ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「薬の神じゃない!」

「薬の神じゃない!」観ました。
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2014年に中国で起きた『陸勇事件』を基にして映画化された作品。

2018年に中国で公開されるやいなや500億円の大ヒットを記録。社会論争を巻き起こし、中国医療保険制度の見直しまにで発展した。

 

中国、上海。男性向けの強壮剤を細々と販売していた、いわゆるあかひげ薬局店長のチョン・ユン(程男)。店は儲からず。愛想を尽かされた妻には息子を連れて逃げられ。店の家賃も滞納し大家をかわす日々。

そんな時。慢性骨髄性白血病患者の青年、リュ・シュウィー(呂受益)が店を訪れてくる。

強壮剤をインドから仕入れるツテがあったチョンに持ち込まれた話。それは「白血病治療薬のジェネリック(インド製)薬品の密輸転売」だった。

中国国内で正規採用されている白血病治療薬は高額でしかも保険適応外。患者らは命の綱となる薬に依って生活が困窮し、治療を諦めている状態であった。

無事密売ルートを確保したチョン。ジェネリック薬品を希望する患者は無数に存在しており。インターネットを利用し拡散すべく、宣伝役としてポールダンサーのリウ・スーフェイ(娘が白血病のシングルマザー)の起用や、インドとの国際交渉の為に英語が話せるリウ牧師も仲間に引き入れた。途中白血病患者の不良オン・フンオも合流し。

初めこそ金儲けの為に薬を密売していたチョン達だったが…。

 

2014年に中国で起きた『陸勇事件』。ざっくり言うと、自身も白血病患者であった陸勇という男が。国内では高額故に継続困難だった治療薬のジェネリック薬品をインターネット経由で海外から入手。自身に投与した所症状は改善。そこで同じ病に苦しむ人々にも同じ薬を密売したというもの。

陸男は偽薬販売で逮捕、収監されたが。中国内で大紛争が勃発。一年後に彼は釈放された。

 

「これは…中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』だな」。

2013年にマシュー・マコノヒー主演で公開されたアメリカ映画。あれはHIV患者の話でしたが。

 

この作品の内容や構成。一時は金儲けに走ったチョンが、貧しい白血病患者たちに触れるにつれ芽生えていく人情物語。背後に病の影をちらつかせながらもワクワクするチームの一体感。終盤私財を投げうってまでこの事業を継続していく様とその顛末。当方も胸を打たれましたが。

 

「おそらく何も考えなくても楽しめる様に作られているけれど…けれど考えないわけにはいかない。当時の中国は一体どういう医療制度だったのか」。

 

(苦しい言い訳)決して詳しくはないんですが…おおもとの事件が2014年?そして中国医療保険制度の重大疾病の見直しが2018年??結構最近の話じゃないですか。

 

どんな言い方をしてもアレですが。白血病って滅茶苦茶患者数の多い昔からある疾患(血液の癌)で、治療方法は数多ある…そんな疾患の治療および治療薬が最近まで保険適応外だったなんて。

最終のテロップの「かつて中国の白血病患者の生存率は(言い回しうろ覚え)~」のあまりの低さに内心驚きが隠せなかった当方。そんな馬鹿な。こんな時代にそんな。

 

例えば。日本で初めてジェネリック薬品がお目見えしたのは大体1960年代(ブスコパン)。1990年代後半~2000年前半にはいわゆる『ゾロ』と呼ばれるジェネリック薬品は医療業界に続々投入され始めた。

かつて恐れられた「ジェネリック薬品って元々ある薬の後発品で、限りなく似せてはいるけれどいつか何かが起きるか分かんない薬でしょう!安さと引き換えに安全性を売ってさあ!ニセ薬!」。

そこまで深刻な副作用があった薬品は…結局あまり無かったまま。現在ジェネリック薬品は世界中でどんどん取り入れられている。だって、生きていくために薬を飲み続けなければいけない人はごまんと居るから。

 

けれど。この作品の問題点はジェネリック薬品ではないと思う当方。

 

「本来医師薬剤師が関わるはずの投薬が。しかも抗がん剤が。素人の手に依って扱われた」。

 

慢性骨髄性白血病とその治療薬。その構図が全ての患者に当てはまるわけが無い。

その患者の個性。患者の年齢、体格、他の疾患の有無。これまでの経過。患者は何のために定期的に医療機関に掛かって検査をしているんだ。何のために痛い思いをして採血されているんだ。

癌を殺すような強い薬が効くという事は、その代わり体のどこかに負担を掛けるという事。

「15歳以上なら一日3錠」そんなドラッグストアで手に入る整腸剤やビタミン剤みたいなノリで重大疾病の治療薬を呑むんじゃない。

誰が貴方の体を守ってくれるんだ。誰が貴方の体の状態を正しく把握して適切な治療をしてくれるんだ。勝手に自己判断するんじゃない。ちゃんと専門知識を持った誰かに。誰かに委ねて…。

 

「その誰か=医療機関にかかる事が出来ないんだ」。

 

これは一見「高額な薬を飲み続けることが出来ないから」違法なルートでほぼ正規の治療薬と同じジェネリック薬を密輸した事で罪に問われた事件を描いていたけれど。

 

本来病気の治療は投薬だけにはとどまらない。治療はただ薬を飲めばいいという訳では無い。けれどここで描かれていた人たちは安心して体を診てもらう事が出来なかった。なぜならお金がかかるから。

それが問題。

 

2018年に公開されたこの作品。元となった事件が起きたのが2014年。

中国で公開されて直ぐから話題となり大ヒット。世論に押された形で癌治療薬の価格引き下げや各種疾患の保険適応が見直された。あの社会主義で謎の紅い国がこんな迅速な動きを見せたなんて…そう純粋に驚くけれど。当時の季克強首相が元々推していた方針を知ると「あれこれもしかしてプロパガン…」といけないパンダも連想してしまった当方。悲しきうがった精神の持ち主。

 

色々勝手に書きましたが。心配しなくても「考えなくて十分楽しめる作品」。

面白エンターテイメント系かと思いきやぐっと人情モノへと切り替え。最後車窓からチョンが見た景色には涙が浮かぶ…そんな作品。必見です。