ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「アメリカン・アニマルズ」

アメリカン・アニマルズ」観ました。
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2004年。アメリカのケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で実際に起きた窃盗事件。狙われたのは時価1200万ドル(約12億円)を超える画集『アメリカの鳥//著:ジョン・ジェームズ・オーデュボン』。犯人は同大学に通う大学生4人。

特に変わった所のない。所謂『普通の大学生』の彼らが一体何故そのような犯罪を犯したのか。

 

「おお。これ本人達が出ているのか。」

「これは『真実に基づく話』では無い。『真実』である(言い回しうろ覚え)。」

冒頭のテロップからも。これは映画用に作られた話ではなく実際に起きた事件で。しかも犯人の4人が皆登場して当時の事を語るというドキュメンタリーと、役者達が演じるドラマの2パートから成る。

得てしてそういう作りの作品は『世界のこんな珍事件ありました!』的な再現VTRみたくなってしまいそうだけれど(当方が想像しているのは、夜19時~21時台位のテレビバラエティー番組)…けれどこの作品は圧倒的なハイセンスでコーティングされていたので観た後何だかフワフワしてしまう。

スタイリッシュな何かを観た様な気がする。4人の見たもの、語る事が微妙に違っていて、一体誰の視点で何を主軸として観るべきなのか分からなくなってくる。そんな藪の中案件。

遠足の前日までがワクワクする気持ちのピークで。実際の旅も楽しいけれどあっという間に終わってしまう。ある意味そんな彼らの決行までの日々とグダグダに終わった実際。

観たものの情報量が結構あって。すんなり整理整頓が出来なくて、脳が浮いてしまう。

「けれど。」自身に言い聞かせる当方。「これだけは間違いない。彼らは大学図書館から高価な本を盗み、代償として20代を刑務所で過ごした。どういう言葉を並べようが、彼らは狡猾で間抜けな犯罪者だ。決してヒーローではない。」

 

「どうして彼らはこのような犯罪に走ったのか。」結局これ、といった一つの結論には導かれない。彼らは特別に貧しい訳でも、社会に訴える信念があった訳でもない。言うなれば『たまたま高価な本の存在を知った。』『仲の良い友人に話したら「それ、いただいちゃう?」と盛り上がった。』『勢いで仲間を集めたらますます盛り上がった。』『そして実行した。』という、ノリの四段活用。完全に勢い。

 

しかもメンバーの組み合わせが絶妙に良い。周囲から絵のセンスを認められていて、アーティストになりたい主人公のスペンサー。お調子者で盛り上げ上手、仲間をグイグイ引っ張ていくウォーレン。経理学を専攻していて将来はFBIでキャリアを積みたいエリック。学生でありながら起業家のお金持ちチャールズ。

「金目当てじゃなかった。」「皆をあっと言わせるようなでかい事をしたい。有名になりたかった。」「退屈な日常から抜け出したかった。」「金が要った。」各々バラバラな犯行動機を語るけれど。

 

「いやいやいや。それもまあ…深層心理としてあるんやろうけれども。『皆で計画を立てている時の盛り上がりが楽しかったから。』やろう?」

 

スパイ映画。犯罪映画。フィクションの娯楽作品をお手本にして作戦会議。互いをカラーで呼び合い。変装を考え。手順を練った。そのワクワク感。

 

「でも。実行して初めて知った。これは遊びではなかった。本を奪う為には誰かを傷つけなければいけない。机上の空論では思い付かなかったハプニングの連続。全然上手くいかない。」

ドキュメンタリー・パートの彼らが一応に表情を曇らせ、言葉を詰まらせたお粗末な決行のシーン。ドタバタ。これが現実よなあ…と当方も何度も溜息。

 

仲間内でやっている馬鹿なこと。いつも最高に盛り上がって。だから皆にも教えたくてそのふざけた姿を動画に撮ってインターネットにあげる。けれどその『ふざけた』ははたから見ると『悪ふざけ』でしかない。全然面白くない。寧ろ不快。

倫理観が皆無のその動画はあっという間に世界中に拡散され。結局数多からのバッシング。そして仲間ごと一掃、社会生活を奪われる。そんな若者が後を絶たない現在。

「そういうノリの最たるもの、なのかなあ。」そう感じた当方。

 

面白い事は仲間内でひっそりやっておいてくれ。内輪受けを見せつけられるほどつまんないものは無いんやから、あんた達の中で納めておいてくれ。そしてひとしきり遊んだ後、これは常識ではおかしい事ではないのかという振り返りをして欲しい。そして間違っても仲間以外の人間を巻き込まないでくれよな。そういうのは大抵暴力やから。傷付くから。

世界に爪痕を残すのも、ビックになるのも真っ当な方法を選択してくれ。実際そういう人はちゃんと努力をしているやろう。チンケな犯罪なんて失笑しか出ない。

 

この作品は、起承までハイセンスのコーディネートでサクサク進むけれど。転結のスピード感。仲間内の盛り上がりが実際に決行された時のグダグダ。混乱。そして転がり落ちていく様が痛々しい。

結局20代を棒に振っているし。

 

この作品は彼らをヒーローにしたりしない。というより、何者とも定義をしない。解釈をしない。あくまでも纏まりのない『真実』を羅列して提示しているだけ。そこから何を感じるのかは観た者次第。

そこで重みを持つのが被害者の図書館司書、ベティの言葉。…本当にねえ。あいつら何やってんだか。

 

ところで最後に。本を盗むに当たって、彼らから暴行を受けたベティ。何から何まで気の毒でしたけれど。あのバカがベティの眼鏡を踏んで壊した時。「あ。」と思わず声に出てしまった当方。眼鏡人からしたら万死に値する、そんな怒りが沸いた瞬間でした。