ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「Swallow/スワロウ」

「Swallow/スワロウ」観ました。
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主人公のハンター。大企業の御曹司であるリッチーと結婚し、NYの郊外に住居を構え。

誰もがうらやむハイソな暮らし。けれど。

自分の話を聞いてくれない夫。悪い人たちではないけれど、親しみが持てない義理の両親。

裕福な生活に満足していたはずなのに…違和感を感じ始めた頃、ハンターの妊娠が発覚する。

夫も義理の両親も喜んではくれているけれど。どうしても「後継者誕生!」に沸いているようにしか見えなくて。

「もし…これを飲み込んだら…。」

何気なく手に取ったビー玉。キラキラしている。いざ飲み込んでみたら、異物が喉を通る感覚が気持ちよくて…たまらない。

 

「異食症か…。」

付け焼刃の知識ですが。『氷食。土・食毛など。氷食は若い妊婦に見られる場合があり鉄欠乏性貧血が原因の一つとも言われる。土・食毛は子供に多い。どちらもストレスが起因することが多いとされる。』

物語の序盤。妊娠発覚直後の義両親との会食で氷を手づかみで食べていたハンター。「金属の感触は気持ちがいい。」そう思うと、ハンターの食べていたモノたちは結構この疾患あるあるなのか。危なすぎるけれど。

 

「だって。初めのビー玉やったら真ん丸やから下まで通過するなあ~って思ったけれど。次は押しピンとか。結構鋭利なやつもいってるし…いつかどこかに刺さるって。そして電池もヤバい。」

ハンターは口から異物を飲み込むだけではない。排泄物に手を入れ、確実に下から出てきているかを確認。そのブツを洗って寝室の鏡台の前に並べるという『汚え~コレクション』までが一連のワクワクローテーション。

(余談ですが。例えばそれこそ『魚の骨』でも通過しなくて耳鼻咽喉科や消化器内科…果ては外科手術に至る事だってあるんですよ!あの「喉に骨が刺さったら、ご飯を丸呑みしろ」の危険性…因みに当方の肌感で最もヤバい食用魚の骨は鯛。でもフグの骨が腸に刺さった人もいるし…後、高齢者で危ないのは薬をシートのまま飲むやつ。あのシート、体内で溶けないんやからな!)

 

妊娠が発覚し、定期健診を受けた事で即明るみになったハンターの異食症。

家族は衝撃を受け。ハンターをまともにすべくカウンセリングへの通院と自宅に専属の看護師を雇う事になった。

シリアでの勤務経験のある男性看護師ルアイ。その屈強な体躯と初対面での「戦地では皆生きていくのに必死だからその様な病気になる者はいない(言い回しうろ覚え)。」発言。

自分を否定された様な気がして、彼とは距離を置くことにするハンター。

対して。数回のカウンセリングを経て、カウンセラーにぽつりぽつりと自分の生い立ちを話し始めたハンターだったが。

 

ハンターにとって本当の異物とは何だったのか。それは…一つにはとどまらない。

夫であり、義理の両親であり。そしてお腹に宿った命すらもが彼女にとっては異物でしかなかった。

 

体にとって栄養にならない無機物、しかも時には危険なモノを飲み込む瞬間。異物を口に含むことも、体を通過することもえもしれぬ快感を伴った。なぜなら。

それは必ず自分の体を通過して出てきたから。

 

妊娠と出産について。子を生していない当方がどうこう言いにくいですが。ハンターを観ていて感じたのは「嬉しそうではないな」ということ。

一見夫側の違和感が目立つので「だから彼女はおかしくなったんだよ」と捉えてしまうけれど。実は『ハンター側の事情』の方にも大いに原因がある。

 

周りには言わなかった、ハンター自身の出生の秘密。

これを書くのは致命的なんで…流石に書きませんし、なのでちょっと方向転換しますが。

 

「ところで大企業の御曹司と販売員って、どうやって出会って結婚に至ったんですか?」

元々は住む世界が違った二人。勿論全く出会う可能性が無いとは言わないけれど…お見合いじゃないでしょうから…どこかで出会って恋愛して、そして結婚したんですよね?

最後の最後には「俺の子供を返せ!」等々のアウトな暴言吐いていましたけれど。あくまでも愛し愛されていたから子供も出来たんですよね?

この二人の『物語が始まる前』が余りにも説明不足すぎて…ハンターはかつては気持ちを夫であるリッチーに言えていたのか。恋人から夫婦となり。そしてリッチーが会社の地位が上がった事ですれ違ったのか。何となく想像出来るけれど、あまりにも「お察しして!」という感じが否めない。これ、大切な描写だと思うんですけれど。

 

何故そこに引っかかっているのかというと。「リッチーとその両親はどうなるんだ」という気持ちが拭えないから。

いかにも庶民な娘と大事な息子が結婚した。実はそう思っていたとしても、ハンターに面と向かってそういう発言はしなかった。(確かに、貴方幸せね。とか、うちの嫁なんだから。とか私が妊婦の時は~みたいな発言はあったけれど)カウンセラーは結果アレやったけれど、ハンターにあてがった看護師ルアイのまともな事よ。そういう対応が出来る人たちなのに。たとえ巡り巡って保身の為だとしても。

 

看護師ルアイ。ハンターにとって初めは敵であった彼が、結果最も彼女に寄り添えた人間だった。無理に何かを引き出そうとするわけでもない。押さえつけない。ハンターが不安定な状態でベットの下に体を潜らせた時は隣で横になって眠ってくれた。

そして最後にハンターの背中を押した。

 

いかにも『無意識に傲慢な金持ち一家=リッチーとその両親』だったけれど、彼らなりにハンターを気遣っていた時期もあったじゃないか。ハンターは彼らとどうコミュニケーションを取っていたのか。取れていたのか。努力の限界だったのか。

結局、彼らにとってはハンターが異物となってしまう。理解し合えない、そのための努力も不毛だと諦めた時点で、かつて友好な関係を築けていた相手は異物で不要となる。

これまでの良かった思い出も一気に薄汚れてしまう。悲しいことよ。

 

あくまで物語はハンター視点で進むので。ハンター自身はこれまで溜め込んだ滓が流れてスッキリしたかもしれないけれど…独りよがりじゃないか?…相手を思いやれていないのはお互い様ではないかとも思った当方。

 

最後の最後。ハンターの中を通過していったものに溜息が出たけれど。それが彼女の出した答えなのだから…何も言えない。

ただ。これからは溜め込まなくてもいいように。異物で無理やり押し出さなくてもいいような人生を送れますように、と思う反面。

「初めて飲み込んだビー玉が光って綺麗に見えた。飲み込む前の異物が美しく見えた様に。幸せを感じていた時の事を後々そう思えたらいいな。」

そうあってくれと祈るばかりです。