ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「佐々木、イン、マイマイン」

「佐々木、イン、マイマイン」観ました。
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高校の頃の俺たち。いつも気の合う仲間4人でつるんでいた。放課後に自転車で行ったバッティングセンター。よく入り浸っていた、仲間の一人、佐々木の家。

汚い佐々木の家で。皆でゴロゴロして、ゲームをして、佐々木特製カップ麺を食べた。

バカばっかりやっていた俺たちの中で佐々木はぶっちぎりに頭のおかしな奴。俺ら男子が集まって「佐々木!佐々木!佐々木!」。当時『佐々木コール』と呼ばれていた囃子言葉でおだてると佐々木はどこででもすぐ全裸になった。

先生には怒られるし、女子には避けられたけれど。佐々木はいつだって俺たちの中心人物だった。

 

「なんちゅうエモーショナルな…」。

いくつになってもこういう作品には気持ちを持っていかれてしまう当方。心のやらかい場所をしめつけてしまって…息もだえだえ。

 

主人公の石井悠二(藤原季節)。俳優を目指して上京し早何年。鳴かず飛ばず。ぱっとしない。けれど辞める踏ん切りは付かない。

別れたはずの恋人、ユキ(萩原みのり)ともずるずる同棲生活が続いていた。

ある日。掛け持ちで働いている工場に、高校時代の同級生多田(遊屋慎太郎)が飛び込み営業でやってきた。久々の再会。その後飲みに行った場で、久しぶりにかつて圧倒的存在感を放っていた同級生佐々木(細川岳)の話になった二人。

 

悠二。佐々木。多田。木村(森勇作)。高校の頃、4人でいつもつるんでいた。

爆発的なテンションと行動力。次は何をするのか分からない。突拍子がない。一緒に居ると楽しくて。グイグイ引き込まれていく、でも嫌じゃない。佐々木と居るといつも楽しかった。

けれど。4人共分かっていた。

いつも入り浸っている佐々木の家には、ほとんど佐々木しか居ないこと。

父親と二人暮らしのはずの佐々木の家は滅茶苦茶に散らかっていて、佐々木はほぼカップ麺などのインスタント食品しか食べていないこと。

ある日。いつも通り佐々木の家で遊んでいた悠二たちは、唐突に佐々木の父親(鈴木卓爾)が帰ってきる所に遭遇する。

「ちょっと印鑑取りにきただけだから」「次はいつ帰ってくるの?」「仕事が落ち着いたらな」佐々木の小さな動揺、すがるような表情を見逃さなかった悠二。

 

高校生の悠二。どういう事情かは知りませんが。祖母と二人暮らしで、その祖母が老いていく事が直視できなかった彼だからこそ。いつだって底抜けに明るい奴だと思っていた佐々木の不安げな子供の表情が見逃せなかったのだろう。

 

現在の悠二。20代後半。かつてつるんでいた仲間、多田も木村も既に結婚している。なのにいまだに一人で東京にしがみついている。役者も元恋人の事も断ち切れない。

たまたま再会した後輩俳優から舞台での共演を依頼された。題目は『ロング・グッドバイ』。引き受けたけれど…役に集中出来ない。共感出来ない。

 

「20代って…中年の当方からしたら、まだ全然体力もあるし頑張れる気がするけれど…」今だからこそそう思いますが。けれどそういえばかつて「男が無職で夢語っていいのは25歳まで」と言っていた事を思い出した。

結婚。田舎に帰る。きちんとした職に就く。こうなればとことん夢を追いかける。モラトリアムは終了だ。さあどれを選ぶ?30歳を目安に一回ジャッジとリセットを求められる風潮は確かにある。

(ここを過ぎれば人生はもう自由気まま。その代わり全責任を己で取る覚悟)。

 

今のどん詰まりな現状から、ふとかつての楽しかった高校時代を思い出し笑いがこみあげる悠二。元恋人のユキに「どうしたの。久しぶりに笑ってる」と聞かれ「高校の時同級生で佐々木って奴がいてさあ」と話しだしたら尽きなくて。声が弾む。けれど。

佐々木との思い出は楽しい事ばかりではない。

 

明らかに育児(というのか?)放棄していた父親。お金は落としていたのだろうけれど、家族としての役割を果たしておらず家庭崩壊。反して佐々木は明らかに父親の愛情を欲していた。

愛されたい。愛されたい。愛されたい。

学校では皆の人気者。名前を呼ばれて。大きな声を出して騒いで全裸でおチャラけて。そうやっていれば頭が空っぽでいられる。皆に求められている。一人じゃない。

 

そんな佐々木の、動揺し隠せなかった素顔を見つけてしまった悠二。思わず声を掛けたけれど佐々木はのらりくらりとしていて、決して本心は語らない。挙句悠二に役者になれと薦めてくる。

「大丈夫だよ。お前なら大丈夫」。

 

「何て顔をするんだ…」。ひたすら眉を顰めてしまう当方。「何で自分は駄目だと思うんだよ、佐々木」。

高校卒業後の佐々木。その半分投げやりな「俺なんてさあ」という言葉に舌打ちが隠せなかった当方。いや、ああいう暮らしをする人を決して馬鹿にしている訳では無いんですが。佐々木の「俺なんかにはこういう人生がお似合いやろう」というスタンスが気にくわん。

けれど…悠二の目線が外れて佐々木の一日が映された途端、一見自暴自棄な様で、どこか佐々木ならではの純度が見え隠れして。どこかほっとした当方。

 

問題をきちんと整理して解決する。うだうだしない。振り向かない。切り替えて前に進む。

そんなにシステマチックに人の感情は出来ていない。けれど…自分自身に猶予を与えて、楽しい思い出ばかりに浸っていたら動けなくなった。

けれど。今自分がしがみついている所は完全に安心できる場所なのか?都合のいい記憶ばかりを選んでいないか?胸がざわつく事も、嫌だと思った事もあっただろう?

いっそ全部ひっくるめて、全てを地面に置いて歩き出してみたら…いつか振り返った時この場所は…きっとぼんやりと懐かしくて暖かく見えるだろう。

「大丈夫。お前なら大丈夫」。

 

これは、主人公石井悠二が今と過去にケリを付ける物語。そう感じた当方。

 

終盤。「これまた急転直下な」という展開で風呂敷が畳まれ。唸るけれど…確かにこういう生き方が佐々木らしいと言えば佐々木らしいなと言い聞かせる当方。

 

流石にラストシーンは荒唐無稽過ぎて「いやこれは彼らの夢だ」と言い聞かせたけれど。きっと三者三様に大人になってしまったかつての仲間たちの、渾身の『佐々木コール』。

 

佐々木役を演じた細川岳。彼の、高校時代の同級生のエピソードが基になったという…という流石といえば流石の『佐々木』っぷり。

そして主人公悠二を演じた藤原季節を始め、俳優陣が皆生き生きとその役になっている姿に感銘。そして…個人的には木村の恋の行方にグッと胸が熱くなった当方。やるやないかお前!…堪らん。

今作が長編映画デビューとなった内山拓也監督。これからも楽しみです。