ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵」

「プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵」観ました。
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1978年、アパルトヘイト政権下の南アフリカ。白人でありながら、アパルトヘイトに反対する『アフリカ民族会議(ANC)』の隠密作戦を行い、同胞のスティーブン・リーとテロリストとしてプレトリア刑務所に収監された人物~ティム・ジェンキン。

当時難攻不落と言われた、最高警備を誇るプレトリア刑務所を脱獄した実話を元にした作品。

 

「ハーリハリハリハリポタ~」。

ハリーポッターシリーズの主人公でお馴染みのダニエル・ラドクリフ…って個人的にはそんなにお馴染みではない(一応原作は全て読みましたし、多分何曜日かのロードショーで映画も見たとは思いますが)ダニエル・ラドクリフ

良くも悪くも。彼には子役時代の尾を引いていた暗黒時代もあったようですが。当方からしたら、近年の振り切れた彼が選んでいる作品のチョイス。そのマニアック路線。今のラドクリフの方がかなり面白い。今なら推せる。

前作の『スイス・アーミー・マン』に至っては映画館に三回通い。Blu-rayも発売初日購入。当然その年の『ワタナベアカデミー賞最優秀作品賞』を贈らせて頂いたほどのお気に入り。まあ余談ですが。

 

そんなラドクリフが今回演じたのが、1979年に実際にプレトリア刑務所を脱獄したティム・ジェンキン。

白人でありながら、黒人解放運動に関わり投獄された。ティムに課せられた刑期は12年。スティーブンは8年。

「刑期を全うするつもりなどない」。収監当初から脱獄する気満々のティム。とはいえ最高警備を誇るプレトリア刑務所。強行突破は不可能。穴を掘るのも無理。

そこでティムが選択した手段。それは『鍵を開けて出る』だった。

自分たちを閉じ込める10の扉。看守が腰に付けている鍵束を凝視し、形を記憶して作業で使用している木材の切れ端から鍵を作る。

約一年半の期間。来る日も来る日も鍵製作に明け暮れて精度を磨き。看守たちの行動を観察し、予行練習を積み重ねた。

そして遂に。自由への扉を開ける日がやって来た。

 

刑務所脱獄。当方はどうしても『昭和の脱獄王』こと白鳥由栄(4回脱獄)を思い浮かべるのですが。

鉄格子を抜けられるような柔軟な関節を持つわけでもなく。毎日こつこつ味噌汁をかけて鉄を錆びさせるわけでもなく。また、脱獄モノでありがちな穴掘り系でもなく。

「お手製の鍵を使ってドアを開ける」。

シンプルかつ大胆。それも『木製の鍵』で。

「木!そんなの折れるんちゃうの~?!」木の節を使えばいけるんだと。もうこの作品に関しては『実話ベース』という強固な後ろ盾故に、いかなる「そんなわけないやろ~」をも打ち砕いてくる。黙るしかない。

 

1970年代の南アフリカ情勢。アパルトヘイト。黒人たちがいわれのない差別をされ迫害された。当方は社会科で習った程度の知識しか持ち合わせておりませんので、何も語れません。

ティムが何故ネルソン・マンデラ率いる『アフリカ民族会議(ANC)』に賛同していたのか。元々公平な思想の持主だったのか、恋人が黒人女性だった事も関係しているのか。そういった事も…どこかにしっかり描かれていたのかもしれませんが…ちょっと彼の信念的な所は棚に上げられた様に見えた。

兎に角この作品のテーマは「いかに木の鍵を使って脱獄するか」。(まあ間違っちゃいませんよ)

 

刑務所の木工作業。そこで出た木くずを自室に持ち帰り、よなよな鍵を作る。看守が腰から下げている鍵の束を凝視して形を脳内に落とし込み、図に起こして製作する。

「すげえな。アンタ職人やないか」。

ティムの手先の器用さありきでしか実現しない戦法。きっとあれですわ。木から仏像とか彫れるレベルなんでしょうな。

 

106分と割合コンパクトな作品なんですが。終始地味に手に汗握り続ける。「やばいやばい。看守が来ちゃう!」「鍵が!ばれちゃう!」「外から解錠する手段が無いかやってみたら廊下に鍵を落としちゃった!早く取らないと足音が!」なんて。ドキドキが止まらない。

 

外に出るために必要な10個の鍵の製作。脱獄ルート。どういうタイミングで決行するか。作戦を練り予行練習。時々挟み込まれる「ガサ入れ」や「同胞であるはずの受刑者との対立」なんかにヤキモキしたりもしましたが。遂に決行の日。

 

「あの。40年前とはいえ、ちょっとプレトリア刑務所側お粗末すぎやしませんか」。

ぼそっと声に出してしまったが最後、心に滓の様に積み重なっていたもやもやが溢れだして止まらなくなる当方。

「どこが『最高警備』なんですか?」「どうして夜間の看守の数が1~2人なんですか?」「全体的に警備が手薄過ぎませんか?」「ちょっと管理がザル過ぎませんか?」「手作りで複製されてしまうレベルの鍵を運用しているってどうなんですか?」「そもそも何故同じ組織に属していて同じテロの実行をした犯人たちを同じ刑務所に収監するんですか?」

あまりにもずさん。おおらかな時代であったと言えばそれまでかもしれませんが…荒唐無稽な脱獄を遂行されてしまったプレトリア刑務所側に突っ込みが止まらなくて。

何?人手不足なの?働きにくい職場?言いたい事も言えない?オー人事案件?

 

しかも、散々お手製の鍵にこだわりまくっていたティムたちの最終突破もまた…まあこれ実話ベースなんで文句は言えないですけれども。

(最終。本当の人物達の映像を見て、役者たちが随分見た目を寄せていた事に感心)。

 

(こう言っていいのかは分かりませんが)難しい事は考えず、『脱獄モノ』としてみる分には十分。終始地味にドキドキしっぱなしで手に汗握る…けれどどうしてもこの描き方だとプレトリア刑務所側が間抜けにみえてしまうかなあ~という点は気になりますが。

 

近年のラドクリフがチョイスしてくる作品。その癖のある面白さは健在。まだ当方は振り落とされはしませんよ。