ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「未成年」

「未成年」観ました。
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お父さんが不倫している。同級生のお母さんと。

 

韓国。裕福な家庭で両親から愛されて育てられてきた女子高生ジュリは、とあるきっかけで父親の不倫を知ってしまう。しかも相手は同じ高校に通う問題児の同級生、ユナの母親。

未成年でユナを妊娠出産し離婚。女手一つでユナを育ててきた。立派ではあるけれど…どこか幼く情緒不安定な母親。

 

「あなたの母親が悪いのよ。」ジュリはそう言ってユナをなじるけれど、事態は深刻な状態。「うちの母親、妊娠してるよ。あんたの父親の子供を。」

しかもユナからジュリの母親にまでその旨を連絡された。

 

「これは…厳しいな。」

家庭のある男女が恋に落ちてしまった。久しぶりの恋。「お父さん」でも「お母さん」でもない。誰かを求め、求められる喜び。甘くてワクワクする毎日。

でもねえ。そんなの、代償が伴うに決まっている。

 

この作品の監督、キム・ユンソク。なおかつ主人公ジュリの父親役。それはそれはポンコツで情けない父親を好演しているんですが。

「この人はいくつになってもただの子供やなあ~。」

綺麗な妻と娘が居て。よく分からんけれど一流っぽい会社のお偉いさんになって。高そうなマンションに住んで今度買う高級車のパンフレットを読んで。そんな絵にかいたような『勝ち組』でありながら、不倫している事が家族にばれたらとことん逃げ回る。

責めるも何も。話をする事すら出来ない。ジュリと顔を合わせない様に逃げ回り、妻にはこっそり謝って何もなかった事にしようとする。

 

十二分に傷ついたジュリの母親。毅然とした態度は崩したくない。騒ぎたくない。

これまで円満だと思っていた両親。幸せを疑わなかった家族が崩れているのに…両親は問題に向き合わない。

 

もう中絶することなど出来ない時期になっているユナの母親。当然本人は産む気満々。そんな母親に「みっともない。」「堕して。」と冷ややかな言葉を浴びせると、すぐさま感情が爆発し大泣きされる日々。もううんざり。

 

何でこんな事になった。あの子のせい。いや、悪いのはあの子の親だけれど…腹立たしい。私の家族をぶち壊して。顔を見るだけで怒りがこみあげてくる。

 

廊下でジュリがユナに掴みかかった所から大げんか。二人で教師に呼び出され叱られている所に決定的な知らせが入ってきた。

 

「ユナの母親が病院に運ばれた。」

 

昼間。ユナの母親が営む鴨料理店を訪れたジュリの母親。そこで起きた突発的な出来事からユナの母親が転倒。そのまま出血し緊急出産に至った。

 

超未熟児で生まれたユナの弟。その小さすぎる命を前に、親たちの態度に傷つき孤独を感じていたジュリとユナに芽生えていく感情。

 

題材こそシビアですが。女子高生二人があまりにも瑞々しくて…彼女達が主軸で本当に良かった。初めこそいがみ合ってギクシャクしていた二人だったけれど、実際に子供が生まれたら「可愛い…。」というベクトルに心が向いた。特に生まれるまでは「堕ろして。」の一点張りだったユナが「弟が。」「弟の為なら。」と弟への愛情に満ちてくる。

その反面。母親であるはずのユナの母親はどこかもう投げやりで…ジュリの父親との恋が終わろうとしている予感やなんかで弟と関わる事を放棄している。

当方が個人的に好きだったのがジュリの母親。

セレブな生活をしていた専業主婦。その足元を掬われたけれど、見苦しくジタバタしたくはない。けれど…気になる。だからそっと見に行くだけのつもりだったのに、結局自分のせいでユナの母親が転倒し出血。見捨てる事が出来ずに病院に運んだ。

クリスチャンの彼女が教会で懺悔をしているシーン。「あの人が憎くて。子供がどうにかなってしまえばいいのにと思ってしまいました(言い回しうろ覚え)。」

けれど結局ユナの母親の所に栄養の付きそうな雑炊を作って持って行ってしまう。「ここしか行く所がなくて…。」

 

ユナの弟の儚い命。それは二つの家族を解体し、けれど新たな絆を生んだ。

ジュリと母親の。ユナと母親の。

そしてジュリとユナ。母親たち。

(そして情けないまま転がり落ちていったジュリの父親…。)

 

ユナの弟の扱いについては「おいおいおい。ていうかそんなの許されるか。そういう大事な場面にはちゃんとユナも呼ばないとあかんやろ!」「病院よ!」「ユナの母親!お前それでも人の子か!」という急転直下を見せるのですが。

「その箱を立て向きでリュックサックに入れるととんでもない事にならんか。」なんて多分この作品を観た誰も思わなかったであろうことを心配した当方。

 

「ああそういうラストか…。」(感想文を書いている今現在、劇場公開は終了してしまいましたが、一応ネタばれしない体でやっています)

けれど不思議と気持ち悪さは感じなかった。寧ろ爽やかさすら感じる。紆余曲折あって育まれた友情。彼女たちの中に弟の存在が生き続けるには確かにベストアンサーかと。

 

一体彼女たちはここからどういう人生を歩むのだろう。始まりこそ親同士の不倫で知り合ったけれど…。今回生まれた縁はこれきりではないだろう。ジュリとユナ。母親たち。

 

幕が降りてからも「あの人たちはどうしているんやろう。」とふと思いを寄せる。辛くて切なくて…でも温かい。じわじわ沁みる良作でした。