ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「マティアス&マキシム」

「マティアス&マキシム」観ました。
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友達の妹から頼まれた、短編映画出演の依頼。それは幼馴染とのキスシーンだった。

半分嫌々。けれど実際にキスをしてみたら。唐突に想いが溢れだしてきた。

今までそういう風に感じた事が無かったのに。子供の頃から一緒に居て、心地いい相手。なのに…どうして?この感情は?

 

グザヴィエ・ドラン。まだ30歳?!」

子役から俳優へ。そして2009年から脚本、監督として作品を続々製作し発表。毎回圧倒的センスを見せつけてくるドランの若いこと。

けれど。今回の『マティアス&マキシム』を観て。「確かにこの瑞々しさは若い彼ならではかもしれない」と感じた当方。

 

というのも。これは「ぎりぎり大人になる手前の二人のロマンス」だから。

 

30歳のマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)は5歳の頃からの幼馴染。

マティアスはスーツに身を包みエリートコースを歩んでいる。美しい婚約者も居て、順風満帆の人生。

比較してマキシムは実家で荒れくれた母親と二人暮らし。バーテンダーを生業としているが生活は貧しい。近々オーストラリアへ旅立つ予定。

ある日、気の置けない仲間が開いたパーティに参加した二人は、友達の妹から自主製作の短編映画に出演して欲しいとお願いされる。

 

この作品は主にマティアス視点で進められる。幼馴染とキスをした事で沸き起こる感情。戸惑い。これを恋だと認めたくなくて。

 

確かに二人は同性同士だけれど、それはあまりハードルとして重視されてはいなかったと思った当方。加えて言えば、二人は住む世界も随分違うけれど。そこも大きな問題ではない。(全くスルーされている訳ではない)

 

『友情』が『恋愛感情』になる事への戸惑い。大切だと思っていた相手の『大切』の意味合いの変化。相手を性的に求めた事なんて無かったのに…無かった?本当に?

 

仲間たちの間では有名だった。「二人は高校の時もキスした事あったよな」。けれど、マティアスは断固として認めない。

 

「いやいやいや~」当方の中に住む、おばちゃん当方(声大きめ)が堪えられなくなって立ち上がる。

「とりあえずマティアスそこに正座!アンタ往生際が悪すぎるって!」

 

高校生の時に交わしたキス。おそらくその時も同じ様な感情が過った(はず)。けれど即座に蓋をして。変わらぬ友情を貫いてきた。

気持ちに蓋をして無かった事にできたマティアスと、蓋をした事を忘れなかったマキシム。何故当方がそう思うのかですか?マティアスを見るマキシムの表情が終始『憂い』に満ちていたからですよ。

随分時が経って。またキスをした。相手に触れた事で、おもむろに蓋が外れた。

 

おかしな例えですが。当方の妹は大きめのモノを購入する時なんかによく「これを買って、いつか捨てる時にどう捨てたらいいんやろうかって思う」と言うのですが。その度「買う前から壊れるとか捨てる事なんて考えたらあかん」と答える当方。

 

子供の時から一緒だった。最早兄弟みたいな気ごころの知れた関係。そんな相手が『恋人』になる。これまでの二人ではない、新しい関係になる。

けれどもし新しい関係が心地よいものじゃなかったら?もし破たんしたら?

もう今の状態にすら戻れなくなってしまうんじゃないか?

 

ドランの実際の友人達をキャスティングしたという、二人を見守る仲間たち。

リラックスした雰囲気で和気あいあいとつるむ彼らは、おそらく誰も二人の関係がどう変化しようと偏見の目は向けないだろう。

マキシムの顔にある大きな痣を仲間の誰も触れないように。確かにそれは一瞬目を奪われるけれど、マキシムの体の一部であってどうこう言うものではない。

なのに。終盤マティアスがマキシムの痣の事を触れた事で仲間の雰囲気がガラッと変わる…あんなに最悪な状態から、よくあの展開まで持っていけたよなと思いましたが…つまりは「逃げるな」という事だったのだろうと。あのままマティアスが戻ってこなかったらそこで全て終わりだったろうから。

 

30歳。順風満帆に思える人生。出世や結婚も視野にある。もう立派な大人なんだ。そう思うのに、知らず知らず蓋をしてきた気持ちに今になって気づいてしまった。昔はやり過ごせたのに…今度はそれが出来ない。

怖い。これまでの関係が変わる事が怖い。けれど抑える事が出来ない。

マキシムはずっと自分のそばに居た。『憂い』を持って。なのに今、去ろうとしている。

 

「逃げるな」というのは、マティアス自身が己に最終下した判断。

 

「あんなにがっつり相手を求めておきながら、何言ってんだマティアス!白々しい!」

再びおばちゃん当方がいきり立つ。「正直になりなさいよ!」そこからのカウンターパンチ。

 

マキシムがドアを開けた時に、目の前に居たもの。

これは『友情が終わった』わけでも『恋が始まった』わけでもない。『一旦気持ちを確認して、これからも二人は続いていく』話。

 

繊細でしなやか。そんな「ぎりぎり大人になる手前の二人のロマンス」を真正面から食らってしまって…おばちゃん当方はもう息も絶え絶え。

人恋しさが募ってギブミーブランケット状態です。