ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー」

「ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー」観ました。
f:id:watanabeseijin:20200826182021j:image

主人公のモリ―。史上最年少最高判事就任を目指し、ひたすら猛勉強した高校生活。努力の甲斐もあってイエール大学進学への切符も手にしている。生徒会長の任務を全うし、周りからはとっつきにくい奴だと距離を置かれていたけれど…でも私には何でも分かり会える親友がいる。

親友のエイミー。勤勉でボランティア活動に勤しむエイミーは、高校卒業後コロンビア大学へ入学前にボツワナで女性たちを助けるボランティアに従事する予定。

私たちはくだらない遊びや恋愛にうつつを抜かすクラスメイトを小ばかにしながら、必死に勉学に励んできた…なのに。

高校生生活も終了、明日は卒業式。そんな最後も最後に知った、衝撃の事実。

「馬鹿にしてきたクラスメイトも、有名大学や有名企業に進む」。

私たちは学業に専念したのに⁈

「勉強以外も楽しんだだけよ」。

『トリプルA』皆にそう呼ばれるビッチな女子に言われ、動揺するモリ―。

 

私たちは目標の為に必死に勉強したのに。奴らはくだらない恋愛や、遊びや、パーティに明け暮れていたくせに…なのに輝かしい未来も手に入れようっていうの⁈

 

「つまんないなんて思われたくない…私たちをがり勉だなんて言わせない。私たちはスマートで面白い人間だってことを思い知らせてやらなくちゃ」。

 

生徒会の副会長で人気者のニック。彼が主催するパーティに乗り込んでやる!そこでパーティピープルな連中に一泡吹かせてやる。卒業式前夜にこれまでの失われた時間を取り戻してやる!!

けれど。そもそもパーティに呼ばれていない二人。SNSから、ニックの叔母の家でパーティが行われている事は入手したけれど、肝心の場所が分からない。

 

いやいや、絶対に乗り込んでやる!真面目でイケてないと思われていた高校生活。チャンスは今夜限り。絶対にイケてる奴らに見せつけてやる!私たちが最高にハッピーでイケてる二人組って事を‼

 

「丹力があるよなあ。当方ならそこでわざわざ交流の無かったイケイケ集団に乗り込みには行かんけれどな」。「最終夜は、その唯一無二の親友と大切に過ごすよ」。

思わずこぼれてしまった、当方の呟き。

 

「馬鹿かお前!それを言ったら終わるやないか!」

いやあ。そうなんですがね。でも…スクールカーストの中~下層だった人間の思想ってリアルではそうなんじゃないですかね。

 

学生時代。異性同性関わらず、特別モテた経験も無く。秀でた容姿も才能も努力も無い。けれどひどく何かが劣っていたわけでもない。平凡と言われればそれまでだけれど…価値観の近しい仲間と日々つるんでそれなりに過ごしていた。

「ハタから見たら…」人目を気にする人は何処にでもいたけれど、幾つの時も当方は「人は人」だった。だって、何をどんなに気にしたって己以外の人間にはなれないから。他人と比べるなんて不毛。

 

所謂『リア充』という言葉。それは男女問わず誰にでも好かれて、引っ張りだこな人種だけを指すわけじゃない。例えそれが人から共感されなくとも、己の趣味にどっぷり浸かって暮らしている人種もまた『リア充』である。別にこの双方が交わらなくても。

 

何を出口のない事を延々と書いてしまっているのかというと…多分当方はこの作品で言う『40女』の世代だから。

 

「色々悟りきったテイでクダ巻いているけれど。だから何なの?高校の卒業式前夜なんて一生で一度きりなんですけれど!」

 

私たちはがり勉でつまんない人間じゃない!

モリ―とエイミー。二人っきりで居る時はノリノリで陽気…二人っきりで居る時は。

 

『ハング・オーバー』的な。人生の大きな節目の前日、燃え尽きてしまわんばかりのバカ騒ぎ。けれど最後に過る、ぽたんと落ちる線香花火の儚さ。

これを男子じゃない。女子で体現した気持ちよさ。小気味良い会話のラリー、明るさだけに突き抜けず、かといってしんみりし過ぎる事もない。

 

中盤以降。紆余曲折を経てやっと乗り込めたニックのパーティで。これまで『小憎たらしいと思っていたパーティピープルな連中』にも憎めない感情が湧いてくる。

 

結局。クラスの中での立ち位置こそ違えど、誰もがお互いを『定められたキャラクター』というフィルター越しで決めつけてしまっていたということ。

そのフィルターを取り除いたら、皆随分と素直で純粋な十代(二十歳も居たけれど)だったという…「私たちをつまんないなんて言わせない!」。モリ―とエイミーはそう意気込んできたけれど。彼らもまた「頭の空っぽなパーティピープル」では無かった。

もうそう感じた途端。画面に映る誰もが愛おしくなってしまう。

 

一見空っぽに見える奴らも。真面目で勉強に明け暮れた奴らも。同じ趣味に没頭していた奴らも(ここでは演劇部ですか)。同じ時を自分なりに一生懸命過ごしたのならばいいじゃないか。平素の当方はそう思うけれど。

この作品はそんな彼らを最終的にクロスオーバーさせる。エモーショナル。堪らない。

 

登場人物の中で好きな人。散々既出されていますが『神出鬼没の金持ちジジ』と『痛々しくも愛おしい金持ちジャレッド』。二人の金持ちに心を持っていかれまくっていた当方。ジジは何処にでも順応できる。ジャレッドは…いい奴なんやから幸せになってくれ。頼むから騙されるんじゃないぞ。

 

モリ―とエイミーを突き動かした行動力。その根底にあった恋心の行方。「ああこういう落としどころか…」そう思うけれど、けれどあの二人は何も悪くない。寧ろ良すぎてちょっと泣けてしまった当方。

 

最初から最後までノンストップ。「まさかあのピザ店員…」という回収に思わず笑いながら。モリ―とエイミーの怒涛の高校生活最終夜に酔いしれた当方。

 

あくまで「彼女達らしい」ウェットならない幕引きに流石やなとにやけながらも。

「モリ―とエイミーが四十歳になった時。この夜を思い出してどう思うんやろうな」。ふと目を細める当方。

 

この作品を観ながら「そういえば当方の卒業式と言えば…」と記憶を掘り起こされていた当方。

もう最後だからと。今なら勇気も気力も体力もない一日を過ごした。泣いて、はしゃいで一緒に朝まで仲間で過ごして笑った。もうこうやって皆で会うのは最後かもしれない。最後だから。

でも確かに。全員が揃う事はあれから一度もない。

 

もうあれから何十年も経っているのに。こんなにコミカルな作品を観ているのに。終いには胸が一杯になってしまう。堪らない。

 

すっかりスカした中年になってしまった、かつての少年少女に。これは必見です。