ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」

テリー・ギリアムドン・キホーテ」観ました。
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 『構想約30年!鬼才、テリー・ギリアム監督の呪われた企画遂に完成!』

『19年の間、9回映画化にチャレンジしその都度失敗に終わった因縁の作品。』

 

「え。あの、いつかやるやる言うて毎回とん挫してたやつ?」「ですです。」

先週末。遂に行われた、当方所属の映画部(部長と当方の二人で構成)の会合。そこでの映画部長との会話。

「ところでさあ。ドン・キホーテって結局どういうお話なわけ?」「子供の頃読んだ絵本程度でしかもうろ覚え…風車を巨人と間違うやつやんな?」「あれって…本当は結構な社会風刺とか入っている長編らしいけれど。」

残念ながら。我々の認識はその程度。なので、後付けで情報収集。

その結果「想像以上に何重にも入れ子になっていたんやな…。」と震えている当方。

 

スペインの作家、ミゲル・デ・セルバンラスに依って書かれた『ドン・キホーテ』。1605年の前編と1615年の後編からなる作品。

ラ・マンチャという村に住む、ある男が騎士道物語を読みふけるうちに自身も騎士であると思い込み。遂には『ドン・キホーテラ・マンチャ』と名乗り、ロバのロシナンテに乗り近所に住む農夫サンチェを連れて旅に出る…という冒険物語。有名な風車云々は前編。

作者セルバンデスの投獄時代などがあって?10年のブランクを経て後編が発表。そこでは、前編が出版され皆がドン・キホーテの存在を知っているという世界線。その前提ありきで新たな旅に出ているドン・キホーテ

(当方に依るTHE雑まとめ①。)

 

「随分前から『ドン・キホーテで映画を撮る』と公言して、実際に行動していながら倒れ続けた企画。(その様を撮った『ロスト・ラ・マンチャ』というドキュメンタリー作品、2002年公開。)心が折れた事は数知れないだろうに、何度でも何度でも何度でも立ち上がったテリー・ギリアム監督そのものが『ドン・キホーテ』。」「狂気と執念。」

 

主人公のトビー(アダム・ドライバー)。CM監督でドン・キホーテをモチーフとした作品の撮影中。煮詰まっている現場で、作業は進まず。

夜。ボス主催の企画会議を兼ねた夕食会で、偶然物売りのジプシーから自身の学生時代の卒業制作、ドン・キホーテを題材にした作品を売りつけられた。

 

「そういえばこの辺りだ。」郷愁から、かつて撮影をした地を訪れたトビー。しかしそこで彼が聞いたのは、撮影以降自身がドン・キホーテだと思い込み狂人と化したという、元靴職人ハビエル。

しかもヒロインを演じたアンジェリカ(ジョアナ・リベイロ)。清純そのものだった彼女も映画に魅せられて村を出たという…。

自身の作品が当時の関係者に影響を与えた事に衝撃を受けながらも、ハビエルが軟禁されているという場所を訪れたトビー。

そこで失火事故が起き、軟禁状態を解かれたハビエル。この前後の出来事をきっかけに警察から追われる羽目になったトビー。

我はドン・キホーテだと騎士道を熱く語り。そしてトビーをサンチョと呼んで。初めこそ嫌々ながら、二人の珍道中(逃避行)が始まった。

(…THE雑まとめ②。ですが…そもそもギリアム作品をまとめるなんて無茶な話ですよ!)

 

アダム・ドライバーって恰好良いな。」

彼の存在は勿論以前から知っていましたけれど。「顔のパーツが全てでっかい人」という認識で。どこかぬぼ~っとした印象が否めなかった。ですが。

昨年末に観た『マリッジ・ストーリー』。そこで「うわ。こんなに演技と歌が出来る人やったんか。」と再認識。

今作でも、歌って踊ってのシーンに「そういう事も出来るんやないか~。」と熱くなってしまった当方。(何様だ)

そしてあのスタイルの良さ。あか抜けた業界人スタイルも、旅を進めるにつれてボロボロになっていく姿も、そして終盤の中世コスプレも。流石にびしっと決まっている。

「眼福やなあ~。ただ、アダム・ドライバー目当てで観に来られたご婦人たちはギリアム節さく裂の今作をどう受け止めたのかは…聞くのも怖いけれども。」

 

ですが。かつてのギリアム作品を思うと、随分とマイルドで分かりやすい話だったんじゃないかと言うのが当方の感想。

全てを観た訳じゃないですが。だって…『Dr.パルナサスの鏡』のどこまでも続く悪夢的世界とか。
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「こんな美少女にあんな事やこんな事させて…人格形成上大丈夫なんか?」という…大好物の変態映画。 当方がギリアム作品で一番好きな『ローズ・イン・タイドランド』とか。
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これらに比べたら、日曜洋画劇場で流しても大丈夫な(あくまでも当方の判断)今作。

 

罪深き過去の作品に依って、人生の歯車が変わってしまった老人と少女。けれど…果たして変わったのはこの二人だけなのか。

こんなにも惹かれ、狂わされてしまう『ドン・キホーテ』の魅力とは何なのか。

 

富と権力を持つ者は、夢の世界に住み続ける者を愚かだと笑うけれど。この狂気は金では買えない。

 

「またねえ。ヒロインアンジェリカを演じたジョアナ・リベイロがめっちゃ可愛い。」

表情がくるくる変わる、スタイルの良さ。好き…。

 

ドン・キホーテが守るべき姫君。そのポジションに居るアンジェリカ。かつては村一番の美少女だった。けれど、トビーの撮影に関わった事で映画の世界の面白さに取りつかれてしまった。あの世界に居たい。けれど…彼女が置かれている現状は想像とは似ても似つかない、虚構の世界。

 

老人ハビエルと少女アンジェリカ。幾年もの時を経て、同じキャストが同じ役回りで冒険を始める。けれどそれは入れ子で。

彼らを撮っていたトビーもまたドン・キホーテのポジションに置かれていく。けれど。

 

入れ子はまだ続く。何故ならばこの作品を撮っているテリー・ギリアム監督もまたドン・キホーテだから。夢の世界に惚れ込んで、抜け出せない。狂ってなんぼ。覚めてなるものか。

これはとんだマトリョーシカ作品。…もし入れ子がリタイヤしたら?選手交代。それでもドン・キホーテの冒険は永遠に続く。

 

随分と綺麗に着地したので、寧ろ拍子抜けした位でしたが。30年もの間紆余曲折し続けた作品の構想が、監督の思ったところに収まったのであれば何より(そうであってくれ)。胸が熱い。

ところで。今回『ドン・キホーテ』を調べるにあたって、ふと「そういや似ているやつで…『ほら吹き男爵の冒険』って何やったっけ?(結果:ドイツ/ミュンヒハウゼン著の冒険物語)」と検索し、テリー・ギリアム監督作品『バロン』(1984年)に行きついた当方。「そうやったああああ~。」思わず大声。
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