始めた。代わって、欲を知ってしまった閣下に取り入ろうとするサンチュン警護室長。彼のやり方はスマートさとは正反対。やたら人を恫喝し野蛮で横柄な態度で接してくる。腹立たしい。なのに今では彼の方が閣下のお気に入り。

閣下にはもっと冷静であって欲しい。長期政権で次第に国民は不満を抱えはじめ、各地ではちらほらと不穏な動きも出始めている。デモや暴動を暴力で抑える事は出来ない。同盟国アメリカの態度も硬化している。今は毅然としたカリスマ性を発揮すべき時なのに。

 

アメリカに亡命したパク元部長。「もう閣下は終わりだ」と悟っていた彼は、遠い異国から政府に揺さぶりをかけようとした。

謀反を起こしてしまったパク元部長は、当然無事では居れなかったけれど…結局彼の起こしたアクションはキム部長の背中を押すきっかけとなり、そしてキム部長も同じ運命を辿る。新しい時代へ切り替えるためには、トップだけではなく自分たちも泡にならなければならない…結局彼らは運命共同体だったのだなと思った当方。

(パク元部長もキム部長も共に最後、片方の靴をなくしたというシーンが印象的だった)

 

終始暗い画像。ノワール作品さながらの雰囲気。「これは閣下を討つしかない」と至るまでの、フラストレーションの嵐。それに耐えに耐えるイ・ビョンホンの苦しい表情に見惚れる時間に酔った当方(褒めています)。こんなに押し殺した演技をする役者だとは。

 

付け焼刃な知識故。何を知ったかぶりがと言われるのは承知ですが。当方が受けたのは「おそらくもういつ崩れ落ちてもおかしくなかった」ように見えた、終末期のパク政権にかつての仲間たち(キム部長と、ひいてはパク元部長)が引導を渡した。という印象。

敬愛していた閣下。これ以上みっともないところを見たくないし、他の誰かに見られたくもない。今ならまだカリスマ性を保つ事が出来る。

 

この一言で表すと陳腐ではありますが。ブロマンス的な要素も感じた作品。友情、尊敬、裏切り、憎しみ…愛情。国のトップを殺害したというセンセーショナルな事件。確かに当時国内情勢は混乱していたけれど、これを「国家安泰のため」と語るには個人的な感情も付随していて、シンプルには割り切れない。

ただ。「閣下を討つこと=国家安泰のため」であることも「これが国に忠義を尽くすということだ」ということも間違いはない。

「あの頃はよかった」閣下とキム部長がたどたどしい日本語で交わした会話が切ない。

 

「何やねん韓国映画。恐ろしいな」約40年前に起きた出来事を、そうそうたる俳優陣を揃えて、重苦しくも手に汗握るエンターテイメント作品に仕上げてくる。

近年、この頃あった出来事を映画化し公開する流れが来ているのか?それらがどれもしっかり仕上がった大作であることからも、約40年前の韓国がどういう状況だったのか知るきっかけとなり、非常に勉強になる。今後も注目していきたい。そう思っています。