ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「スウィング・キッズ」

「スウィング・キッズ」観ました。
f:id:watanabeseijin:20200310074504j:image

韓国。『サニー 永遠の仲間たち』のカン・ヒョンチョル監督最新作。

 

1951年。朝鮮戦争当時、最大規模だった巨済捕虜収容所。新しく赴任してきた所長による、対外的なイメージメイキングの為に、捕虜たちによるダンスチームが結成された。元ブロードウェイタップダンサーで現在は米兵のジャクソンが率いるのは、それぞれ異なる事情を抱えた4人。国籍や思想が違う彼らを繋いだのは『タップ・ダンス』だった。

 

『巨済捕虜収容所とは』『朝鮮戦争とは』というレクチャー、冒頭でありましたが。

韓国の人たちには当たり前の知識なんでしょうが。今回感想文を書くにあたって、ちょっとおさらいした当方。(当方お馴染み雑まとめ。「おいおいこれ!」という部分がありましたら…「バーカバーカ」と笑ってください。)

 

1950年に勃発した朝鮮戦争。同じ朝鮮民族から分断し、1948年に成立したばかりであった大韓民国南朝鮮/韓国)と朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)の間で起きた、朝鮮半島の主権をめぐる国際紛争

1950年6月25日。金日成率いる北朝鮮側が国境線としていた38度線を越えて韓国に侵略を仕掛けた事で勃発した。

アメリカが背後に付いた韓国(国連軍)と、中国が背後に付いた北朝鮮(共産軍)。

国慶尚南道最南端にある、巨済島。国連軍によって作られた、当時最大規模の巨済捕虜収容所。そこには朝鮮人民捕虜と中国人捕虜が、最大で17万人収容されていた。

この収容所では、北朝鮮支持の『親共捕虜』と社会思想を変えた『反共捕虜』との間で、共産主義と民主主義という理念を意とした捕虜同士の争いが絶えなかった。

(1952年には米軍司令官が捕虜に拉致されるなどの事件も発生した。)

1953年7月。南北が停戦協定に合意したことで、収容所は閉鎖された。

現在は『巨済捕虜収容所遺跡公園』として残されている。

 

~という下り。あまりにもさらっとしていた気がしたので。「ここに収容されている人たちって、北朝鮮と中国の兵士やんな?」「そもそもは同士だったのに。何故捕虜同士で憎み合い、紛争を起こしているのか(それを言ったら朝鮮戦争そのものだって…)。」「主人公ロ・ギスの苦悩の背景は?」

…正直フィーリングで消化できますが。おさらいしてみると話がしっかり頭に入ってくる。だって(小声)そういう史実は基礎知識やからな!進めるぞ!感が否めなくて。(あくまで当方の主観)

 

巨大捕虜収容所。アメリカ軍が取り仕切るけれど、そこまで厳しく規律を敷いている訳でもなく。捕虜たちはアメリカ文化に触れる機会もあり、民主主義に憧れる者も現れた。しかし、元々の共産主義を信念として崩さぬ者もあって。捕虜同士でのいざこざも絶えなかった。

1951年。国連軍メディアに『開かれた収容所』というイメージで報道してもらいたいという新任所長の希望で、捕虜たちによるダンスチームを結成、披露するプロジェクトが立ち上がる。

そこで、米軍下士官のジャクソン(ジャレッド・グライム)。元ブロードウェイタップダンサーの腕を買われ、ダンスプロジェクトのリーダーに指名された。

初めこそ気乗りしなかったけれど。結果メンバーとして残ったのは、収容所で一番のトラブルメーカー、ロ・ギス(D.O.)。4か国語を話せる無認可通訳士、ヤン・パンネ(パク・ヘス)。不幸にも収容所に迷い込んでしまった民間人、カン・ビョンサム(オ・ジュンセ)。中国人振付師シャオパン(キム・ミノ)。

国籍や思想の違い。人種差別。メンバーが各々抱える事情。けれど結局彼らを一つに繋いだのはダンス。

 

