ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「彼らは生きていた」

「彼らは生きていた」観ました。
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2018年。第一次世界大戦終結100周年を記念とした事業として、2018年10月のBFIロンドン映画祭での上映を目的として制作された作品。

イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた、第一次世界大戦中の西部戦線で撮影された膨大なモノクロ映像資料から抜粋し、現代の技術を駆使して3D制作に成功。

退役軍人たちの肉声インタビューや、訛り英語を話せる人間たちからセリフを収集し、ナレーションや兵士の音声を再現。また風や馬の蹄などの音も重ねた。

ピーター・ジャクソン監督作品。

(パンフレットから抜粋)

 

1914年。第一次世界大戦勃発。その当時のイギリス国内風潮。年齢を偽り自ら志願兵となった若者たち。訓練の様子。そして西部戦線へ。

第一次世界大戦を知ったのは、教科書で。物語で。映画で…確かにモノクロの映像も観た事はあった。けれど、粗い解像度とカクカクした動き。音声もマッチしていなくてどことなく素っ頓狂。リアルを切り取っているはずなのに、リアルさを感じない。

今回、ピーター・ジャクソン監督を初め、多くの技術者が各々の分野の全てを駆使して作り上げた…人類初の世界大戦前線のドキュメンタリーが上映される。これは観ておかないと。こんなの観られる機会はそうそう無いぞ。

 

結果から言うと「とんでもないモン観てしまった」。これまで観てきたようなカクカクのモノクロ映像からカラーに切り替わる瞬間。思わず鳥肌。

とは言え。残念ながら当方は映像や音楽の技術者では無いので「これがどれだけ凄いのか」については全く語れないのですが。

 

戦争映画について感想を書く度、同じ事を書いてしまう。けれどやっぱり言いたい。

当方が知りたい事は「その時生きていた人たちはどう感じていたのか」。

特に敗戦国である日本は「あれはいけない事だった」「過ちは二度と繰り返しませんから」「辛い。何も良い事などない」と描きがちで。

戦後に生まれて教育を受けた当方だって、当然そういう思想に落ち着いている。竹やり持って誰かを殺してこいなんて絶対に嫌だし、戦争なんて体験したくない。けれど。

「戦争時代に生きた人たちはどう考えていたのか」「どういう生活を送っていたのか」24時間全てを憎悪に費やしたとは思えない。一体どんな日々を暮らし、戦時中である事をどう感じていたのか。それを知りたい。後付けの倫理観で覆っては、実際が見えなくなる。戦争は愚かな事かもしれないけれど、彼らが愚かであった訳では無い。

せいぜい2,3世代しか変わらない彼らが、今を生きる世代と地続きでないはずが無い。

 

戦争が始まって。「男子たるもの!」といった内容の募兵ポスターがイギリス国中に張られた。「愛国心故!」とかつての軍人たちは再び集い。

そして19歳~35歳が志願兵資格であったが、年齢を偽った十代の若者たちも多く志願した。けれどそれは「周りが志願していたから。自分も行かなければと思った。」「働きたくなかった。」等。異様な興奮状態にあった国の雰囲気に、訳が分からないまま飲み込まれた者も沢山存在した。

彼らは一律に錬兵場へ移動、厳しい訓練の日々が始まる。まだあどけなかった彼らも一か月もすれば立派なイギリス兵。

 

カラー映像に切り替わり。動きも滑らかになって。何よりカメラに向ける彼らの表情に息を呑んでしまう。血が通っている。

歯並びが無茶苦茶なあどけない顔もある。ふと過る真顔。けれど彼らは概ねカメラに笑顔を見せおどけてみせる。隣の兵士と小突き合い。肩を寄せ合う。

 

最前線に送られる。そこは西部戦線。直ぐそこにドイツ軍がいる。

塹壕で監視と穴掘りを交代で行う日々。いつドイツ軍から攻撃されるか分からない緊張状態の中。横穴で倒れるように眠り、紅茶を飲む。目の前には腐敗して片付けられていない死体。不衛生かつ冬場の冷え込みで凍傷を負う者。当方からしたらトラウマレベルの非常事態連発だけれど、これが彼らの日常。

 

退役軍人たちのインタビューが作中のナレーションとなるので。観ている映像に「こういう事があってさあ~」と彼らの説明がついて進行していく仕様。ただ、それを観ていて当方が思ったのは「この人たちは生き残った人たちなんだな。」という事。

カメラを向けられると人は思わず笑顔を見せる。体力的にも精神的にも明らかに過酷な状況で、思わずおどけたり笑顔を見せた兵士たちの一体どれだけが生き残ったのか。

どうすれば生き残れるかなんてルールは無い。偉いとか偉くないとかも、おそらく関係ない。弾に当たれば死ぬ。爆破されれば死ぬ。けれどそれだけではない、ただ沼に落ちたとしても命を落としてしまう。兎に角運が悪ければ死ぬ。

戦場では誰の命も平等に軽く、誰が死んでもおかしくない。けれどそれは何の為に?

 

作中。ドイツ軍兵士を捕虜として捉えた場面があって。けれど言葉が通じるものを介して話をしてみると、憎むべき相手では無かった。ただ互いにひどく疲れていた。それだけ。負傷したイギリス兵を一緒に救護班まで運ぶドイツ兵。友情めいた絵面に「何をしているんだろうな」と思わずにいられない。だって。じゃあ一体何と戦っているのか。

 

突撃の日を迎えた時。これまでの朗らかだった彼らの表情ががらりと変わる。張りつめた緊張感。流れが変わった。息が詰まった後。ただただ溜息。

 

「イギリス帝国戦争博物館に所蔵されている膨大な映像資料。今回は西部戦線を切り取って編集した。けれど、その素材となった映像を撮っていた人…カメラマンはどう思っていたんやろう。誰に、最前線の何を届けたかったんやろう。」

当方は何者でもありませんが…おそらく「目に付いた全てをカメラに収めたかった」んだろうなと。カメラマンならば。記録に残せる立場に居る者ならば。きっとそう思う。

 

「俺たちにとって戦場とはこういう場所だった。」視覚的に理解しやすい映像と退役軍人たちが語った内容。実に頭に入りやすく説得力があった。

「こういう色んな立場の人たちの話を聞きたい。多分もうすぐ聞けなくなる。」そんな考え方は良いとか悪いとかは後からでいい。飾らない体験談を聞きたい。

なぜなら。色んな考え方を知らないと、同じことを繰り返してしまうから。例えば「戦争はいけない事だ」という考えを持つのならば、何を以てダメなのか、答えだけではなく、行きつくまできちんと考えなければならない。

そう思うと、こんな体験が映画館で出来たなんて本当にありがたい。そう思う当方。

 

(後余談ですが。パンフレットが400円だったのも驚き。ワンコインでおつりが来て読み応えもある。これはなかなか。)

 

感情が溢れるまま、纏まりもなく勢いよく書いてしまいましたが。別に気難しく構えなくても、単純に興味深い記録映画として楽しめる。不謹慎ですがちょっとコミカルな部分もある。99分があっという間。

そして最後の一言に「それは確かに無いわ。」と声にならない声で苦笑い。

これは観られる間に映画館で観た方が良いと。本当にそう思う作品。こんなの観られる機会はそうそう無いです。