ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「108~海馬五郎の復讐と冒険~」

「108~海馬五郎の復讐と冒険~」観ました。
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売れっ子脚本家の海馬五郎(松尾スズキ)。ある日、元女優で妻の綾子が不倫をしている事をSNSから知ってしまう。

憤慨し、離婚してやると息巻く五郎。しかし離婚をしてしまうと財産分与で1000万綾子に渡さなければならない。

「俺の金を渡してなるものか。1000万使い切ってやる!」「綾子の投稿についた『いいね!』の数108。丁度煩悩と同じ数…金でセックスを買ってやる!」

怒涛のセックス三昧。海馬五郎の復讐の日々が始まった。

 

松尾スズキさんが好きなんですよ。

大人計画の公演は人気過ぎてチケットが取れた試しがありませんでしたが。氏のエッセイ本や戯曲は大体購入していたほど。監督作品『恋の門』『クワイェットルームへようこそ』『ジヌよさらば』も勿論観た。となると今作も観る選択肢しかない。

 

「こんなに終始エロやのにエロくないR18も珍しい。」「コメディやのに何だか物悲しい。」「結局は惚れた者が負ける。」

 

予告編や劇場チラシで入手した前情報。そこから変化球なしのド直球な内容。

愛する妻に裏切られた夫の、腹いせセックス千本ノック(ここでは108)物語。

愛する妻綾子(中山美穂)。元女優で、五郎と結婚した今は専業主婦。夫婦二人の生活で裕福。家事だってこなしてはいるのだろうけれど、どこか余裕がある。五郎の金で着飾り、遊びまわり。挙句『コンテンポラリーダンサー:ドクタースネーク』に恋してしまう。

綾子がねえ…浮世離れし過ぎている感が否めなくて。「中山美穂に気を使ったのか?」と邪推してしまった当方。

確かに世の中には『~ファン』などというふんわかした応援団を超えて、『~推し』という…有象無象お好きなジャンルのキャラクターに過剰に嵌ってしまう人たちが居る。

彼ら彼女らにとってはその『推し』に対する愛こそが全てで、普段の労働も『推し』につぎ込む為の軍資金。どこまでも追いかけ。そして同じ『推し』を持つ者同士で紳士協定を組み、団体となる。

コンテンポラリーダンスを踊るドクタースネークに心を奪われた綾子。」のポエミーフェイスブック。「不倫か!」と憤る五郎に「あくまでもファンなだけ。」と弁解するけれど。夫婦関係破たんの危機。なのにとことん話合うでもなく、すがるでもなく。そして冷静になるために距離を置こう、という訳でもなく「これから一か月続くドクタースネークの全国ツアーに付いて行って、これからの事を見直します。」って。『推しの行動原理?』無邪気、無神経にもほどがある。

 

一人取り残された五郎の取った行動が「離婚すると発生してしまう財産分与分1000万を溶かしてやる!」というセックス三昧。

 

「それにしても。どうしてこういう男性は何でも洗いざらい仲間に喋ってしまうんやろうな。」夫婦の事なんてそうそう喋らない気がするんですがね。友達の業界人や腐れ縁の女優、そして飲食店を営む妹なんかにあっさり状況を話して。彼らも巻き込んでいく。

後は怒涛のノルマ潰しなんで。「こういうシチュエーションで突然セックス!」というコントとも取れるシーンが続く。

場末~高級まで。色んな風俗嬢との絡みや、最早日常がハプニングバー?みたいになっていく下りもニヤニヤしましたが。

女性陣の中で、当方が一番好きだったのは『腐れ縁の女優、パニック障害を持つみっちゃん/秋山奈津子』。友情が成立するセフレ。おそらく関係は相当古くから。お互い好き勝手な事が言い合える同士。これは…正直憧れる。(秋山奈津子自体がこなれた演技が上手すぎて、当方の大好きな女優だという点も大いにある。)

そして男性では『プロデューサー糸井/岩井秀人)』。モテ男っぽい発言で上から目線だった彼も遂に巻き込まれ。終盤、圧巻としか言いようの無かった『女の海』でのシーンでは思わず声を殺して笑ってしまった当方。吹っ切れ過ぎて。

 

まあ…ある意味坦々とお話は進み。とはいえ『108』という煩悩について深堀されるわけでは無い。

大勢の体とまぐわっても結局「綾子…。」と焦がれてしまう五郎に共感出来るほど綾子に魅力を感じられず…宙ぶらりん感が否めないまま。気が付けばもう幕が降りようとしている。

 

後ねえ。この一か月に五郎に起きた事で「流石にこれは普通妻を呼び戻さないとおかしい出来事」があったじゃないですか。常識的に考えて。それは…どうなんですか?綾子もおかしいけれど、五郎もおかしい。そうなると…結局似た者夫婦の盛大なじゃれあい月間じゃないですか。

 

「確かにここでエンドロールでいいと思う。思うけれど…。」

どうしても当方の脳内で続くその物語は、夫婦にとっては甘々で周囲にとってはとんだ茶番。何だかなあ~。

 

「冗談じゃない。冗談じゃないぞ。」