ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「人数の町」

「人数の町」観ました。
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荒木信二監督初長編作品。

 

借金取りに追われていた蒼山(中村倫也)は、黄色いツナギを着た男性に助けられる。その男は自らを『デュ―ド』と名乗り、蒼山に居場所を用意してやるという。

言われるがまま。夜行バスに揺られて辿り着いたのは『町』だった。

無機質な建物の一室を与えられ。互いを『フェロー』と呼び合う。ツナギを着た『チュ―ター』達に管理され、簡単な労働と引き換えに衣食住が保証される。それどころか、社交場の一つであるプールで簡易なやり取りをすれば、フェロー同士でセックスも出来る。

ネットへの書き込み。他人に成りすましての選挙投票。得体の知れない治験。

何故こういう事をしているのか?そんな事は知らされず、けれど何も考えなければ淡々と日々は過ぎ感覚は麻痺していく。

ある日。町にやって来た新しいフェロー、紅子(石橋静河)。

これまでここに流れついた人々とは全く違う。「行方不明になった妹を探しに来た」。という目的を持って現れた紅子を蒼山は気になっていくが。

 

衣食住が保証され。快楽も容易く手に入り、大した労働をしなくとも生きていける。そんな場所は…果たしてユートピアディストピアか。

 

予告編が面白そうだった。こういう不気味で歪んだ管理社会モノは好物な当方。

 

確かに設定は面白くて。前半はぐいぐい引き込まれていた。

社会的落伍者たちが思わず乗り込んでしまった夜行バス。一応乗る前に『同意書』が用意されていて。そこにはきっとこの『町』の事や、これまでの戸籍や社会生活が奪われる事も書いてあるのだろうに。このバスに乗る人たちはその内容をきちんと読まずにサインしている。

バスから降りて、部屋の鍵とパーカーを渡され。首に『なにか』を打ち込まれ。それでも「何だよこれ!」と誰一人声を上げることなく、ぞろぞろと与えられた部屋に吸い込まれる。

とりあえず熟読せよと言われた『バイブル』も、ほぼ改行の無いだらだらとした文章で、とてもしっかり読む気にもなれない。

けれど。何となく社交場であるプールに向かえば、他のフェローから大体のルールは教えてもらえる。

 

ついだらだら書いてしましたが。

確かにここは文字通り『人数の町』で。個々の意思は必要ない。兎に角数を稼ぎたい所にフェローを使う。

ネットでの商品コメント。選挙の票の取りまとめ。新装開店の飲食店へのステルスマーケティング。テロ。デモ。これらは一体誰の為に行われているのか、自分たちの行動がどういう意味を成すのか。けれどここに流れ着いたフェロー達は誰もそこに言及しない。考えない。だって楽だから。

思いがけず社会風刺的な内容に皮肉を感じた当方でしたが。

 

どうもねえ。後半から話の展開に「ん?」という雑さが出てくる。

「妹とその娘がどうもこの町にいるらしい」。「必ず二人を連れ戻す」。正義感の強い紅子という女性が、はっきりとした意思を持って町にやって来た。

元々社会生活が破たんしていた者ばかりで構成されていたフェロー達。誰も「元居た社会に戻りたい」。なんて思っていない。

紅子の妹は町では女王様の様に振る舞い、今の生活に満足しきっている。

結局。蒼山と紅子と妹の娘モモの三人で『町』からの脱出を試みるが。

 

一切町に馴染むつもりなどない紅子のスタンス。多少は誰かの琴線に触れそうなのに、誰の心にも引っかからない…なのに何故蒼山には引っかかったんだ。

蒼山自身も社会に戻ればまた借金取りに追われる生活なのに。何故リスクを冒してまで紅子とモモを連れて出ていかないといけないんだ。その急な責任感は何処から?

「愛してる!」いや、そりゃあそういう感情じゃないと行動出来ないけれど…でもその言葉に繋がるまでの感情の触れ合いみたいなの…ありましたっけ?唐突過ぎないか?そしてそれに対する紅子の答えも。急展開過ぎる。

 

町に着いた時、首に打ち込まれた『何か』。

町から離れようとすると作動し、体が動けなくなる。その危険信号と言えるメロディの不気味な愛らしさは面白かったけれど。その装置をコントロールできるリモコンのバッテリー時間の曖昧さ。短いんか長いんか、どっちやねん。

 

(後、「夜になったら町は違う姿を見せる(言い回しうろ覚え)」って。見せてもらってませんけれど…)。

 

時間経過が突如「え?さっきまでのシーンからいきなりジャンプしてないか?」という飛び方をする。

 

特殊な管理社会自体が歪をおこして崩壊する展開を想像していたのもあって。思ってもいなかった逃走劇。でもその流れが…雑。

ただ。蒼山と紅子とモモの最終地点はびしっと決まっていて、納得せざるを得ない。

あの小さなコミュニティ。管理されている側だけではない。管理している側も含めて町が成り立っている。用意してくれた『町』はライフスタイルに合わせて立場を変化させながら『フェロー』『チューター』『デュード』の居場所であり続けている。

 

「何かなあ。面白い題材で、どういう話にしたいのかも分かるんやけれど…いかんせん後半の流れに引っかかりを感じてしまうなあ」。

 

色々くすぶる所もありましたが。ただ。あの危険信号のメロディが、ふとした拍子に頭に浮かぶ時がある。何故だか忘れられない。雑味を感じるのに何だか引っかかっている…不思議な作品でした。