ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「mid90s ミッドナインティーズ」

「mid90s ミッドナインティーズ」観ました。
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俳優ジョナ・ヒルの半自伝的監督デビュー作品。

 

1990年代半ば。ロサンゼルスに住む13歳のスティーヴィー。兄イアン、母ダブニーの三人暮らし。

小柄なスティーヴィーは、いつも力でねじ伏せてくる兄に全く歯が立たず。そして母からの愛情が最近では疎ましく思えてきていた。

鬱屈していた日々。そんなある日、街のスケートボード・ショップを訪れたスティーヴィーはそこに入り浸る少年達と知り合う。

カッコいい。どこまでも自由で、スケートボードと一体になって、巧みに操る彼らに憧れを抱くスティーヴィ。

 

スケートボード文化に全く明るくないのですが…」。

 

当方のこれまでの半生で、一度も惹かれた事が無かった。ストリートファッションも、スケートボードも。

分度器を半分にしたような、強く湾曲した人工的な坂をスケートボードで行ったり来たりする。手すりや段差をスケートボードで駆け上り駆け降りる。

そのアクションを見かけた事もそうそう無い。時々道路をスーッとスケートボードで滑っている人を見かける程度で。

なので。スケートボードについては何も語ることは出来ない。出来ないのですが。

 

「なにこれもう止めて!」「エモーショナルに押しつぶされる!」

 

映画館なので、実際には手にタオルを握っていただけ。けれど心の中では、見えない大きめクッションを抱えていた当方はそのクッションを強く握ったり抱き寄せたりたたきつけたり。

 

鑑賞後調べたのですが。ジョナ・ヒル(敬称略)って1983年生まれなんですね。主人公スティーヴィーがジョナ・ヒルの分身なのだとすれば当方はスティーヴィーの兄イアンの世代。

何にしろ「1990年代をテーマに撮る、ほぼ同年代の監督たちが出てきたんだな」。という感想。という事はこれから「ああもうこれ!分かる!」という作品は続々出てくるのだなと。まあこの話は蛇足なのでここいらで止めますが。

 

主人公スティーヴィー。小柄で見た目も子供っぽい。シングルマザーの母親の愛は重くてうざったい。興味ある流行りものを取り入れている兄の持ち物は気になるけれど、いかんせん持ち主である兄がとっつきにくい。終始苛々していて下手をすると殴られる。

ある日。町で目立つ少年達を見かけた。彼らが乗っていたスケートボード。彼らが吸い込まれていったスケートボード・ショップ。

 

スケートボードを初めたけれど、全然上手くならない。

彼らが入り浸る店に行って、何とか仲間に入れた。大人のスケートボードも手に入れた。

文句なしに上手くて。クールでカッコいい。きわどいジョークを口にしながら、飄々とスケートボードを操る彼らが眩しくて。

 

小柄で誰からも子供扱いされる、またはみそっかす。そんなスティーヴィーの目に映った「恰好良いとはこういう事さ」。

 

当方は第一子というポジションなので…この『末っ子』ポジションから見える世界は分からない。なのでどうしても主人スティーヴィーよりも寧ろ兄のイアンに気を取られてしまった…だって。

 

自分の好きなカルチャーに興味を持っている弟が。鬱陶しくて、追い払っても追い払っても付きまとってきていたのに。いつの間にかおっかない連中とつるんで、自分の手の届かない所に行ってしまう。その切なさ。

「恰好良いとはこういう事さ」。その背中は自分であったはずなのに。

 

つまりは。末っ子スティーヴィーが憧れて追いかける対象が、兄からスケートボード集団に移ってしまった。

 

酒、タバコ。イケイケな女子とのいかがわしいパーティ。くたびれ切った中年当方から見たら全てがただ早熟なだけとしか言いようがないけれど。それが堪らなくクールで大人びて見えた。

 

「でもさあ。誰もが恰好良いだけでは居れないよな」。

 

力では敵わない。そう思っていた兄の姿。ソファに二人で横並びで座ったあの時、多分初めて兄がスティーヴィーに語った母の話。

 

うちの息子がとんでもない不良たちと付き合っている。そう憤慨して仲間たちに乗り込んでいった母親。(その親の気持ちが分かり過ぎるほど分かる世代になってしまったけれど)

もう彼らと今までの様に会えないんじゃないか。そう落ち込んでいたスティーヴィーにそっと寄り添ってくれたレイ。彼が語った仲間たちのこと。

 

家が貧しい。家に居たくない。大切な人を失った。皆が変わっていこうとしている中でもがいている。自由気ままにつるんでいると見えて、皆自分の置かれている環境や弱さ、葛藤と折り合いを付けて生きている。ただ俺たちの共通点は「スケートボードを愛している」ということ。でもそれは何よりも強い繋がり。

 

先述の通り、スケートボードについては全くの門外漢なので。「すげええ」とは思うけれどその技術的な点は一切分からない当方。ですが。

道路をただただ蛇行しながら滑っていく彼らに「ああこれは気持ちが良いだろうな」。と目を閉じる。

 

あの頃は永遠に思えた。けれど今思うと一瞬で過ぎ去った1990年代の10代真っ盛り。

こうしたら恰好良いとか恰好悪いとか考えすぎて、結果必死でみっともなくて。余裕なんてない。触るとヒリヒリすることばかり。でも。世界は何処までも開けていた。どこまでもこの板一枚で行くことが出来る。俺たちなら。

 

最後の最後。あの大監督のムービーが流れた時。「これは反則やろ」。何だか泣きたくなって、見えないクッションを抱え込んだ当方。

 

そこから彼らはどうなったんだろうか。おそらく当方と同世代になったであろう彼らは。今何をしているのだろう。

10代の頃、描いていた未来。描けなかった未来。つまんないと思っていた大人になったのか。けれど今の彼らがあのムービーを目にしたら…。

 

「なにこれもう止めて!」「エモーショナルに押しつぶされる!」