ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ビジランテ」

ビジランテ」観ました。
f:id:watanabeseijin:20171219001513j:image

「この作品を観ずに今年の邦画を語るな!」

そんな声も聞いた、『日本単館系映画の本格ノワール作品』。

ノワール作品=虚無的、悲観的、退廃的な指向性を持つ犯罪映画(ウィキペディア先生より)まあ当方の乱暴な意訳としては暴力映画。

ノワール作品と称される映画は結構好きで。そして映画館でよく見た予告も気になって、随分と期待値を上げて観に行ってきました。

 

結論から言うと「ちょいちょい引っかかる所もあったけれど、好きな感じやった」

 

地方都市。土地の名士であった父親の日常的な暴力に、遂に抵抗しようとした幼い三兄弟。

しかしそれは遭えなく失敗。そしてその夜、長男は失踪した。

30年後。市議会議員になった次男の二郎(鈴木浩介)。デリヘル店の雇われ店長三郎(桐谷健太)。別々の環境ではあるけれど、変わらず地元で生活していた二人。しかし。

大嫌いだった父親の死。それをきっかけに30年ぶりに現れた、長男一郎(大森南朋)。

地元で都市開発事業が進む中。その土地の一部を所有していた父親。誰もが二郎が相続出来ると思っていたのに。まさかの相続権利証書(公正証書)を持って。

「絶対にこの土地は売らない」

頑として土地の権利と売却を拒否し続ける一郎。慌てる二郎。巻き込まれていく三郎。

家族の業。土地。政治。肩書き。金。店。ヤクザ。これらの断ち切れないしがらみ。そしてまさかの外国人居住者問題まで絡めて。とんでもない歯車がぎしぎし絡み合っていく。

 

そういう流れのお話でした。

 

「こういう生き方しかないんかなあ…」溜息を付く当方。地元で生きていくにしても、次郎も三郎ももっと普通の人生があったんじゃないの。

 

市議会委員の二郎。妻(篠田麻里子)と息子の3人家族。小心者で、周りにただただ流されてしまう。正義の気持ちはあるけれど「見ざる聞かざる言わざる」という行動を取ってしまう。

しがらみの多い地方市議の中で。「オヤジさんは立派な人だった」「土地の相続しっかりしろよ(そしてすぐ売却するんだぞ)」相続権が危ういとなれば「役立たず」と圧力を掛けられて。おろおろするばかり。

今作非常に高評価の篠田麻里子。『頼りない夫をあらゆる手段を取って支える妻』を好演していて。確かに当方も「おっ」となりました。

(体当たりのカーセックスシーン云々に関しては「いや…他の女優さん達、軒並み乳丸出しでとんでもない事させられてるで」と思ってしまいましたが)

「なんて頼もしいんだ…」コートを脱ぎながら歩く妻の後姿を見てそう思うけれど。それを見送る二郎の心境を想うといたたまれなくなる当方。

ところで。「政治家って…暴力団がらみで違法な風俗業をしている身内の存在ってあかんのとちゃうの?」三郎の存在は二郎の議員生命に影響は無いのかという疑問がぬぐえない当方。

 

三郎。地元暴力団がバックに付くデリヘル店の雇われ店長という、アウトレイジな世界に身を置きながらも。性根は優しくて面倒見の良い性格。店の女の子達からも愛され。

「この桐谷健太からは、確かに末っ子な印象を受けるな。そして3人の中で一番人情味溢れるキャラクター」

長男が失踪した後。想像でしかありませんが、地獄の日々の中支え合うしかなかった二人の兄弟。互いに選んだ世界は違えども、信頼の絆で結ばれていた二人。そこに現れた、所謂「死んだと思っていた」一郎。

30年ぶりに再会した兄弟。けれどそれは感動する類では全く無く。どう見ても底辺のクズ。なんだこいつ。今更どんな面して俺たちの前に出てこれたんだ。何故今俺たちを苦しめるんだ。一体何様だ。なのに。

「どうしてそういう言葉が掛けられるんだ…」どれだけ優しいんだと。後半の三郎のささやかな提案に地団太踏む当方。「こんな奴、追い出せよ!」

 

まあ。あの兄弟以外の登場人物は当方と同じ思考回路だったようなので。「こんな奴、追い出せよ!(又は消せ!)」にベクトルは振られていく訳ですが。

 

一郎。

初めに書いた「ちょいちょい引っかかる所もあったけれど~」その一つが一郎。

東京で。落ちぶれて借金取りに追われる生活。酒と薬に溺れ。女には手を上げて。およそ好きにはなれないキャラクター。(そこにはケチは付けていません)

30年ぶりに弟たちの前に現れたかと思うと、「この土地は俺のもんだ。ここは誰にも売らない」と公正証書を掲げて宣言。

「そもそも何故その土地にそこまで拘るのか?」

一応作中で語ってましたけれど…けれど。「弱くないか。それ」納得出来ない当方。

そして父親から正当に権利を譲られた…って父親と会ったって事ですよね?その下り、ちゃんと語った方が良いんじゃないの。どういう再会をしたのか。どういう流れでその土地云々になったのか。

「30年前の一郎失踪からばっさり現在に話を持ってきているから。そして回想とかも無いから。一郎の行動原理も背景もはっきりしないんよな」

だから。何だか久しぶりに現れた厄介者がひたすらごねて周りを振り回しているようにしか見えない。(それが正解ですが)

 

「何がしたいの?何が貴方の正義なの?」

 

『ヴィジランテ:vigilante』もともとはスペイン語で。和訳では『自警団』。そして「(法に依らず)私的制裁を加える人」という意味合いもある。

 

3兄弟の。誰もが真っ当な者から見たら正しい事なんてしていない。けれど。彼等には各々守りたいモノと正義がある。それがお互いにぶつかり合う時。哀しくも、破滅していくしかなくて。

 

兎に角寒かったやろうなあ~と震えた、川のシーン。非常に印象深いシーンでしたが…「わざわざ川の中を横切らんくても…迂回路(橋)あるやろう」と冷静に思ってしまった当方。そして後半の三郎よ!頼むから医療機関に掛かってくれ!辛うじて止血できたとしても、あんたその傷口から感染して敗血症とかになって死ぬよ!!

後ねえ~チャチャ入れるついでに。あのおっかないヤクザ(般若)。あの人物の怪力さと、あんなおっかない連中が騒ぐ焼き肉店で。ずっと焼き肉を食べ続けた親子。(母親と息子)

「あの親子って…あの連中の身内?には見えなかったんですけれど」息子に至っては身をよじって成り行きを見ていましたけれど。どんな鋼のメンタルを持った親子だよと。当方なら間違いなく店を後にしますよ。怖いから。

 

まあ。そんな「ちょいちょい引っかかる所もあったけれど」こんなに骨のある作品が邦画で観れたなんて、という感動。(ノワール作品は最近は韓国映画に持って行かれているなあ~と思うので)

 

確かに「この作品を観ずに今年の邦画を語るな!」という作品でした。