ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「シェイプ・オブ・ウォーター」

シェイプ・オブ・ウォーター」観ました。
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「幾多にも姿形を変える、愛のために」

 

ギレルモ・デル・トロ監督作品。90回米アカデミー最優秀作品賞受賞作品。

 

1962年。冷戦時代のアメリカ。政府の研究施設で清掃員とした働く、主人公のイライザ(サリー・ホーキンス)。
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赤ん坊の時、川辺に捨てられていた彼女。心無い人物に依って声帯を傷つけられていた彼女は声を発する事は出来ず。

劇場の上のアパートで独り暮らし。夜勤勤務なのもあって。夜の決まった時間に起床。食事の準備をして。入浴しながらマスターベーションをして。隣に住む、売れない画家の友人に食事を差し入れして。0時から朝までひたすら掃除。仕事が終わったら画家とテレビを見ながらまずいパイを食べて。そういう日々を過ごしてきたけれど。

 

ある日。研究施設に秘密裏に運び込まれた『半魚人』。南米では『アマゾンの神』とあがめられた未確認水洋生物。当然研究職員とはコミュニケーションが取れず。けれど。

ふとした事から。『彼』の存在を知ってしまったイライザ。そして恋に落ちて。

 

「デルトロ監督が『愛』をテーマにしたら。こんなに優しいおとぎ話になるのか…」

 

男子が大好き監督。押井守庵野秀明黒沢清タランティーノ。そしてギレルモ・デル・トロ

「思春期。ロボット。お化け。怪獣。西部劇。ドンパチ」エトセトラ。エトセトラ。

その中でもデル・トロ監督は主に「怪獣」「ロボット」の「日本オタク」な印象が強く。

当方の属する、たった二人の映画部でも。『パシフィック・リム』の話題が出ようものなら映画部長はエンドレスに熱を帯びて語りに語り。

それに対し。毎回静かに「デル・トロと言えば『パンズ・ラビリンス』は最高ですよ」と打ち返し続けた当方。
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今作の『彼』。
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(サワーズの亀そっくり‼)パンズ・ラビリンスでも奇妙な生き物を演じた、ダグ・ジョーンズが演じたと知って胸が熱くなった当方。
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「やっぱりデルトロ界の変な奴は彼じゃないと‼」

 

サリー・ホーキンス。決して美人な女優ではないけれど。『GODZILLA』『ブルー・ジャスミン』等。結構色んな作品に出ているので顔は知っている。

華は無いかもしれないけれど、安定安心の手練れ役者。(日本人で言ったら安藤玉枝ですかね)

今作の主人公イライザ。声が出せない。手話で会話して。一見内気で地味な女性だけど。決して彼女は臆病では無い。恋をしたらまっしぐら。そうして、色の無かった彼女の世界は鮮やかな色に染められていく。

 

『異形の者同士の恋』

 

半魚人という、文字通りの異形の者と。はっきり言うと…不美人な上に発声にも障害がある中年女性(なんて失礼な言い回し。震える…)の恋。

 

この二人の、ぎこちなくも果てしなく純度が高い恋愛について語る人は多いと思いますが。

 

 「周りの人達の姿よ…」

 

主人公イライザと、半魚人の彼。二人は直ぐに恋に落ちて。何だかんだラブラブじゃないですか。デル・トロがまさかセクシャルな部分をこんなに突っ込んでくるとは思いませんでしたけれど。まま満ち足りた性生活を送って。けれど。

「結局ここでは生きていけない…」という人魚姫展開。そんな切なさ…もありますが。

 

「悪の全てを担ったマイケル・シャノン演じた警備員。ストリックランド」
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政府の研究施設で。未確認水洋生物ですよ?そんな得体の知れない生き物と対峙する担当者。見た目もグロテスクで。決して愛せない。だから暴力でねじ伏せようとした。そうしたら案の定。暴力は暴力しか生まず。痛い目に遭ってしまって。尚更募る嫌悪感。

「電流が流れるこん棒」というアイテム片手に『彼』を虐待する姿。憎たらしいけれど。

施設から帰れば愛する家族が居る。妻と子供二人と。郊外の一軒家に住んで。「いい所じゃないの」と妻は満足してくれているけれど。もっと。もっといい暮らしを都会でさせてあげたい。

終盤。主人公カップルを追い詰めながら。誰よりも追い詰められていたストリックランド。その悲壮感。

完全な悪者であれば憎めるのに。なのに。血の通った哀しさ。

見ないふりをしたかった。見たくなかった。けれど。俺は確実に腐っていってる。もう戻らない。

あの指…。彼を象徴した、あの二本の指。

 

そして、彼女の友人。イライザの隣家に住む売れない画家、ジャイルズ。
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「えっ?二人恋人じゃなかったっけ?」序盤。思わず声に出しそうになった当方。だって。あんなに仲睦まじくしていたのに?

(って、錯覚しますがジャイルズ ゲイ設定なんですよね。となると、奇跡の『男女間の友情』が成立しているパターンなんですね)

 

多くは語られなかったけれど。「今は酒は呑んでないよ」そういう失敗をしてしまった過去があったのか。解雇されたかつての会社の上司に絵を持って行くけれど。時にはやんわり。時にははっきり。上司は彼の画を受け取らない。

「君がいるから生きていられるよ!」「君といると楽しい」そうやってイライザと過ごした。単調だけれど愛おしい日々。なのに。

「私と彼は一緒なの!」「彼を救わないなんて。私たちも人間じゃないわ!!」何故。イライザにそんな依頼をされる。「好きな人が出来た。運命の人なの」って。安住の仲間に一番言われたくない言葉。なのに…協力するジャイルズ。送り出す役目なんて。全当方が泣く瞬間。

 

イライザを取り囲む人達が余りにも優しくて。先述のジャイルズ。そして清掃員仲間ゼルダ

売れない画家。ゲイ。黒人。彼らもまたマイノリティで。社会の隅っこで暮らしていた。大切な友人イライザが。明らかにおかしな相手との恋に落ちて。でも。彼らは初めこそ驚いたけれど。決して笑わなかった。二人の恋を後押しした。

優しい…優しすぎる世界。

(加えてあのソ連の人…不憫すぎる)

 

優しすぎる。夢の様なおとぎ話。けれど。

 

「二人は幸せに暮らしましたとさ」ストーリーの語り手であるジャイルズに語らせて。

そうやって『おとぎ話』として二人の世界を閉じさせた後。

一体。一人になってしまったジャイルズはどうなってしまうのか。

 

美しくて。不思議で。これで良かったと言い聞かせるけれど。終いには堪らなく切ない気持ちが溢れだしてしまう。

 

「デル・トロ監督作品でこんな気持ちになるなんてな…」溜息が止まらない。そんな作品でした。