ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「アウェイデイズ」

「アウェイデイズ」観ました。
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1979年、イングランド北西部マージ―サイド州バーケンヘッド。

一年前に母親を亡くした19歳のカーディ。絵描きの夢を諦めて下級公務員として働き、父親と学生の妹モリ―と3人暮らし。そんなカーディの収入はもっぱらクラブ遊び、レコード、サッカー、ライブにつぎ込まれていた。

ある日『Echo&TheBunnymen』のライブで出会ったエルディス。彼は悪名高いギャング集団『パック』の一員だった。

かねてから憧れていた『パック』の一員になりたくて興奮するカーディ。晴れてメンバーになる事が出来たけれど。

 

ピーターストーム、フレッドベリー、ロイスのジーンズ、アディダスのスニーカー。現代のファッション観でも十分に高感度の高い『カジュアル』なスタイル。

(そもそも『カジュアル』とは、形式ばらず、くつろいでいるさま。特に、気軽な服装を指す)。

しかしこれはイングランドで1980年代頃に出来た『Football Casual』スタイル。週末にサッカースタジアムに通う労働者階級のファッションをそう呼んだ。

リヴァプールのサポータたちが、アディダスのスニーカーを手に入れそれを履いてロンドンのチームとの試合に行く。ロンドン子はその姿に感化され真似をした。

 

~とまあ。ざっくり「スポーツブランドで全身を固めて、贔屓にしているサッカーチームの応援に行くというスタイル」が流行ったんだろうなと解釈した当方。

 

この作品の『パック』なるサポーターチーム。

これが一言で言うと『フーリガン=ギャング集団』なんですわ。

チームリーダーのゴッドン。彼だけがやや年配だけれど後は概ね10~20代前半の少年たち。血気盛んで自分たちの置かれている状況に対するフラストレーションにいら立っている。ちょっとでもきっかけがあれば誰かに拳をぶつけたい…物理的に。

一見サッカーサポーターの風貌で。実際にサッカーチームの遠征に付き添ってあちこち行くけれど、実際にそこでやっているのは「地元の強い奴出てこい!」という喧嘩。

しかも。当方が眉をひそめた『パック』のいけない点。「刃物を振り回す奴がいる」。

喧嘩のお作法なんて存じ上げませんがねえ。ヤンキー同士の喧嘩は素手かせいぜい?木刀か竹刀やろう。何にしろ、いきなりポケットからナイフを取り出して向けてくる奴は卑怯の極み。こちらは丸腰なのに。

 

19歳のカーディ。絵描きになりたかったけれど…母親を亡くし、働くしかなかった。

本当は若者らしく遊んでいたかった…結構アフターファイブは充実している様に当方には見えるけれど…そういった中、ライブ会場で出会ったエルディス。

エルディスはカーディが憧れるギャング集団『パック』の一員であると知って。是非とも自分も仲間に入れてくれと頼み込むカーディ。

そうして晴れて『パック』の一員になれたけれど。エルディスは「あまり深入りするんじゃない(言い回しうろ覚え)」と全然乗り気ではない。

 

そもそも血気盛んな『パック』のメンバーの中でも、若干引いた場所に身を置いていたエルディスはやや特殊な存在だった。

憧れの『パック』の一員として認められたくて危険な行為に走っていくカーディ。

 

「終わりなんだろ?俺たちはもうー。」

ああもう。当方の脳内で何度も響く「まだ何も始まっちゃいないぜ」。

 

つまりは。「もうこんな子供じみた騒ぎに興じていられない」と飽きていたエルディスに対し「遅咲きの反抗期全開」で『パック』に飛び込んできたカーディ。

そもそもはライブハウスで知り合った。一緒にレコード店を巡り、ただただ町をぶらついた。何もない…何も見つけようとしていない、ただ閉塞感で押しつぶされそうなこの町を早く出ていきたいと語り合った。

絶対に気が合う。もっと深い話がしたい。趣味のこと、芸術のこと、死生観。今思っていることをとことん話合いたい。

各々抱える問題があるのだろうけれど。そのはけ口を他人への暴力などで発散する連中にはもう辟易していた。そんな時に出会った、親友になりそうな存在。

 

結構即物的にガールハントするカーディに対し、頑なに女子を拒みカーディとの交流を切望するエルディス。そんなエルディスに「きっとゲイなのよ」と決めつける女子。

…まあそういう要素も感じましたが…それよりも何よりも「心を打ち解けられる相手」が欲しくて欲しくて仕方が無かったんだろうな~と思った当方。

 

物語の終盤。「海外の危なっかしいホームパーティ文化」という当方には理解できない現場で起きた悲し過ぎる出来事と『パック』の存続自体が危ぶまれる事件の発生。

「暴力を暴力で返してはならない」「負の連鎖は何も生まない」当方は心の中で大きく叫ぶけれど…カーディはどう行動したのか。そして。

 

アッという間に劇場公開が終了してしまいましたが。一応全てのネタバレはしないようにしたい…なのでふんわり結末を濁してまとめてしまいますが。

 

『自分はどういう人間なのか』永遠に問い続ける己のスタンス。どういう思想の持主なのか。どうやったら自分を保っていけるのか。

前に見えている人や集団に憧れる。そんな思いが若い頃にあった。けれど、実際にそこに身を投じてみたら…それは果たしてなりたかった自分だったか。

苛々していたから大きな声を上げた。誰かに拳をぶつけたらすっきりした。けれど。それは一時だけで。誰かを殴ったその拳は痛かった。

集団から爪弾かれた時に想いを打ち明けられる相手。今なら分かる、何でも話せる。そう思う相手が確かに居たのに。もうどこにも居ない。二度と会えない。

 

「切ない」。

 

あくまで推測ですが。カーディはそのままギャング集団『パック』からは卒業し。公務員を続けるにしても美術の道に進むにしても、おそらくかつて彼らが見向きもしなかった『つまんない大人』として生きていくのだろう。そうして歳を取って、ふとした時に思い出す「そんな頃があったな…」。

けれど「そんな頃」に閉じ込められてもう歳を取らない相手。かけがえのない親友。

 

物語が始まった時から何故がずっと終わりの予感が止まらなくて。何だか寂しくて仕方が無かった。そんな作品。英国での公開2009年から11年。短い劇場公開期間でしたが何とか滑り込み鑑賞出来て良かったです。