映画部活動報告「芳華-Youth-」
「芳華-Youth-」観ました。
1970年代後半。毛沢東死去。文化大革命の終焉。ベトナムとの中越戦争。揺れに揺れていた中国。
軍隊所属の歌劇団。歌や踊りで軍を慰問、時には叱咤激励する役割を担っていた文芸工作団(=文工団)。
美しく、若い団員たち。己の使命を認識し、ベストパフォーマンスを披露する為努力する日々。しかし。激動の変化を遂げていく時代に、彼らもまた翻弄され、変化を強いられていく。
かつて文工団に所属していたゲリン・ヤン原作を基に映画化した、フォン・シャオガン監督作品。
「激動の時代に翻弄された若者たち。しかしどんな時代であれ。そこには瑞々しい青春があった。」
そんなありがちキャッチフレーズが脳内を駆け巡った当方。確かに。確かにこの作品をそう括ってしまう事は出来る。出来るけれど…それだけでは薄っぺらい。
「というのも。決して文工団の若き男女のキャッキャした青春がどうこう、というだけの話では無かったからだ。」
1976年。ダンスの才能を認められて文工団に入団してきたシャオピン、17歳。けれど結局最後まで文工団に馴染めなかった彼女と。品行方正で団員の誰からも愛された人気者、リウ・フォン。
彼らが出会い、共に過ごした日々。思いもよらなかった別れ。再会。この二人に流れた何十年もの歳月を軸に。
美しく、瑞々しい。けれど時にはひどく利己的で打算的。ーそして儚かった。そんな若者たちの。翻弄されながらも己の生き方を選んでいく姿を描いた作品。
「あくまでもシャオピンとリウ・フォンが主人公だけれども。視点はそこだけにはとどまらない。文工団に所属する男女青春の日々と。彼らの交差しまくった恋愛模様。」
狂言回しがルームメイトのスイツ。ダンサーだけれど、上層部から「お前は味のある文章を書くな。」と認められ。途中、ダンサーとは別に色んな部隊を取材し、軍の機関誌に記事を書く任務を命じられた。
恐らく、その時に文章を書く力が伸ばされ…彼女は時を経て文筆業となった。
そんなスイツの回顧録。そういう様相で展開していたストーリー。
「ゲリン・ヤンの原作未読なんで…どこまでその要素が組み込まれたのかは分からないけれど。まあ…何て言うか…一言で言うと…団員、意地悪ですよね(小声)。」
軍お抱えの劇団。皆美目麗しいけれど。仲間意識の強さ故なのか、新入りのシャオピンに対し排他的。彼女の体の特徴をあげつらってとことんいじめる(本当、こういうの最低)。
「シャオピンはダンスの才能を認められて入団…って言うけれどさあ。突出した感じとか、全然分からんかったんよな(小声)。」
天才的なシャオピンに嫉妬して、とかそういう仲間外れじゃない。ただの集団いじめ。程度が低い。けれど。
決して皆と一緒にシャオピンをいじめたりしなかった唯一の人間、リウ・フォン。
一緒にダンスの練習に付き合ってくれた。笑顔で接してくれた。
彼は一人ぼっちだったシャオピンの心を支えてくれた。
ここで時代が一つ動く。毛沢東死去。文化大革命は終焉を迎えた。
軍を決起させる。どちらかと言えば雄々しい作品を演じる事が多かった団員たちが初めて聞いた新しい音楽。「こういう歌があるのか。」「これは自分の心にある想いだ。」
秘めていた気持ちが決壊してしまった結果。文工団を退団せざるをえなくなったリウ・フォン。そして時代はベトナムとの中越戦争に突入していく。1979年。
「そうか。ここで戦争が。」
軍歌劇団。文工団本来の任務を遂行していく中で。疲弊し、脱落していくシャオピン。文工団を離れた彼女が見たものとは。そして戦地でリウ・フォンに待ち受けていた運命とは。
時系列に沿ってだらだらネタバレするのも…まとまりが付かなくなりますので。ここいらで風呂敷を畳んでいきますが。
「軍隊のお飾り。美しい歌劇団。期待に胸を膨らませて入ったけれど。全然綺麗ではない。そんな閉塞したコミュニティから。一人はふとしたことから転がり落ちた。一人は疲弊しひっそりと離脱した。そんな二人が現場でみた『激動の時代』。」
「けれど。歌劇団のメンバーも愚かな世間知らずだったわけではない。薄々感じていた、危うい自分たちの立ち位置。これからどう生きていくのかを早急に選択させられる。自分たちがやってきた事からの即事撤退。夢はもう終わり。」
元々音楽やダンスが好きで集まった集団。例え人間関係は閉塞的であっても、共に練習し、軍の同士にパフォーマンスする。それはやりがいのある、かけがえのない日々だった。
そこで先述した脳内フレーズ。「激動の時代に翻弄された若者たち。しかしどんな時代であれ。そこには瑞々しい青春があった。」
この作品の映像。光。水。空気。
練習風景。皆でプールではしゃいだ。夜こっそり音楽を聴いた。想いを寄せる相手からもらったトマト。団員たちの交差する恋愛感情。片思いの輪。誰もが振り向いてくれない相手に恋をして。皆でグルグル回っている。
どんなに団員たちが意地悪だ、そう思っても。文工団の彼らのきらびやかな日々が眩しくて。
それらと対になるのが恐らく…戦地での爆撃。野戦病院。
現実が余りにも悲惨で。けれど立ち止まっている暇など無い。悪夢などと言うのは容易い。夢ならば覚める。
正直、135分はあっという間には過ぎなかった。本当に回顧録過ぎて。怒涛ではあるけれどだらだらと語られる雰囲気か否めなかったし、とっ散らかっている。繋がりが雑だなと思う所もあった。けれど。
「何なんだ。この映像は。目がくらんで仕方ない。」(また、彼らの圧巻のパフォーマンスよ。)
激動の時代を生きた彼らが。各々然るべき場所に収まり。
そして歳を重ねたシャオピンとリウ・フォンの顛末。
それならよかった。それでよかった。何だかとんでもないものを観せられた事で頭がぼんやりしながらも、穏やな気持ちで席を離れた当方。