ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「マリッジ・ストーリー」

「マリッジ・ストーリー」観ました。
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アダム・ドライバースカーレット・ヨハンソンが夫婦?それはまあ何と豪華な。」

 

劇団の主宰者で舞台演出家のチャーリーと女優のニコール。出会って恋に落ちて。公私を共にし、誰もが認めるベストカップル。結婚して息子を儲けて。家族三人、幸せな日々は続いていく…はずだったのに。

ふとしたボタンの掛け違いから、気持ちがかみ合わなくなってきて。気づけばもうやり直せない所まで来てしまった。

ある一組の夫婦の破局までを描いた作品。

 

「それこそ映画館以外で一つの画面に向き合う事がない。一人暮らしを始めて、もう随分自宅ではテレビを見ていないし、動画配信サービスも利用していない。けれど…Netflixってこんな良質な作品をやっているのか。」

 

冒頭。『相手の好きなところ』を互いに書いてきた手紙。

「ダンスが上手い。周りもつられる。」「父親である事を楽しんでいる。」「子供と全力で遊ぶ。」「贈り物のセンスが良い。」「おしゃれで一緒に居ても恥ずかしくない。」「私の怒りを受け止めてくれて、責めたりしない。」エトセトラ。エトセトラ。

チャーリーからニコールへ。ニコールからチャーリーへ。そこで描かれたのは、笑顔で溢れた魅力的なパートナー。一緒に居たら楽しい。お互いを尊重し、寄り添い高め合える。あれ?でもどうしてこんなラブラブな二人が別れる事に?

「ニコールの好きなところ」「チャーリーの好きなところ」二人が共通して挙げたところ。「負けず嫌いなところ」

 

「この手紙、読みたくない。」

場面が変わって。甘かった二人の関係は過去のものだと知る。カウンセラーからの課題で書いてきた手紙。一応は書いてきたけれど、読み上げる事を頑なに拒否したニコール。「どうして?いい手紙だ。」「いやよ。」「僕のほうだけでも読む。」「いや。」結局この場で手紙が読まれることは無かった。

 

チャーリーが主宰する劇団を離れるニコール。面倒見がよいチャーリーのお陰で劇団の雰囲気は良好。劇団員にとってチャーリーとニコールが別れることは「両親が離婚するくらいショックだぜ。」

LAで生まれ育ち。元々映画女優だったニコール。けれどチャーリーと付き合いだしてNYに移ってからは、ほぼチャーリーの劇団員だった。テレビドラマのオファーをきっかけに、劇団を辞めて息子のヘンリーを連れてLAに戻った。

円満離婚を目指していた二人。けれど。ニコールが仕事仲間から弁護士を紹介された事から、互いに弁護士を立てて離婚協議する事になってしまう。

 

「あのとき同じ花を見て 美しいと言った二人の 心と心が 今はもう通わない。」

 

登場人物達の言い回しや表情が…「ああ。今まで見たスカヨハの中で最高なんちゃうこれ。」「アダムド・ライバーってこんなに上手かったっけ?」

長回しの中。役者は同じ場所に留まらず、表情をころころ変えながら動き回る。

弁護士事務所で、チャーリーとの馴れ初めをうっとりと語るニコール。結婚して仕事も順風満帆。幸せなはずなのにふと感じた違和感。それを見過ごすことが出来なくて…その様を語ろうするけれど、喉が詰まって声が出ない。無理に話そうとすると涙が出そう。スカヨハ、圧巻の演技。

そして終盤、まさかのアダム・ドライバーの歌唱力!

 

ニコールの言い分。一言で言うと「チャーリーと居ると個が失われる。」

チャーリーは評価が上がっている。それは一体誰のおかげ?このままでは私は『チャーリーの劇団女優』でしかなくなる。しかもチャーリーは…。

チャーリーも、この恋に終わりが来た事を理解している。なので離婚する事自体には反対していない。ニコールにすがったりはしない。「大した財産は無いけれど、君に渡す。」大切なのは自分の劇団と、一人息子のヘンリー。

 

「互いに離婚する事は承知している。なのに何故あっさり離婚出来ないのか。それは息子のヘンリーを手放したくないから。」

財産?お金?そんなもの、要らない。ただ一つ、望むのはヘンリーとの生活。

 

チャーリーの劇団、夫婦の住居もNYにある。けれど今回ニコールの撮影スケジュールの期間、LAに母子で移住した。LAはニコールにとって古巣。

「なんでNYで弁護士を立てなかったんだ!LAで弁護士を立てられたらLAで弁護士を立てるしかないだろう!」

そういうもんなんですか。まあ、そういうアメリカ事情には疎いんでスルーしてしまいますが。

 

円満離婚を目指していた二人。一緒に居る事は苦痛だけれど、嫌いになった訳じゃない。かつては誰よりも大切な人だった。

なのに。弁護士を挟んだ途端、出来事は誇張、感情は湾曲される。重要視していない財産分与まで生々しく踏み込まれる。おかしい、何を言ってるの。これは本当に相手の思っていることなの。

 

このままでは相手を嫌いになってしまう。好きだと思っていたところも見えなくなってしまう。「ねえ。弁護士のいない所で話をしない?」

そこからはもう…壮大な夫婦喧嘩。

 

本当に思っている事が上手く言えない。自分も相手も感情が高ぶっているから、話を最後まで聞けなくてすぐに声を荒げてしまう。こんなはずじゃなかったのに。

相手を傷つけたい。この人に自分がどれだけ傷つけられたと思っているんだ。傷つく言葉。相手が傷つく言葉。でもそう思って口に出す言葉の刃は己も傷つける。そんな事思っていない。あの幸せだった日々を否定してしまう。違う。こんなの違う。

互いに負けず嫌い。かつては、一方的に爆発するニコールに最後まで付き合って…けれど責めなかったチャーリーが爆発した時。チャーリーは膝から崩れ落ちるしかなかった。

 

「かつて愛し合った二人が別れる。」

そのことで新しい世界が開けたニコールと、心の傷が癒えないチャーリー。

けれど。そこで見つけた、ニコールが頑なに読もうとしなかった手紙。当方の目に涙。

 

Netflix映画のクオリティよ!」驚きが隠せなかった良作。でもこれは…映画館贔屓の当方からしたらスクリーンで観たい。小さな画面じゃ勿体ない。

 

一年を締めくくる作品が、ずんと心に響く夫婦のヒストリー。なのに。

 

『マリッジ・ストーリー』、Netflixの作品ジャンルはコメディドラマ。秀逸。