ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「三人の夫」

「三人の夫」観ました。

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香港の巨匠、フルーツ・チャン監督作品。

『ドリアン・ドリアン』『ハリウッド★ホンコン』に次ぐ「娼婦三部作」の最終章。

香港に伝わる人魚伝説を背景に。とある漁港の停泊船で客を取る女と夫たちの生活を『海』『陸』『空』のパートに分けて描いた作品。

 

「私は、求められ続け 求め続けるー」

 

底なしの性欲を持つロイ(クロエ・マーヤン)。漁港で停泊する船で、数多の男達と金を取りまぐわう日々。しかしその斡旋をしているのは、歳老いた漁師。ロイの夫。

ロイに魅せられ、夢中になった青年=眼鏡(チャン・チャームマン)は多額の持参金をかき集めて漁師を説得。その頃にはロイにはもう一人、父であり夫である年寄りが存在していると分かったけれど。無事ロイと結婚する事に成功。

「もう船には戻らない。」ロイは自分だけのもの。陸に上がり、始まった新婚生活。

けれど。眼鏡一人ではロイを満たすことは出来ず…結局二人で船に戻る決心をする。

ロイと三人の夫。一人の女を中心とする、奇妙で歪な生活。彼らの行きつく先とは。

 

当方の映画感想文に於いて、男女の気持ちを代弁すると二人言えば。

当方の心に住む男女キャラクター『昭と和(あきらとかず)』の二人に語って頂きたいと…。

 

昭:早い早い。前回の登場から殆どブランク空いていませんけれど?

和:エロと言えば昭さんやからじゃないですかあ~。

昭:不本意過ぎる。大体エロっぽい内容で俺たちが召喚されている時って、いつだって俺は『智のステージ』で紳士的に進めようとしているのにお前がおかしな方向に誘導するんやろうが!

和:はいはい笑止笑止。とっとと話進めましょうや。

昭:腹立つう~。

 

和:まあ。売春船…つまりは『廓船』が舞台で。そこに住む性欲モンスターロイと。彼女に魅せられ、そして制御出来ずに共に溺れていく三人の男たち。というお話で。

昭:廓船ねえ。『泥の河』では美しい加賀まりこやったけれど。ロイはもう…。

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 和:エロかった?

昭:エロっていうか…なんかリアルやなあと思った。いかにも自堕落で。ロイ役のクロエ・マーヤンって今回18キロ体重を増やして撮影に挑んだ。ってあったけれど。本当に…。途中何度か水槽で泳ぐ~リュウキン?っていうやつ?あの赤くてずんぐりした、丸っこくてヒレがひらひらした金魚そっくりやと思ったな。

和:ああいう肉感的な女性って男受けするんじゃないの?

昭:男受けって…俺とお前は結局同じ人間の心から派生しているからなあ。俺自身はああいう柔らかくて、触ったらどこまでも沈みそうな体より、多少弾力性がある方が好きなの。

和:それは確かに。ただ、ああいう兎に角白くて柔らかな女性って…餅っぽいというか。魅力的よな。でもロイはただ男達を受け入れるだけじゃない。ガンガンに満ち溢れる性欲で男達の欲望を満たしてくれる。精力絶倫。感度良好。

 

昭:エロ云々では埒があかないので。『東晋時代から伝わる半人半魚(人魚)伝説』について…平たく言うと中国の人魚伝説についてを調べようとしたんやけれど。

和:無理やった。そもそも巨大海洋生物恐怖症にとって、得体の知れないそこそこ大きな魚を調べる事自体がもう鳥肌振戦モノ。迂闊に画像なんか見てしまったら…絶対夢に出てくる。

昭:なので。『一見人間っぽい見た目をしている魚。常に濡れていないと生きておれず、陸に上がると乾いて死ぬ生物』として認識。

和:まあ。そういう認識にロイを当て嵌めたら、結構ぴったり嵌ったんよな。彼女は汚れた海に漂う美しい魚。…でも結局は人魚ってモンスターやん。ぬらぬらと泳ぐその美しさに男たちは吸い寄せられるけれど…獰猛な本能、己の欲望を満たすべく近づいた男たちに食らい付いていく。一度ロイに魅せられたが最後離れられないし離せない。ロイを独り占めしようと陸に連れて行ってみても。結局彼女は陸では暮らせない。また海に戻るロイと眼鏡。

 

昭:ロイが殆どコミュニケーションを取れない、というのも人魚っぽいと思ったな。あれは…アンデルセンやけれど。人魚姫は足を手に入れる代わりに声を失う。人間の形を手に入れているロイも、殆ど言葉を話せない。

和:そんな幻想的には受け止めきれないな。

昭:おっと。

 

和:少し前に公開された『岬の兄妹』。今回観ていてあれが凄く脳内を過ったんよな。『身体傷害のある兄が、発達障害のある妹に売春をさせる』物語。

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 昭:おお…。

和:ロイを幻想的なキャラクターに落とし込むなんて。手放しにファンタジーに振り切れない。だって…ロイの異常な性欲って病気やって作中で診断されてたやん。加えてあの精神の不安定さ。理性がコントロール出来なくて爆発する感じ。何て言うか…普通じゃない。でも夫たちは病気なら治療するという思考にはならない。そもそも三人も居て、誰も生活の基盤を築けない。揃いも揃ってロイのヒモ。彼らを食べさせているのはロイ。恥ずかしくないの?

昭:うわ正論。でも夫たちはそんなロイに翻弄されたいんやもんなあ~。マトモになんてなって欲しくない。何だかんだエロの恩恵にもあやかりたいし。

和:アホかっちゅうねん!あいつら三人も居って何してんの!「性欲が爆発した発作の時はアレを入れようぜ!」って。そういう所やぞ。何しとんねん!

昭:怒るなよ~。だって俺たちそんなロイが好きなんやもん。同じ穴のムジナやもん。

和:そういう愚かさがあの廓船の連中のどうしようもない所やねん!貧しさや生きていく為に実の妹を売った『岬の兄妹』のやりきれない胸の悪さとは違う!

昭:まあまあまあ。…一応補足しますが。この下り、両者を比較する事でどちらかの作品を貶めるといった意図はありませんよ。悪しからず。

 

和:性欲モンスターの人魚と、彼女に魅せられてしまった三人の夫。けれど結局どこにも彼らの安住の地は見出せなくて。広い広い海を漂うばかり。

昭:物語の初め。淡く色づいていた画面も。終いには色を失う。その中で。ロイが纏う赤い服とその出で立ちが正に金魚。ひらひらした…人魚。

和:これは泥船やと思うけれど。いつかは海に沈むよ。

 

幻想的な作風でありながら、風刺的なメタファーを感じる。けれど。決してはっきりこうだとは語られない。下手したらただただ猥雑な作品だとも取られかねない。(当方的にはエロくはなくて…そこには気が取られなかった。)恐らくどうにでも解釈の幅は広がるけれど、それは観ている側でどうぞ。こちらから正回答は出しません。そんな印象を受けた作品。巨匠の余裕か。

 

ただ。巨大海洋生物恐怖症の当方としては。どんなに破滅まっしぐらの魅力的な世界が待っていようとも。まず海に近づく事も…ましてや船の上で交わる事など不可能。それだけは確か。

 

大きな魚は怖い。ロイもしかり。ただただ不気味で、魅せられて堕ちていく夫たちは滑稽で憐れ。人魚は怖い。

 

「これは泥船やと思うけれど。いつかは海に沈むよ。」