ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ホット・サマー・ナイツ」

「ホット・サマー・ナイツ」観ました。
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「1991年の夏。僕は一生忘れられない夏を過ごした。」

 

君の名前で僕を呼んで』『ビューティフル・ボーイ』など。数々の話題作に引っ張りだこのイケメン俳優、ティモシー・シャラメ主演。

 

1991年。愛する父親を亡くし立ち直れないダニエル(ティモシー・シャラメ)。ふさぎ込み家から出ようとしない息子を案じた母親は、夏休みの間マサチューセッツ州に住む叔母の家にダニエルを送り出す。

美しい海辺の町。夏休みの間そこに居るのは、バカンスを楽しみに来るよそ者か地元で暮らす者か。どちらにも馴染めずにいたダニエルだったが…。

ある日。偶然知り合った地元の危ない奴、ハンター・ストロベリー(アレックス・ロー)。真偽のほどは分からないけれど、数々の武勇伝を持つハンター。マリファナ売人。

そして魅力的な美女、マッケイラ(マイカ・モンロー)との出会い。

危ない仲間との友情。そして初めての恋。何もかもが輝いていて。加速していく感情に震えた…爆発的な夏。

 

1991年夏にマサチューセッツ州ケープゴードを襲った巨大ハリケーン。そして同じころ起きた地元の若き売人の物語をベースにした…らしい作品。

 

「しっかしまあ。ティモシー・シャラメ安定のフワフワ系男子。」

非モテ。なよなよとした線の細い男子が。ひと夏の間めくるめく出来事浮かれて、調子に乗って羽目を外して。気づけばとんでもない地雷を踏んで怖い人たちにとっちめられる。

 

実も蓋もない言い方をするとそういうお話なんですが。

 

主人公ダニエル…父親の死でふさぎ込んでいたんじゃなかったっけ?確かに始めはそんな描写もありましたが。海辺の町に行ったら結構すぐに忘れちゃって。目の前に面白そうな事があったらすっかり意識の外。あらあら。

慣れない田舎町でおどおどしていたのもつかの間。ふとしたきっかけで札付きのワルことハンターとつるみだしたら一気に調子に乗ってしまう。

 

ハンター・ストロベリーという青年。

「田舎にはこういう奴が居るよな…。」

どこまで本当かよくわからない逸話を纏ったワルい有名人。

曰くつきのあの女とヤッタんだぜ系からあいつは人を殺したことがあるんだぜ系まで。(こういうのは…結局真実は何処にもないのがお約束。)

車の修理屋を営みながら旅行客相手ににマリファナを販売。細々と営んでいた売人稼業を一気に爆発させたのはダニエル。

 

ハンターと知り合って、自身も多少はマリファナを嗜んだけれど。それより売人としてさばく方が面白い。売れれば売れるだけ金になる。もっと太いところから仕入れようぜ。そうしたらもっと稼げる。そのあぶく銭は勢いよく使ってしまえ。

(あの。写真カットで見せていた、バブリーなダニエル。スポーツカーを買って。酒にまみれてはしゃいで。ゲロんゲロんになってのたうちまわって…絵にかいたような成金バカで、お調子者で…楽しそうだった。)

 

…そりゃあ調子に乗ってたら自爆しますわ。

 

男友達ハンターとは羽目を外してふざけるけれど。女の子相手には奥手なダニエル。

 

ドライブインシアターで運命的に出会った少女、マッケイラ。彼女に一目ぼれ。

地元でも有名な高嶺の花(はっきり言ってビッチ)。イケイケ。いつだって誰かが彼女を狙っている。そして自分がいい女(繰り返しますがはっきり言ってビッチ)だと自負しているマッケイラ。

初めは相手にされていなかったけれど。次第に近づいていく二人の距離感。

そこでダニエルはマッケイラの兄がハンターである事を知ってしまう。

 

はい。もうこれ以上のネタバレは封印して感想文を進行していこうと思いますが。

 

1990年代初頭。まだ経済が上向きだった頃の浮かれた雰囲気。若者は若者らしく、露出した格好をし刹那に遊んでいた。そういう懐かしさか…って当方はその時代ではないのでピンとこず。語れないのですが。

 

「正直、ダニエルそのものには感情移入できなかったけれど。当方は、このハンター&マッケイラ兄妹の虚構とその実…ってやつに悶えたかなあ。」

 

札付きのワル。実際マリファナの売人なんかもしてはいるけれど。調子に乗ってデカい事しようぜなんて言ってくるのはダニエルで。このまま慎ましやか?に売人をして、いつの日にかフェードアウトしたかった。一見悪ぶっているけれど、現在コミュニケーションが上手く取れなくなった妹の事が気になって仕方がない。「妹に地近づく奴は殺す。」(結局こういう奴はずっとその町に居続けるんですよ。そして町の事なら何でも知っている年寄りになる。)

 

そしてビッチな噂が事欠かないのに。実は純情なマッケイラ。

 

「居たなあ~。中学生なのに売春しようとして補導されたとかいう噂があった孤高先輩とか。高校の時、大学生の先輩と付き合ってセックスしまくってるとか噂されていた同じクラスの女子。(好きで付き合っていたのなら何が問題だったんだろうな、高校生諸君。セーフティーな案件?未成年ったって、大した年の差じゃないし。)」

早熟な雰囲気故に何だか不名誉な噂を流される系の女子。なまじ見た目がイケイケな分、噂はますます進行して。結局同年代男子は誰も手を出せなくなってしまう。

 

見た目と虚実にコーティングされた純情兄妹が。よそから来た薄っぺらいダニエルに巻き込まれ破滅してしまう。はっきり言って、これはダニエル目線じゃなくてあの兄妹目線で観るべき作品なんですよ。巨大ハリケーンはこいつ。中身のないダニエル。

一緒に熱くなって。爆発的に高まって。そしてはじけ飛ぶ。ひと夏の体験。苦い。

 

「おいダニエル。お前は鉄拳制裁を受けろ。」

出来る限りの低い声で唸る当方。何フワフワしちゃってんだ。「1991年の夏。僕は一生忘れられない夏を過ごした。」思い出にしてるんじゃねえ。

 

よそから来たあんたにとっては、ひと夏の甘くて苦いマーマレードなのかもしれないけれど。あんたが本能と無意識でしでかした青春で人生が変わってしまった兄妹がいたんだよ。

 

ダニエル目線で観ると正直締まらないのですが。あの兄妹…ひいては港町を引っ掻き回したハリケーン=ダニエルという視点にひっくり返して観るとそれなりに面白くなってくる。そういう作品。

 

「ただ。ハリケーンって持続しないからな。温帯低気圧になって消滅する。」「ハリケーンは次々生まれるけれど。消滅したものが再び生まれる事はあり得ない。」

嵐を巻き起こし、そして駆け抜けたダニエルに思う事。

爆発的なひと夏の思い出。おそらくダニエルの人生でピークだった瞬間。

 

それしか残らないのは、果たして幸せなのか。それとも。