ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「藁にもすがる獣たち」

「藁にもすがる獣たち」観ました。
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「ロッカーに忘れられたバック。その中に入っていた10億ウォンの大金。それが全ての始まりだった。」

 

原作は曽利圭介による同名小説。舞台を日本から韓国に移し。大金に翻弄される人物達を『犯罪都市』などの製作陣が豪華キャストにて映画化した。

 

失踪した恋人の借金に苦しめられる出入国審査官のテヨン(チョン・ウソン)。株式投資の失敗から家庭が崩壊。夫からのDVから逃れたいミラン(シン・ヒョンビン)。家業を廃業させてしまい、現在はアルバイトで生計を立てるジュンマン(ぺ・ソンウ)。

交わる事のない三人のはずだった。けれど…そのバックに入っている大金が、彼らの運命を狂わせていく。

 

「うまい事出来てるなあ~。」

 

正直原作未読。劇場で流れていた予告編が気になって観に行った程度でしたが。想像以上にロジカルで気持ちが良かった作品。

 

ある朝。アルバイト先のホテルの浴室ロッカーで忘れ物のバックを回収したジュンマン。遺失物預かり所で、ふとその高級ブランドのボストンバックを開いたら…その中にはぎっしりと札束が詰め込まれていた。

国内外へ出発するターミナル港。そこで出入国審査官として働くテヨン。一見普通の公務員に見えるテヨンだが。先日失踪した恋人ヨンヒ(チョン・ドヨン)が残した多額の借金を執拗に取り立てに来る金融業者に追い立てられ、資金繰りのあてがないものかと四苦八苦していた。

株式投資に失敗。夫婦生活は破たんし、ホステスとして働きだしたミラン。夫からのDVが止まらず身も心もボロボロになっていた時…自分を救いだしてくれそうな青年と出会った。

 

物語の主軸となる三人。各々崖っぷちのどん底な状態。そんな状態から抜け出せるだけの大金は一体どこからどう現れたのか。そして大金を手にしたことで彼らはどうなったのか。

 

始めこそ。「よーいドン」で三人のストーリーが提示されるけれど。『第一章~』という小説風に見出しで区切られてサクサク展開していくとすぐに「時系列が違う」と気づく仕様になっている。彼らが交差しているのは『10億ウォンの入ったバックを手にした』という点だけ。

そもそもこの大金はどうして生まれた。そしてどう使われようとした。

 

三人は交差しかしないけれど。彼らを繋ぐ役割を担う人物がいる。

どこまでもふてぶてしく世を渡り、そして過去を清算して新しく生まれ変わろうとした女、ヨンヒ(チョン・ドヨン)。

彼女こそ「殺しても死なない女だ」と揶揄されたテヨンの彼女であり、かつてはどん底に落ちていた主婦ミランに手を差し伸べた救世主。けれどその正体は…弱肉強食のヒエラルキーにおいて頂点であろうとした猛者。結局は諦めずにジュンマンの元までバックを奪いにやって来た。

 

とは言え。窮地に立たされているとはいえど、決して三人もまた純粋な弱者ではない。

 

金融業者の脅迫的な取り立てに命の危険を感じるテヨン。しかしどうやら彼は普段出入国監査官という立場を利用してちょいちょい悪さを働いており…今回の窮地も元知り合いの密入国の手助けをネタに強請って金を都合しようと画策するほどには小悪党。(最近良い人キャラもあったけれど…やっぱりチョン・ドヨンにはセコイ小悪党なんかを定期的に演って欲しいと思う当方。)

ホステスに身を落とし。夫からのDVにひたすら耐えているミランも。客として知り合ったやんちゃな若者に夫の殺害動機を仕向ける策士。

そして。一番純朴そうに見えたジュンマンすらも。結局雇用主への憤懣が爆発した挙句にバックをネコババするくらいには…純朴ではない。

 

結局。目先の金に翻弄されて人生が狂う位ならば「大金を手にしたら誰も信じるな」「この世は弱肉強食だ。一番強い奴が勝つ」と堂々と人様の金を狙ってくるヨンヒとどこまでもしつこい金融業者のドゥマン(チョン・マンシク)の方がいっそ気持ちがいい。

 

「とは言え、こんないわくつきの大金はなあ~。誰も幸せになってないやん。」

 

このバックを手にした途端、破滅していく面々。我こそが強者だと金を奪おうとも、即座にその座は奪われる。それこそ「金は天下の回りもの」。

 

余りにも細部にまで「ああ…これがこう」というロジックが嵌るので…上辺をなぞる程度の感想文しか書けない。これはこのままあっさり終わるしかないなと幕を閉じる算段ですが。

 

「交差点で100円拾ったよ。今すぐこれ交番届けよう。いつだって俺は正直さ。」そういう走れ正直者こそが後々(韓国も拾得物は一定期間を経たら自分のモノになる…のか?)後腐れなくこの金を手に出来ただろうに…各々事情はあったけれど。

「後、自分が金銭的に困窮している事を他人の金で解決しようとしたら上手くいかんよ。」至極真っ当な言葉が浮かんだ時点で。平凡だけれど。当方は彼らとは交わらない。

 

『藁をもすがる』役に立たなくても、頼りたいほど切羽詰まっているという溺れている人の状況から由来したことわざ。

海辺の町で。誰もが溺れそうになりながらも欲にかられた。我こそは強者だといきがっても結局は同じ。沈んでいくばかり。

 

ロジカルでどこかコミカルでもあるノワール作品。流石韓国映画ならではの落としどころ。思いがけず面白かった作品。