ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「暗数殺人」

「暗数殺人」観ました。
f:id:watanabeseijin:20200622180528j:image

韓国で実際に起きた事件を基に、とある殺人犯と未解決事件を追う刑事を描いた作品。監督、キム・テギュン

 

麻薬捜査官のキム・ヒョンミン刑事(キム・ユンソク)。馴染みの情報屋経由で知り合ったカン・テオ(チュ・ジフン)と初めて接触していた最中、テオは張り込んでいた刑事たちに取り押さえられた。

恋人を殺害した罪で逮捕されたテオ。

それからしばらく経って。休日を楽しんでいたヒョンミンに、拘置所の中から電話が掛かってくる。

テオに呼び出され、面会に向かうヒョンミン。

テオののらりくらりとした態度や言動に翻弄され、捜査と裁判が難航していた恋人殺人事件の物的証拠を、テオから突然告白されたヒョンミン。半信半疑で一人現場へ向かったけれど…告白通りに証拠を見つけてしまった。

強引にテオの実刑判決を急いでいた検察側にとっては、ヒョンミンが証拠を持ち帰ってしまった事で、諸々捏造していたと暴露されてしまった。

実刑は免れなかったものの、検察側の手落ちから減刑となったテオ。

そしてテオはヒョンミンに語り始める。

「7人だ。俺が殺したのは全部で7人。」

果たして彼は本当に連続殺人犯なのか。それともこれは狂言か。

一体テオの目的は何なのか。

 

殺人犯カン・テオを演じたチュ・ジフン

昨年で言えば『神と共に』シリーズなんかでも見かけたイケメン俳優。だからなのか、ステイホーム明け直ぐの日には女性客で映画館が溢れていて、まさかの「満席(半数しか収容出来ない)で観れません。」と劇場に入れなかった当方。

少し落ち着いてから。平日午前の回に行って、無事鑑賞出来た…韓流ファンは強い。

とはいえ。そんな男前なビジュアルも甘さも感じさせない。「腹立つなあ~。」というこざかしいクズを熱演。人を小馬鹿にした態度。精神鑑定不可能、けれどサイコパスとまでは言い切れない。頭が切れるけれどインテリジェンスは感じられない…どこまで行っても同情出来ない。終始苛々する。素晴らしい。

 

カン・テオに対峙した刑事、キム・ヒョンミン。彼を演じたキム・ユンスク。

『チェイサー』を初め。同じく去年で言えば『1987、ある闘いの真実』などで骨太な演技をしたベテラン俳優。今回もどこまでが本当なのか分からない、下手したら警察をおちょくっているのかもしれない殺人犯の与太話にどこまでも付き合う古株刑事を好演。

刑事と言っても。韓国映画でお馴染み?の沸点が異常に低い暴力刑事ではなくて。地味にコツコツ追うタイプ。「7人殺した」というテオの告白に、全てが本当ではないだろうとは思いながらも、どこが真実なのだろうかと追及する。

 

脇役も「あ。『エクストリーム・ジョブ』の」なんてお馴染みの役者も見かけるけれど、概ねこの主演二人の演技合戦。つまりは殺人者テオとヒョンミン刑事の騙し騙され合い。

 

『暗数』とは、実際の数量と統計上扱われる数量との差。思に犯罪統計に於いて、警察などの公的機関が認知している犯罪の件数と実社会で起きている件数との差を指す。~デジタル大辞林/小学館~劇場チラシから抜粋。

 

つまりは、立証されていない犯罪。失踪などの行方不明者。原因不明の失火。目撃者もおらず、誰かに殺された名もなき被害者。そんな「どうしてこんなことになったのか」「一体被害者はどうしてこんな事になったのか。」という『迷宮入り』に付けこんでくるテオ。

 

テオが語る異常に詳しい犯行内容。時間も場所も正確だけれど、実際に現場に向かってその場所をほっくり返しても思った通りの結果は導きだせない。結局はテオの言葉だけで、証拠が出てこない。しっぽを掴めない。

つまりは。「あいつは嘘つきだ。」と思われる事がテオの狙いで。テオの語った過去の犯罪履歴をヒョンミンが捜査し、ひとつづつ「真実ではない。」と判決が下される事で、現在囚われている恋人殺しも虚偽をはらんでいると思われたい。

 

特殊な刑事手腕がある訳でもなく。寧ろ「アイツにはもう関わるな。」と仲間内からも白い目で見られ浮いてしまったヒョンミン。かつて同じように一人の犯罪者に入れ込み過ぎて警察を去る事になった元先輩刑事からも「いいカモにされるだけだぞ。」と忠告される。

また、なまじ実家が裕福であった事からも、テオに言われるがままに己の金を振り込み、差し入れを怠らないヒョンミン。それが世間に知られるところとなり、自身も裁判に掛けられるなど愚直な下僕状態。汚職刑事スレスレ。案の定降格。

 

とまあ。中盤まではテオ有利で進んでいく展開に、正直「ふがいないな~」なんて思いながら苛々してしまうのですが(テオがどんどん調子に乗っていくのも不快)。

 

結局の所、ヒョンミンはテオを打ち負かそうという考えではなかった。

テオをもう二度と社会復帰させてはいけない。こいつは野に放てばまた同じ事を繰り返す。そういう気持ちも強くあるけれど、一見それらしい嘘で塗り固めた様に見える7つの事件の背景にあるテオの原罪は何なのか。

7つの事件を紐解けば、テオが元々どういう環境で育った人間なのか、そして語られなかった『暗数殺人』が浮かび上がる。

(まあ、この7つの事件もちゃんと落としどころがあるんですが)

 

「どうしてこうなったのか」が分からない事件。それらを語るすべを持たない被害者の真実を突き止めたい。一見犯罪者に翻弄され愚直に見えたヒョンミンは、名もなき、闇に葬られた事件に真摯に向き合っていたという。これは胸が熱い。

 

韓国で実際に起きた事件を基にした作品。最終に出たテロップには冷や水浴び去られたみたいな気持ちになりましたが。

 

ステイホーム直前に公開された作品。約2か月の間が空いて、もしかしてもう観ることが出来ないのではと心配したりもしましたが…無事鑑賞。

 

映画館売店で映画館オリジナルのサブバックと韓国おつまみセット(乾麺やおやつ)を購入してホクホクと帰宅した当方。映画部活動も平常運転に戻りつつあります。