ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ルース・エドガー」

「ルース・エドガー」観ました。
f:id:watanabeseijin:20200706080808j:image

17歳。黒人の高校生ルース。

オバマの再来と呼ばれ、誰からも称賛される少年はいったい何者なのか。

完璧な優等生か、それとも恐ろしい怪物か?

~劇場チラシより抜粋~

 

アフリカ、エリトリア出身の黒人、ルース・エドガー。幼少期に戦場に送り出された経験もある彼は、アメリカに住む白人夫婦ピーターとエイミーに養子として引き取られた。

初めはコミュニケーションもままならなかったが。読み書きと会話を覚え、専門家のカウンセリングも経てはや何年、今や高校生。

成績優秀。所属する陸上部でも時期部長と目され。全校生徒を前に堂々とスピーチをこなす。つまりは文武両道。同級生からも教師からも信頼される。そんな優等生に育ったルースを見て、両親も自慢の息子だと満足していた。女性教師ウィルソンが現れるまでは。

 

「ルースは危険な思想にとり付かれています。一度ご家庭で話をしてください。」

きっかけはウィルソン先生の授業で出された課題。提出したルースのレポートには見逃しがたい文言が溢れていた。

 

信じられない。あんなに素直な息子が。そう思う反面「幼少期は戦闘地域で暮らしていた。」というルースの生い立ちが気になってくる。もうそんな思想はとっくに矯正出来ているはずなのに。

与えたモノは全て吸収した。そうして出来上がったと思っていた優秀な息子は、他人を操る為の狡猾な知恵を付けただけで何も変わっていなかったのか?

今までと変わらない息子とのやり取りも、空恐ろしく思えてくる。そつがなくこなしているだけなのか?演技?

もしかしたら…とんでもない化け物を育ててしまったのでは…。

 

そんなこと信じたくない。息子を信じたい。でも怖い。もし…もしウィルソン先生の言う通りだったら。

 

「白黒はっきり付けたがる」傾向にある社会。

アイツは良い奴だ。駄目な奴だ。賢くて優秀だ。おバカでちゃらんぽらんだ。信じられる。信じられない。

 

かつて戦闘地域で暮らしていたアフリカ系黒人少年。アメリカの裕福な白人夫婦に引き取られ、何不自由のない生活と水準の高い教育を受けた。

その結果、生まれたのは将来優秀な高校生か。テロリスト予備軍か。

 

主人公ルース。彼の行動、言動からは…少なくとも当方は「どちらとも言えない」としか言いようが無かった。

 

頭の回転の速さ。先手先手を見越す能力の高さ。それは普段討論やスピーチをしている賜物であると思う当方。一つの物事に対して、人はどういう考えをするのか。多面的なモノの見方と、群衆に対しどういうパフォーマンスをすれば自分の思う方向に思考を向ける事が出来るのか。その訓練を普段からしていたルース。

同級生にしたら、とっつきやすい優等生。賢いけれどお高く留まっている訳じゃない。ちょっとイケない事にも付き合ってくれる。アイツっていい奴だよな。

 

ルースは危険だと両親に忠告したウィルソン先生。この高校で長らく教鞭をとり、真面目に指導に当たっていた。ただ…生徒たちにとっては時に窮屈な相手だった。

「あの子は~な子だ」という決めつけをしてしまう。それは時には脱落者の烙印を押される生徒を生む事もあり、そんな生徒にとってはウィルソン先生は敵だった。

 

これはあくまで当方の推測ですが。ルースがウィルソン先生に提出した問題のレポート。これはわざと過激な内容にしたのだろうと思う当方。ウィルソン先生の目に留まる様に。

「おたくの優秀な息子さん、危ないですよ。」

両親が動揺するのはある程度承知の上。それでもウィルソン先生に宣戦布告をしたかった。なぜなら…彼女は「あの子は~な子だ」と決めつけるから。

 

「僕を決めつけないで。」「元難民の黒人なんて、オバマになるか化け物になるかのどちらかなんだ(言い回しうろ覚え)。」

ウィルソン先生を貶めるべく、余りにも狡猾に動き回るルースに、流石にただの優等生だと信じるほど当方は無邪気ではありませんが…やはりこのフレーズが彼の本心であり叫びであると思った。

 

「僕はルース・エドガーだ。」

おそらく彼が言いたかったのはこの一言。

元難民だとか。アフリカ系黒人だとか。戦闘地域に生まれたとか。白人の裕福な両親に引き取られたとか。

一人の少年に対し、これらの条件を掛け合わせていったらこうなる。そういうフォーマットに自分を当てはめるな。国籍も。肌の色も。貧富の差も。信仰も。そんなの関係ない。優秀か劣っているか。正義か悪か。白か黒かで判断するな。

今ここに自分は居る。白でも黒でもない。

 

生徒たちを無意識に当てはめてきた。そのウィルソン先生こそが「二グロが。」と決めつけられてきた。精神疾患を患う妹を持ち、どう接していけばいいのか悩んでいた。

 

もしかしたら。とことん分かり合える相手だったのかもしれない。ルースがもっと大人になった時、ウィルソン先生の事をどう見るだろう。

誰から見ても優等生だったルースの本質を、この時点で見抜いて見逃さなかった唯一の相手だったのだろうに。そう思うとやり切れない。

 

両親との関係。友情や恋心を利用してまで貶めた相手。結局ルースは何を守ったのだろう。彼もまた優等生の仮面を外さないと決めたのか。その下にある顔は一体。

けれど作中彼は何度も叫んだ。「僕を決めつけるな」。

 

ご希望通り。白黒付けずに最後走っていたルースの表情が苦しそうで…こちらも気持ちが着地しないまま。背中を向けて走り去ったルースに、掛ける言葉もなく溜息を付くばかり…。