ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「オアシス」

「オアシス」観ました。
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「ああ。これは愛だ。」

 

ひき逃げ事故を起こし服役、そして出所したばかりのジョンドゥ(ソル・ギョング)。家族の元に戻るが、誰も彼との共同生活を望んでおらず、煙たがられていた。

ある日。被害者家族の住むアパートを訪れたジョンドゥは、丁度引っ越し作業を進めていた被害者家族と、アパートに一人取り残されたコンジュ(ムン・ソリ)と出会う。

脳性麻痺からの身体障碍を持つコンジュ。ひき逃げで父親を失った後、兄夫婦と共に生活していたが近づく兄嫁の出産もあり、兄夫婦は障害者助成制度のあるマンションに引っ越し。けれど新居にコンジュは連れて行ってもらえず一人取り残され。食事など最低限の身の廻りの事はコンジュの隣人に世話してもらっていた。

前科三犯の社会不適合者と身体障碍者。世間から隔離された世界で、徐々に惹かれ、愛を育んでいく二人。しかしその姿は誰からも認められず。

そして遂に事件が起きる。

 

「『バーニング劇場版』大ヒット公開記念!イ・チャンドン監督特集決定。」

これにはぜひ乗っからないと。『バーニング劇場版』で案の定イ・チャンドン監督の世界観に魅せられ。「もっと欲しい。もっともっと欲しい。」そんな欲求が溢れる中での『ペパーミント・キャンディ』と『オアシス』劇場公開。

 

「『オアシス』日本公開2004年?15年経っても尚褪せない…と言うかこんな純愛映画を他に知らない。何だかもう…堪らない。」

 

作品鑑賞中、映画館を後にした時、そして今現在も。ジョンドゥとコンジュを思うと涙が出てくる。胸から何かが込み上げて来て「あああ!」と言ってしまう。

 

主人公ジョンドゥ。強姦未遂、暴行、そしてひき逃げと随分穏やかでは無い前科三犯の持ち主。けれど彼を見ている限り、決して暴力・凶暴性は感じなかった。

よく言えば飄々。悪く言えば…周囲への配慮が一切無い、奇行スレスレの行動を繰り返す人物。

何と言うか…社会生活を営む上で必要な協調性が著しく乏しい人間。けれどそこには悪意は無い。驚くほど無邪気で本能に従っている。一言で言えば無神経。そういう風に見える。

 

刑務所から出所したジョンドゥ。なれなれしい話し方、挙動不審。気持ち悪いなあ~と眉をしかめて観ていた当方。(例えば、島豆腐系のでっかい豆腐一丁を手づかみで食べるという不快感。)

これ幸いとジョンドゥと縁を切ろうとしていた家族の望みも空しく。結局小さな自動車整備会社を営む兄の元に転がり込み。折角新しい職も見つけてくれたのに「明日からでも良い?今日はいく所があるから。」嫌いやわ~ほんま嫌いやわ~。と思っていたら。自らが犯したひき逃げ事故の被害者家族宅を訪れたジョンドウ。

おや?と思ったのもつかの間。「寂れたアパートに一人で暮らす脳性麻痺の女性」に対し、どうせ何も出来やしないだろうとレイプしようとするジョンドゥ。

「お前は万死に値する。」これはあかん。絶対にあかん。そう思ったけれど。

まさかの。ジョンドゥの元にコンジュからの電話。「私の事、まだ見れる顔だって言った?」「ねえ。また来て。」

初めこそ最悪。けれど。色んな話をして。二人で出かけて。次第に打ち解けていく二人。楽しい。二人で居ると楽しい。

 

脳性麻痺で発語がたどたどしく、思いが表現出来ず意思疎通がスムーズに取れない。だからと言って、コンジュに感情が無いはずがない。」

 

「彼女には分からない。」「こちらが何を言っているのか分からない。」「今彼女の前で起きている事を理解できないだろう。」

 

コンジュの兄夫妻が。隣人が。そしてこれまで彼女に関わった人の多くが恐らくそう思っていた。だから『ヒト』ではあるけれど、『意思を持たない異形のモノ』として彼女を『扱っていた』。

コンジュにも感情がある。その当たり前の事を。違和感なく、ごく当たり前に受け止めたのがジョンドゥだった。

 

「そもそもコンジュは何処までセルフケアできるんやろう?」「いくら何でも体が不自由な女性を放置しすぎやろう。」「行政の不介入っぷり。そして近隣住民から一切二人で居る所を目撃されない地域。」「これは家族の虐待案件。」ちらちらと余計な事も脳内をちらつきましたが。

 

仕事の合間を縫ってはコンジュの元へ。逢瀬が互いに楽しみで。二人で過ごす時は夢のよう。そんなラブラブなシーンに、ふと差し込まれる『もしも~』の映像。

「これはコンジュの空想。そして希望。」当方はそう解釈。

 

閉ざされたあの部屋で。一人で空想の世界に居た。蝶に囲まれて自由に羽ばたきたい、そう思っていた。

恋をしたい。誰かを堪らなく好きになって、そして相手からも気持ちを寄せられる。そして求め、求められたい。愛し合いたい。

 

ありのままのコンジュをそのまま愛している。そう見えたジョンドゥ。二人っきりの冒険。幾つものエピソードに心が爆発しそうになったけれど。

同じ体験であるけれど。感情をスムーズに伝えられないコンジュの心の中から見えた景色。それは言葉に出来なくとも、ジョンドゥには伝わった。同じ景色を見た。

その彩りと儚さに泣けてくる当方。何だこれは。何なんだこれは。

 

危ない。純度が高すぎて怖い。そう過った時。案の定、最高潮に盛り上がった所からの急転直下。夢の様な日々は続かず。

「何でこんなことになっちまうんだよおおおお。」当方の心に住む藤原竜也が絶叫。

 

『純愛映画』。どうしても当方の貧相な語彙力では、そうとしかこの作品を表現出来ない。

『社旗不適合者と身体障碍者の恋』。けれどそれは決してどちらかが優位に立った感情でも、同情でも無い。

「ただ。二人の男女が出会い、惹かれ、求め合った。」どの恋人同士にも起きる事がジョンドゥとコンジュにも起きた。本当はただそれだけ。なのにどうしてこんなに特別に感じて、胸が苦しいのか。

 

歳を重ねるにつれ忘れていく事。誰かを想うシンプルな感情を交わすにはあまりにも二人は危なっかしくて。理解されなくて。

 

二人で一緒に過ごせない日々があっても。もう恐怖に怯えないようにとジョンドゥが取った行為とそれに返信したコンジュ。

 

「ああ。これは愛だ。」

 

観ている側としては終いには感情がボロボロになりましたが。きっと作品の幕が降りた先の世界では二人は幸せに過ごしている。そう思えたラスト。

 

オアシスにたどり着いた?いや、二人は既にオアシスに居た?

美しくて危ない。儚いけれど誰にも壊せない。そんな世界。

 

恐ろしい作品を映画館で観られた事に大感謝。

もう言葉が出ないので。これにて幕引きです。