ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「カツベン!」

「カツベン!」観ました。
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かつて映画には『無声映画(=サイレント)』という時代があった。

しかし日本では無声映画という時代はなかった。

なぜなら『活動弁士』という存在があったから。(言い回しうろ覚え)

 

活動弁士(通称カツベン)。

約100年前。活動映画と呼ばれた時代。スクリーンの動きにを見ながら楽士は音楽を奏で。それらに合わせて弁士が語りや説明を行う事で、観客を映画の世界に誘っていた。

個性豊かな弁士の語りに観客達は魅了され。下手をすると出演俳優よりよほど人気があった。

 

これは、幼い頃活動写真小屋で観た活動弁士に憧れ。弁士になると夢見た少年が大人になって、映画の世界に飛び込んですったもんだする話。

 

Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』など。有名作品を幾つも生み出した周防正行監督の。5年ぶりの新作。

 

「最近は割と落ち着いた作品を作っているような印象があった。そう思うと…『シコふんじゃった』(1992年)を彷彿とさせる軽快さ。」(あくまでも個人の感想です。)

 

沢山は知りませんが。海外の『サイレント映画にまつわる話』は大抵「これからは発声映画(トーキー)だ。」に追いやられていく様を描いていて。かつてのサイレント映画スターの悲哀、みたいな印象があったのですが。

「これからは俺たちみたいな存在は要らなくなる。」

確かに作中そんなセリフもあるにはあったけれど…そういう湿っぽい要素はかする程度。

 

「かつて映画に…カツベンに憧れた少年が大人になって。流れ着いた活動写真小屋。雑用係として働き出し…遂にカツベンとして日の目を見た!」「けれどそこに行き着くまでに泥棒稼業の片棒を担いでいた過去があった事から、きな臭い奴らに追いかけ回される。」「活動小屋の一癖も二癖もある面々。館主夫婦。映写技師。楽士達。そして個性が強く、互いに馴染もうとはしない弁士達。そこで再会した、かつて憧れていた有名弁士。その成れの果て。」「幼い時分に活動小屋で一緒に活動映画を見た少女との再会。」

こういった要素を、あくまでもコミカルに。「笑いあり!涙あり!」のドタバタ劇に仕上げた。

 

主人公の染谷俊太郎を演じた成田凌

どこか愛嬌もある男前なビジュアル故に、これまで所謂スケコマシなキャラクターが多かったように思う彼。

クラスではイケてるグループ。おしゃれで、常に彼女が居て、彼に恋する女子も数多。誰にでもフランク…かと思えば時々濡れた子犬の目で女子達を翻弄する。まあ総じて言えば薄っぺらい。

そんなチャラチャラした役が多かった(あくまでも個人の印象です。)彼が、殻を破った感があった、がむしゃらでどんくさい俊太郎像。

 

子供の頃。活動弁士に憧れて、見様見真似で練習した。その甲斐あって大人になった今、弁士らしい事が出来る様になったけれど…所詮は偽物。

巡業して、先々で活動映画を流す。けれどそれは泥棒達の作業をめくらます為の時間稼ぎ。

そんな生活はもう嫌だと逃げ出して、流れ着いた『青木館』。

 

(これ…同じような事を繰り返して書いているな…そう気づいたので。サクサク行こうと思いますが。)

 

どんくさくて、けれど真面目な、初心で一生懸命な主人公を取り囲む曲者達。この構図で相手が手練俳優達…加えて演出するのはベテラン監督。となればもう安心安定の寸劇の積み重ね。「こうなるんやろうな〜。」「ここで誰々の登場ですよ!」「はいこれ来た!」『かつての初恋相手との再会』という淡いラブストーリーも、概ね脳内で組み立てたパズル通りに物事は進んで行く。

 

鑑賞後振り返って思う事。「まさにあの映画小屋で観ている観客達と同じ顔をしていたなあ〜。」

分かりやすいドタバタ劇。「笑いあり!涙あり!」(…涙?)。確かに終始ニヤニヤとし、心の中で突っ込んでいた。

元々のサイレント映画作品に、過剰なまでの彩りを添えて観客の感情を揺さぶっていた活動弁士

映画そのものに発声が付いている今。弁士は付いていないけれど、観客は同じく笑い、泣いている。

 

「どんなにつまらない作品でも、俺が映画を面白くしているんだ。」脂が乗っているスター弁士茂木(高良健吾)と、「俺たちはもういらなくなる。」と悟っている、かつての有名弁士山岡(永瀬正敏)。

同じ小屋に務める同僚弁士二人の明暗。けれど結局、行き着く先は…同じ場所。

…ここを掘り下げたら締まりに締まった作品になったと思いますが。「あくまでもこれはコメディなんで!」と舵を切ってしまった。

 

終盤。青木館絶体絶命のピンチ…からの俊太郎一世一代の活動弁士作品。そのオリジナリティと技術に「ほおお〜。」とは思ったけれど。『ニュー・シネマ・パラダイス』を連想せざるを得なかった当方。あれは…至高なシーンなんで…似たやつ来てしまうと…ちょっと…。

後一つ。どさくに紛れてさらっと。最後のチェイスシーン、要りませんって。

 

予告編が楽しそうで。実際に本編を観てみたら確かに上手いしテンポも良い。けれど本当に予告編通り過ぎた。「笑いあり。涙あり。」

 

「ここからなんよな。青木館が。そして全国の活動映画小屋がどういう道を辿って行ったのか。先を見据えていた山岡と。見えていなかった弁士達はどうなったのか。」

 

それ、知りたかったなあ〜。そう思うと、作品は楽しかったのにちょっと切ない。

 

そして。今回コメディに振ってきた周防監督は、次回何を撮るのだろうと。

次回作に期待です(何様だ)。