ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「タロウのバカ」

「タロウのバカ」観ました。
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大森立嗣監督作品。メインキャストはYOSHI、菅田将暉、太賀の三人。

 

高速道路沿い。大きな川が流れる町。

そのだだっ広い河川敷を。笑いながら、そして時には叫びながら駆け抜けた少年たち。

 

若さとは果たして自由なのか、不自由なのか。

持て余す、入り乱れた情緒。この気持ちはどうしたらいい?何故泣きそうで胸が苦しくなる?切なくなる?どうして何も手に入らない?どうして何もかもが終わりみたいな気持ちになる?どこなら引き返せた?どこで間違えた?…間違えた?

絶望と希望…今はどちらだ。

イライラする。自分がもうすぐ爆発しそうで、堪らなくて焦れている…ぶつけたい。溢れだしてくる衝動を誰かにぶつけたい。でも誰でもいい訳じゃない。ぶつけていい奴は誰だ。

 

「すきってなに?しぬってなに?」

 

少年、タロウ(YOSHI)。おそらく14歳位。

母親と団地で二人暮らしだけれど、育児放棄した母親はタロウに戸籍を与えず。タロウは

生まれてこのかた、学校に通った事が無い。

 

本当は本名がある。けれど今つるんでいる高校生のエージ(菅田将暉)とスギオ(太賀)に初めて会って名前を聞かれた時、「名前が無い」と答えたから二人にタロウと名付けられた。だからタロウ。

 

金髪でチャラチャラした格好のエージは、元々は柔道のスポーツ推薦枠で高校に入学した。けれど怪我をして以来、どこにも居場所が無い。

エージの親友、一見真面目な見た目のスギオは同級生に片思い。でも彼女は親父達と援助交際をしている。

それぞれ抱えるやるせない悩み。それを消化する事なんて出来なくて。爆発寸前。

 

そんな三人が交差し、絡みつく事で。

このどうしようもない世界で。出会ってもがいて。あっという間に完成し、刹那に散っていくまで。そんな駆け抜けた少年達を描いた作品。

 

「えらい尖った作風やなあ。何か…1990~2000年代初頭の、若い監督のデビュー作品みたいな。」

 

もて余した思春期。上手くいかない現状に苛立ち、他人に牙を剥いて傷つけ。

けれど大切な仲間はとことん守る。俺たちは一人だと不完全な形だけれど、一緒にいたら一つになれる。

このちっぽけで下らない世界で俺たちは出会った。俺たちが世界の全てだ。

 

「青臭せえええ~。」

超強力消臭元を配備してファブリーズを全量吹き付けてやりたい。何この『俺たちブロマンス』。踏み潰したい。

 

「あかんあかん。その世界観に共感し擁護するには当方は歳を取りすぎた。」

「もうそちら側に当方は居ない。」

 

やりたい事も言いたい事も何となく分かるけれど。足掻いている衝動を赤の他人にぶつける彼らの姿には「犯罪やぞ。」としか思わない。

「あんたがたが傷つくのは勝手やけれど、人様に暴力をふるうのは違うわな。」「傷つけられるのが怖いから先に暴れる。弱い。」「子供だな。」

 

ただでさえ混沌としそうな世界観なのに。加えて「やりたいエピソード詰め込みました!」と感じてしまう…荒削りでとっちらかった印象。

 

『警察や民生員。行政介入が存在しない世界』。

生まれてこのかた戸籍も無く。けれど家に閉じ込められるでも無く、寧ろ昼間外を彷徨いている少年。こんなの即補導されているよ。そもそもこの親子は団地でどうやって生活しているんだ。

親父狩り。レイプ未遂。放火。チンピラとやりあっているのも含め、防犯カメラや目撃者から即通報案件。

ダウン症カップルのシーンを敢えて挟み続けた事に…言い方が悪いですがあざとさを感じたり。

 

まあ概ねモヤモヤとしたまま観続けていたのですが。

 

「それにしてもやっぱり菅田将暉と太賀は凄い。」

新人俳優YOSHIを固めたこの二人の布陣。流石としか言いようが無い。

混沌としていてこんなの無茶苦茶だと思っても。エージとスギオに血が通いすぎていて、目が離せなかった。この二人が居たからこそ。

 

観ている間は、細々とした事が気になってモヤモヤして苛立っていましたが。

こうして少し時が経って作品振り返ってみたら…例の問いかけを思い出す事が出来た当方。

 

「すきってなに?しぬってなに?」

 

エージとスギオの生き方を見たタロウはどう感じたのか?

語彙力を持たないタロウ。あのラストシーンにやるせなくて何度もため息をついてしまいましたが。

 

「まだ決めなくていいから。とりあえずお前は生きろ。今までいた世界の先を生きろ。」

 

やっと、壊れたおもちゃ箱から飛び出してきたタロウ。

彼らの言う下らない世界に住む当方から、タロウに声を掛けてやれるのはそれだけです。