ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「街の上で」

「街の上で」観ました。
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今泉力哉監督作品。

東京。下北沢を舞台にした、若者たちの群像劇。

 

2020年。テアトル系列映画館で何度も何度も観た予告編。満を持して公開された2021年4月。

「事実は小説よりも奇なり」。随分と様相が変わってしまった現実世界。しかも未だ渦中で明るい見通しがあるわけでもない。そんな、3度目の緊急事態宣言直前。映画館が閉まってしまう間際に鑑賞した作品。

 

下北沢で古着屋を営む荒川青(若葉竜也)。彼を定点とした群像劇。

大体単独行動の清。一人で店をやり、古本屋をぶらつき、たまにライブを観に行ったり、行きつけの店で飲み食いする日々。

浮気された挙句、一歩的に別れを告げられた恋人、川瀬雪(穂志もえか)を忘れられずに時々連絡してしまう青。

行きつけの古本屋の店員、田辺冬子(古川琴音)に余計な事を言って泣かせてしまう。

ある日。美大学生の高橋町子(萩原みのり)から自主製作映画の出演を依頼された青。普段古着屋で読書をしている姿が、町子の次回作に登場するキャラクターとしてインスピレーションされたのだという。

素人だし大した事は出来ないのにと、緊張しながら向かった撮影現場。そこで知り合った、衣装担当の城定イハ(中田青渚)。

 

昭:はいどうも。当方の心に住む男女キャラ、昭と和(あきらとかず)です。

和:ステイホーム(in布団)していたはずなんですけれど。どうしても我々に男女の機微?!を語って欲しいらしくて。って知らんよ!こんなサブカルモテ世界は!

昭:おっと。暴言はやめろ(すったもんだ争う音)…まあ。久しぶりに仲良くお話しましょうよ。

 

和:東京の下北沢。行った事は無いんでアレですけれど…小劇場や古着屋、サブカル野郎が跋扈する街。という認識でいいんですかね。

昭:荒れてるなあ~。当方の心から派生しているんやから、俺だって行った事無いよ。そういう場所って事で良いんじゃないの。

和:まあ…当方も若い時に古着を着ていたから。休日に古着屋のハシゴ、その周辺の雑貨屋なんかを歩き回った記憶はあるな。

昭:当方は店員に「いつもの~」とか声を掛けられると一気に心のバリアー張り巡らせてしまうタイプだったけれど。そこで店員と仲良くなって、ネットワーク広がっていく同級生とかも居た。

 

和:一人で古着屋を営む主人公・青。風呂屋の番台よろしく、カウンターでつらつら本を読みながら店番をする日々。…って彼、店長なんですよね?雇われ?兎に角、責任者というオーラが皆目無いの。商品の整理もしない。

昭:それは言ったらアカン。正直、青だけじゃなく他のキャラクター全てに感じた共通点やったけれどな。「一体どうやって食べているんだ」疑惑。総じて生活感が皆無。

和:いや…これ結構ずっと気になってたけれどな…(小声)。

 

昭:青の生活圏で起きる出来事。些末なことから、切なく逝ってしまった知り合いのことまで。深く心をえぐられ傷ついた者も居るけれど…新しい出会い。やんわりと流れていく時間が人と人の関係を変えていく。

和:そういうふんわりした雑なポエムでお茶を濁したらいいんやけれどさあ~。まあ全体的に余白の多い作品やったよね。

昭:なんでそういう実も蓋もない言い方をするんだよ。

和:キツイ風に聞こえてしまったらごめん。なんていうか…「こういう事が起きたら人はこう捉える」とか「こうあるべきだ」という決めつけをしないな~と思ったんよな。

昭:どういうこと?

和:登場人物同士のリアルな掛け合いは、今泉監督作品持ち前のセンスやと思うんよな…登場人物たちが会話している場に居合わせているような感覚を持たせるのが上手いし、そこからこれがどういう作品なのかは観ている者の引き出しに委ねる。だから、基本的にはただ起きている出来事を淡々と提示しているだけ。

 

昭:そうか。まさに『街の上で』という群像劇。

和:本に例えると短編集。一つの街で起きている出来事。男女の別れと再生。新しい冒険と苦い結末。けれどそこから派生した友情。…ところで昭さん、余談ですけれども男女に友情って成立しますか?

昭:しない。(和:即答。)年齢を重ねたら事情は変わってくるかもしれないけれど…あの状況で友情なんて絶対に成立しない。っていうか、何もしないならば自宅に帰れ!布団も風呂も自分のものを使え!

和:落ち着いて。これ、観てないと絶対に分からないシーンを指しているんですけれど…「長回しでリアルな男女の会話」として評価される以上に当方的に「嘘やろおおおおおお~カマトトぶってんじゃねえ!」というすかしっぷりやったんで。ちょっと挟ませて頂きました。

 

昭:ちょっと取り乱してしまった。

和:仕方無いよ。こういうオシャレな青春は一切送ってこなかったもの。若い頃のファッションなんて剥ぎ取りたくなるくらいにおかしかったし、恋愛もやっている事も顔を真っ赤にして叫びたくなるくらい恥ずかしいことばっかりやった。

昭:だからかな…こういうどこを切りとっても恥ずかしくない若者たちの群像劇には、美しい蜃気楼を見たような気持になる。

和:でも。どこかで知っている。この感情は。一見ふわふわした絵空事なのに…なのにこの短編集を閉じた後、ふっと過る胸の痛み。そんな感じ。心の引き出しをくすぐってくるんですわ。上手いよなあ~。

 

まとまりのない着地をしてしまいました。

こういう「なんでもないようなこと」を一定のテンションで描き切る邦画を観る機会がトンと減っていたなかで、出会えたことがしみじみ幸せでした。

誰かと誰かが運命的に出会い。ドンパチが起こり。何かの威信をかけた戦いが始まる。今生の別れやこの世の終わり…そんなんじゃない。ただただ日常を切り取った作品。

 

仕事終わり。休日。一人で。誰かと。映画を観て暖かい気持ちになれる。それが日常だった。それを思い起こさせた。そんな作品。

 

公開途中で閉まってしまった映画館。観られる地域もあるけれど、少なくとも当方の住む地域では映画を映画館で観る事は出来ない。けれども最後に。

 

「誰も見ることはないけれど 確かにここに存在している」(映画ポスターから)

 

また会える日まで。