「何かのため。誰かのため。体裁。そんなの結局関係ない。踊りたいから踊る。楽しいから踊る。」「音が。音楽が。聞こえたら胸が熱くなって、体が自然に動く。」「一人でもできる。けれど誰かと一緒に踊るともっと楽しい。」

 

ジャクソン役のジャレッド・クライム。世界最高峰のタップダンサーであり俳優。「うわコレ、ホンマもんですわ。」すっげええしか語彙を見つけられない。そんな彼と、主人公ロ・ギスを演じたD.O.。当方はアイドル事情には全包囲疎いんで…アイドルの彼は存じ上げませんが。「こんなに動けるモンなの!」と脱帽。この二人のダンスシーンだけでも十分に気持ちが上がる。

けれど。他のメンバーも決して引けを取らない。紅一点のヤン・パンネ。収容所に出入りしている賑やかしお姉ちゃんたちの末っ子的存在かと思いきや。実際にペラペラ英語を話せるし、自分を売り込む度胸もある。総じてキュート。

不幸の民間人、カン・ビョンサム。生き別れてしまった妻を探したい一心で、ダンスチームに志願。

そして中国人捕虜、シャオパン。

当方はねえ。こういうキャラクターは大好きなんですよ。どう見ても肥満体型なのに「栄養失調なんだ。」そして心臓に持病があり、ひとしきり激しく踊った後はぶっ倒れてしまう。そんな彼は元振付師で、見た目からは想像もつかない柔らかなダンスを披露する。

彼らだって、結構なタップダンスを披露する。つまりは見ていて楽しい。

 

北朝鮮支持の親共捕虜のロ・ギス。兄は北朝鮮軍の英雄とも目される人物で、自身も共産主義である事に揺らぎはない。なのに…体が反応してしまう。アメリカの音楽に。アメリカのダンスに。

他のメンバーは、屈託もなくダンスの練習に参加出来るけれど、ロ・ギスはなかなか参加出来ない。参加しても、今度は同士の目が気になってしまう。

誰よりもダンスの才能とセンスがあって。無意識に体が動く。練習してしまう。憎むべき米兵なのに、ジャクソンのダンスに堪らなく惹かれている。見たい。知りたい。そして一緒に踊りたい。

 

タップダンスチーム結成に集ったメンバー各々が抱える事情。ダンスをする理由。指揮をとるジャクソンですら、やらざるを得ない状態にあるから始めた。

けれど…結局は皆「踊りたい」が原動力になっていたと思う当方。

 

戦争中。巨大な捕虜施設。元々は同じ民族であったけれど、思想が変わっていくことで分かり合えなくなってしまう。そして憎んで殺し合う。

ただシンプルに踊りたい。その気持ちすら…誰かに利用される。

 

まあ。随分と堅苦しく綴ってしまいましたが。基本的にはライトでコミカルに展開していくので。時に笑って、かと思えば鼻がツンと来たりしながら観られるのですが。

 

最終。約束のクリスマスコンサート。遂にダンスが披露された時。その圧倒的なパフォーマンスに胸が高鳴って、満面の笑みだった当方(あの楽団も良い)。

 

なので。声にならない幕引き。寧ろ呆然。

 

1951年。韓国で。クリスマスの夜に夢のようなダンスを披露したチームが居た。そこは捕虜施設で、メンバーは国籍も思想も立場もバラバラ。けれど彼らは一つだった。

 

彼らの友情、高揚した気持ち、一体感。けれどその背景は。

あまりにも内包されている事柄が多すぎて。未だ纏まらず、グルグルしている当方。

けれど。振り返るとまず、あの楽しそうに踊っている彼らが脳内に浮かぶ。

「何かのため。誰かのため。体裁。そんなの結局関係ない。踊りたいから踊る。楽しいから踊る。」

 

…いつだってそうであれと。

そういう解釈をして、強引に幕を下ろしたいと思います。