ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ナチュラルウーマン」

ナチュラルウーマン」観ました。
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第90回米アカデミー賞外国映画賞受賞作品。

トランスジェンダーの主人公を、実際にトランスジェンダーである女優が演じた。

 

チリ。昼間はウエイトレス、夜はナイトバーで歌うマリーナ。年上の彼氏、オルランドと二人暮らし。

マリーナの誕生日の夜。中華料理屋で誕生日を祝い、帰宅。満たされ、幸せな一日のはずが…。
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突然、オルランドに何らかの発作が発生。慌てて病院に搬送したけれど…甲斐なくオルランドは急死してしまう。

余りの出来事に衝撃。戸惑い。悲しみ。

そんなマリーナに追い打ちを掛けてくる『オルランドの家族』

 

アカデミー賞で部門賞を取った事。主人公をトランスジェンダーの女性が演じた事。

その2点以外はほぼ事前情報を見ませんでしたので。「こういう話だったのか…」と。

腹立たしくなり、切なくなり…そして、何だか清々しい気持ちになった作品でした。

 

近年LGBT問題に関する映画作品の増加。性別や思想が違っても。如何なるペアリングも、人と人が愛し合う事は決して異常ではない。大体はそういう主張。

 

「当方は異性愛しか経験はないけれども。好きになった人なら性別は関係ないと思う」特別大声で叫んでいる訳ではありませんが。当方はずっとそういうスタンスを持ってきました。けれど。

 

バイセクシャルな人物に対し、影で「可哀想」と言った友人。全く違う時。「ああいう人達、気持ち悪い」と言った人。当方の先述した意見に「何言ってんの」。そういう考え方の人たちが居る事も現実で。

 

差別や偏見の無い世界。理想ではありますが…個人個人に思想や倫理観、生理的なボーダー等の相違がある限り、皆が統一した価値観を持つ事は不可能に近い。

 

若い時は。「そんなのおかしい!」「気持ち悪くない!」と不快感を露わにした当方でしたが…今は「理解できないものを否定してはいけませんよ」と勤めて穏やかに発するばかり。

 

最愛のパートナー、オルランドの急死。打ちのめされるマリーナ。

 

けれど。彼には妻子が居て。つまりはマリーナ、不倫相手。

つまりはこれ、もうベタ中のベタな不倫女性メロドラマなんですよ。

 

オルランドが亡くなった途端。二人で住んでいたアパートに乗り込んでくる、彼の息子。「今すぐ出ていけ!」

彼の妻。「彼の車を返して。そしてあのアパートも早く引き払って」

そして。「絶対に葬式に出るな!!」

 

(これって…国の違いなんですかね?日本なら絶対に言われるし、不倫相手側はあれこれ主張せずにひっそり身を引くイメージがある)

 

ただ。この作品がメロドラマで終わらない所以。それはマリーナがトランスジェンダーだという事。

 

そりゃあ家族からしたら、「夫が。父親が。外にパートナーと作っていた」となると、どんなに覚めた家族関係だとしても腹が立ちますよ。しかも相手は『オカマ野郎』(ひどい)。

 

何それ。私という妻が居て。子供も儲けたのに。何だよ親父。こんな「化け物」と。

 

オルランドの家族がマリーナに対して取った言動や行動。見ていてムカムカしましたし「地獄に墜ちろ!」と思わず心の中で悪態をついてしまいましたが。

 

彼らが本来とことん話すべき相手だったのは、夫であり父親であったオルランドなはずで。

(正直、これはオルランドと家族の問題であって。マリーナはとばっちりなんやなあ~と思わなくもない当方)

 

平常時。マリーナという女性が居なかったとして、彼らはトランスジェンダーという存在に対してどういう感情を持っていたのか。それはやっぱり刺々しいモノなのかもしれないけれど。けれど。

 

怒りに任せて。目の前の女性に対して、どういう言葉を投げつければ相手は傷付くのだろうかと。偏見の気持ちを倍増してぶつけて。そうやって己の溜飲を下げようとしても、自分が惨めになるばかり。

 

元々は男性の体で生まれて。けれど自分は女性だと。そうやって自身の不一致を合わせようとしてきた、そういったこれまでの人生で。

当方の推測ですが…マリーナに対してこういう言葉を投げつけてきた人はいくらでも居ただろう。何度も不愉快な目にあって。傷付いて。そして残念ながら、それは終わる事は無い。けれど。

 

彼女には理解してくれる人も居た。同じ店で働く仲間。歌の先生。そしてオルランドの弟。そしてオルランド。最愛にして。突然逝ってしまった恋人。

マリーナは決して一人ぼっちでは無い。

 

下らない事を言ってくる人。世間の目。そんな逆境。暴風が吹き荒れようとも(実際に吹き荒れていましたが)「前に進みたい。」

 

作中。何度もマリーナが口に出していた言葉。どんなに強い風の中に居ようとも、前進したい。愛するオルランドを失った悲しみ。彼は何者にも代えがたいけれど。ちゃんとお別れをしたい。

私たちの事を何にも知らない奴らが。どんなに下らない事を言って騒いだとして。まともに取り合っている暇なんてない。私はただ。オルランドの実体がこの世から亡くなる前に、彼にさよならを言いたい。

ただそれだけ。

 

「男だとか女だとか。関係ないのにな。これは…ベタ中のベタな不倫女性メロドラマなんやから。」

 

オルランドが残した、ロッカーの中身。

 

一体何だったんでしょうね。

当方は、マリーナが前進するための追い風であったと。そう思いますよ。

 
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