ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「アルプススタンドのはしの方」

「アルプススタンドのはしの方」観ました。
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2016年、第63回全国高校演劇大会最優秀賞(文部科学大臣賞)受賞作品。

兵庫県東播磨高校演劇部が上演。以降全国の高校で上演され続け、浅草九劇での舞台化を経て同キャストで映画化された。原作藪博晶(東播磨高校演劇部顧問)。脚本奥村徹也。監督城定秀夫。

 

完全にノーマークだった今作品。なのに…「面白い」「これは面白い」「胸が熱すぎて痛い」先だって鑑賞した人たちからの、息もだえだえな絶賛の嵐。

一体これは何事かと。当方も鑑賞し。

「青春モノにめっぽう弱い当方には堪らんクリティカルヒットでした」。御多分に漏れず、勢い勇んで映画部部長に報告した次第。

 

「どうしようもない事ってある。仕方ない。こういう運命だったんだ。そう言い聞かせて無理やり納得させてきた」。ところがところが。

「仕方ないなんて言うな!」

バットを持っているのなら精一杯振れ!何を諦めているんだ!

誰かに認めてもらうために努力しているんじゃない。けれど…いつかその努力は必ず報われる。無駄な練習なんてない。

何もせずにこの位置にいると思っているの?真ん中だってそれなりに頑張っているんだよ。

あの先生ってさあ。実は一生懸命で良い先生だよね。

 

心のバッティングセンターで。何も考えずにバッターボックスに立ってみたら。全部が全部本意気の剛速球で向かってきた。碌に構えても居なかった当方は、ただ全身にボールを受けるばかり。

(この例えからもお察しの通り。当方は野球どころかほとんどのスポーツに対し無知及び鑑賞する趣味を持ちません)。

 

高校の野球部の県大会初戦。優勝すれば夏の甲子園出場!…だけれど。そんなの夢もまた夢。こちとら弱小チームな上に対戦相手は強豪校。

負けるに決まっている。なのに学校を挙げて応援せよとのお達しに、アルプススタンドのはしの方で渋々ゲームを見届けている、三年の安田あすは(小野真莉奈)と田宮ひかる(西本まりん)。演劇部の二人は野球にはとんと疎く。今がどういう戦局なのかは、ちんぷんかんぷん。

二人の近くに元野球部の同級生、藤野富士夫(平井亜門)が遅れて座ってきた。野球部を辞め、けれど何だか未練のありそうな富士夫とぽつぽつ言葉を交わす二人。

そして。暑いのに、頑なにベンチに座らずじっと背後に立ち尽くす、同じく同級生の優等生、宮下恵(中村守里)。

普段交わる事の無かった四人が。野球部の県大会初戦、5回表~9回裏の応援を通じて、互いの想いをぶつけ、盛り上がっていく様。

 

「それが全部ストレートなんですわ(当方心のバッティングセンターより)」。

 

このままでは、概ねべた褒めしてしまう事になるので。一応「いやいやいや」と思った点を先に書いてしまおうと思いますが。

 

元々が演劇なので。登場人物たちの会話劇で構成される事には、大して違和感はありませんでした。ですが…これだけは「ああ。文化部には分からんのやな」。と思った事。

 

夏の甲子園を目指す県大会って、何月にやってんの?早くても6月…か7月やんな。そんな時期の晴れているアルプススタンドってかなり暑いで」。

学生時代。弱小な上にサボりまくっていましたが陸上部だった当方。陸上の競技大会は野球場では無いけれど(大体サッカーのスタジアムが兼任していた)大体どんなもんか分かる。

アルプススタンドのはしの方…って当然屋根も無いし、座っているベンチはお尻が焼けんばかりに熱くなる。

つまり当方が何を言いたいのかというと…「登場人物たちが余りにも涼しそうでリアリティがない」。

汗だく。当然Tシャツ。タオルを首に巻いて、下手したら頭にもかぶって(それか帽子着用。頭が焼ける)。団扇か下敷きでパタパタしながらずっとお茶かスポーツドリンクを飲んでいる(スポーツドリンクを飲まんとやられるぞ!)。そして会話の出だしの半分以上は「暑い」。

ブラスバンド部が「どこのポカリスウェットだよ!」と目がくらみそうな位の爽やかさを醸し出していましたが。

汗を流しながら、時には涙を浮かべて演奏&大声で応援。終いにはドロドロで、もう己が何に泣いているのか分からないけれど胸が一杯で号泣。そんな夏の日の1993がない(これは違う)。

 

「きっと冷夏だったんだ。梅雨が長引けば初夏は涼しい日もあるから…」。そう言い聞かせる当方。まあ、つまらぬ茶々は程々にしますが。

 

高校最後の夏。とはいえ所属している演劇部の活動はほぼ終了している。それも不本意な形で…その事が仲良しだったはずの、あすはとひかるの関係をギクシャクさせていた。

半強制だった野球部の応援。ここでは自分は輝けないと野球部を退部したけれど、何だか割り切れなくて。ひっそりスタンドのはしで鑑賞していた藤野。

孤高の才女、宮下。「友達って必要なんですか?」きっと来ない。誰もがそう思っていたのに。一人でじっと試合の行方を見つめている。

 

物語の前半。不本意に高校演劇生活を終えてしまったあすはと元野球部藤野の「仕方ない事ってあるよな」「諦めるしかない」の応戦。けれど、あまりにも言葉に出し過ぎる事で却って「納得してないんやろうなあ。一生懸命言い聞かせて」。と感じていた当方。

そして後半。ある想いから、意気投合し一気に距離が縮まったひかると恵の「仕方ないとか言わないで!」「頑張っているんだ!」という怒涛の打ち返し。

 

「元々上演されていた高校の演劇部の正規部員が四人だった」。どこかで読んだ記事。なので登場人物のメインは殆どこの四人。肝心の野球部は一切カメラに映らない。

試合進行を知るのはあくまでもキャラクター達の会話とアナウンスと声援のみから。

けれどそのそぎ落とされた無駄の無さが、かえって『高校球児たちの熱い戦い』という全員がスポットを当てている場所のはしっこで『…とは別の何かが起きている』という演出を成功させている。

けれども。彼らはあくまでも『野球部の応援』という使命も忘れてはいない。野球部の試合進行と想いのぶつかりに合わせ、感情を高ぶられていく四人のボルテージにつられて。観ている側には言葉でしか語られないピッチャー園田や矢野に声援を送ってしまう当方。目に見えない白球を追おうとしたラスト。

 

また、ブラスバンド部部長も、「大声だせ!」と熱血の厚木先生も。「ここには悪い人なんて居ません」。という…どこまでも優しい世界で出来ている。

 

後日談…個人的には蛇足かなあという気もしましたが。

 

全弾ストレートの剛速球を放ってくる青春映画。けれどやっぱり心地良い。当てられてなんぼ。

一生懸命で何が悪い。仕方がない事なんてない。

 

特に元気を無くしがちなこの夏に。観られるのならば万人にお勧めです。