ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「シカゴ7裁判」

「シカゴ7裁判」観ました。
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アメリカ史上最悪の裁判」と言われた『シカゴ7裁判』。

NETFLIX作品で10月16日から公開されたけれど。その少し前から細々とした規模で劇場公開も行われた。公開されるやいなや、ぶっちぎりの高評価に思わず映画館に向かった当方。

鑑賞後。当方を含めたった二人の映画部の部長に即メール。「これは面白い」「絶対に観るべき」「観ないのはモグリだ」「さもなくばNETFLIXに加入せよ」。

一体何の騒ぎかと。お忙しい映画部長も直ぐに鑑賞していましたが。

 

1968年8月。アメリイリノイ州シカゴ。民主党の全国大会が行われた。

時はベトナム戦争真っただ中で、当然のことながら党内でも議論が交わされていた。

その会場の直ぐ近く、グランド・パークに集まった1万5千人以上の群衆。彼らはベトナム戦争反対を掲げる市民や活動家達であった。

熱く盛り上がるうちに、一部が暴徒化。党大会に押し寄せようとし、警察などに取り押さえられ、数名の逮捕者が出た。

これは、暴動を扇動したとされるデモ参加者の7名(初めは8名であったが、1名は無関係とされ早期に容疑者から外された為シカゴ7と呼ばれる)に対する、あまりにも理不尽な…けれど素晴らしい着地を見せた裁判~の映画化作品。

 

ソーシャル・ネットワーク』などの監督、アーロン・ソーキン。相変わらずテンポの良さと構成の巧みさに飽きる暇も、ましてや眠たくなる隙間もない。

そして高評価の中に多く見られた様に、兎に角役者が豪華。

7人の被告の中でも有名なアビー・ホフマンがサシャ・バロ・コーエン、同じく被告の中のトム・ヘイデンがエディ・レッドメインだったり。

傍若無人で兎に角憎たらしかったジュリアス・ホフマン裁判官がフランク・ランジュラ。検察側でありながらそんな裁判官に引いた目を向けていたシュルツ検察官にジョゼフ・ゴードン・レイヴィッド。

そして当方が好きだった、熱いクンスラ―弁護士をマーク・ライランス等々…兎に角見た事ある俳優たちがひしめき合っている。それだけでも眼福。

 

ところで。「一体当方は何の分野ならば胸を張って知っていると言えるのだろうか?」と恥ずかしくなるくらい、多方面に対し無知な当方。案の定『シカゴ7裁判』についてもまっさら。流石にあの時代にベトナム戦争があった事や、それに若者たちが声を上げていた事は知っていたけれど…その程度。

しかも敢えて予習も一切せずに作品鑑賞に至ったのですが…まあ先入観の無さが却って世界観にのめり込めた所以かもしれません。

 

冒頭。当時の政局やベトナム戦争の事、強制的に戦地に駆り出された若者たちについてが描かれ。そして検察官の任命のシーンの後、裁判の幕が上がる。

 

「結局の所、あの日一体何が起きたのか」。

7人の容疑者達。学生代表や若い活動家も居れば、ボーイスカウトに関わる、優しい父親も居る。と思えばほとんどその場に居なかった若者も居る。彼らは『ベトナム戦争反対』という信条は同じく顔なじみで共に活動することもあるが、普段から行動を共にしていたわけではない。

けれど。集会参加者が一部暴走しそうになった時。確かに彼らはそこに居た。

ならば一体。その時何が起きたのか。

 

この作品の秀逸な点として、先ほども挙げた構成の巧みさがあると感じた当方。

この作品は確かに法廷劇。

「一体正義とは何かね?」。当方の心に住む、北の国から菅原文太がかぼちゃを撫でながら「誠意って何だね」と問うてしまいたい位の最悪な裁判官と茶番劇。

「ここは私の法廷だ」。と権限を振り回し、まともな裁判が行われない。(そもそも無関係に同席させられた黒人男性に対する狼藉の数々と彼の不憫さよ!人権侵害も甚だしい)。加えて何の為の裁判員制度なのかと溜息を付きたくなるような工作や嫌がらせ。

そういった『裁く側=悪』で『裁かれる側=善』とする構図で一見進められる。

まともに相手にするのも嫌になる奴を延々対峙する。検察官ですら「この程度で10年の実刑はおかしい」と感じているのに。兎に角、国家は見せしめのために被告人達に過剰な刑期を課せようとする。

この法廷劇そのものが十分に面白いのですが。一見、一蓮托生のはずである7人の関係性が浮き彫りになるにつれ…事件は全く違う側面を見せてくる。

 

「結局の所、あの日一体何が起きたのか」。

確かに一部の参加者が暴走した。けれど彼らは警察たちに依って抑えられた。負傷者は出ただろうけれど、結局の所は死者が出た訳でも党大会に影響が出た訳でもない(ですよね?)

「でも、一部の参加者が暴走した」。その事実は変わりがなく、そして確かに被告人達はそこに居た。たまたまそこに居たのか?ならば何故逮捕された。

 

被告人らはあの日何を感じ、どう行動したのか。作品の終盤にそれを見せられた時、溜息が止まらなくなった当方。

裁判中。7人の中に居た「彼は虫も殺さないよ」と言われていた温厚な父親が、あまりに理不尽に体を押さえつけてくる裁判所職員を「私に触らないでくれ!」ととっさに振り払ってしまった時の彼の表情。絶望感。

あの日起きた事は、ある意味同じこと。

こんな事したくなかった。まさか自分が。こんなはずじゃなかったのに。

『戦争』という暴力に対し、あくまでも冷静に対峙したかった。殴ってくる相手には論理的な言葉で理解を得たいと考えていた。なのに。

 

「彼らは10年は長すぎるにしても、無罪にはなりたくなかったんじゃないだろうか」。まっさらな当方の勝手な推測。平和を祈る為に集まった参加者を、怒りに任せて暴徒化させた。それは否定出来ない。

余りにお粗末な裁判劇に目を囚われるけれど。逮捕されてからの日々。互いがどういう人間なのか。元々どうしてこういった信条を持ち合わせるに至ったのか。自分の行動は浅はかなのか。よくよく見れば7人の葛藤が見え隠れする。

 

くたびれきった裁判の判決の日。最後の最後、7人を代表したトム・ヘイデンの言葉。

これまで終始「気の利いた事を言うか合戦」な裁判だったけれど、このシンプルでストレートな行動で一気に涙腺が崩壊した当方。

「育ってきた環境も背景も皆違う。けれど7人がそもそも訴えていた事はこれだ」。

そして検察官の行動に一層胸が熱くなった当方。素晴らしい。(実際には立っていないけど)スタンディングオベーション

 

それにしてもNETFLIXの映画作品のレベルの高さよ。折に触れ話題に聞くし、確かにこれは…力作。そして今の時期のアメリカでこういった作品が製作公開される事にも意味がありそうだし…NETFLIX生活に全く興味が無い訳では無いのですが。

「どうしてもなあ~こういう作品は映画館で観たいんよなあ~」。

加入していればテレビ画面で観られるのでしょうが…正直スクリーンで上映しているのならば当方は映画館での鑑賞を。激推しです。