ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「希望の灯り」

希望の灯り」観ました。
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「1989年。ベルリンの壁崩壊。」「1990年。ドイツ東西統一。」

ドイツの歴史が変わる。それをお茶の間でぼんやりと見ていた記憶。と言っても子供だった当方がその意味を知ったのは随分後だったけれど。

 

旧東ドイツアウトバーン沿いライプツィヒ近郊にある巨大スーパー。

夜間帯勤務で就職したクリスティアン、27歳。『飲料担当』へ配属。

口下手故無口。けれどユニフォームの長袖の下にはしっかりタトゥー。

何だか訳ありな人妻マリオン。配属先の上司、ブルーノ。その他ひと癖もふた癖もある同僚達。クリスティアンの視点を通して見た、スーパーの仲間達を描いた作品。

 

そもそも、こういう巨大スーパーという店舗自体最近まで見なかった…と思う当方。(全国に波及しているイオンは別)

どちらかと言えば、郊外と呼ばれる田舎に住んでいるため『コストコ』も数年前に近くにお目見えしましたが。とは言え家族の中に成長期の子供など不在故、今でもそうそう足を運ぶ事は無い当方。

「初めてコストコに母親と行った時。勝手が分からな過ぎて右往左往するばかりで殆ど何も買えなかった。」

初めて外資系スーパーに行った時に当方が思った事。それは「照明が白すぎるし、陳列の仕方が倉庫過ぎて、食べ物が美味しそうに見えない。」

外資系スーパーを通じて、改めて身近な小売店やこじんまりとしたスーパーに愛着を感じた当方。って何の話をしているのか。

 

話が思いっきりずれました。閑話休題

 

ともあれ、そんな巨大スーパー内の『飲料担当』に配属されたクリスティアン

「俺の後釜を連れてきたな。」(言い回しうろ覚え)初対面でそう言ってきた、担当部署の責任者ブルーノ、54歳。

このスーパーの中では古参。東西統一前はトラックに乗りあちこちへ荷物を運んでいた。けれど。東西統一後会社は無くなり…その跡地にこのスーパーが出来た。

かつての仲間達数人でスーパーに再就職。以来ずっと勤めている。

別にサボっている訳じゃ無い。けれど『ほどほどに』手を抜きながら、のらりくらりと働いているブルーノ。

なんだかんだクリスティアンの世話を焼いてくれる、父親みたいな同僚。

 

そして、クリスティアンが一目ぼれした『お菓子担当』のマリオン。

休憩室でほぼ必ずと言っていい程遭遇する女性。口下手で無口なクリスティアンにものおじせずに話しかけてきた。一気に恋に落ちるクリスティアン

会えば笑顔で話しかけてくれる。二人で居たら楽しい。けれど、そんなマリオンは実は人妻。しかもブルーノ曰く「あまり旦那が彼女を大切にしないんだ。」。

 

「職場に気になる女性が居て。そんなにうるさくない、話を親身に聞いてくれる上司が居て。賞味期限切れ廃棄物を「見つかったらクビだぞ。」と経営者から言われながらも、皆公然の秘密とばかりに堂々と食べている。クリスマスには終業後そのゴミ捨て場を囲んで(流石に廃棄物では無いでしょうが)皆でクリスマスパーティ。楽しそうやなあ~。」

「働きやすい職場です。」求人広告にそう書いたとしてもJAROに通報されそうにない、そんな和気あいあいとした仲間達…に見えた当方。

 

「それは何故か。スーパーでの具体的な仕事内容は殆ど描かれていないからだ。クリスティアンの飲料担当としての仕事=フォークリフトを自由に操作出来る事。とにかくフォークリフトの描写多し。」

 

これは『国際フォークリフト協会』(あるのか?)から協賛されても良い。それくらいのフォークリフト映画。

 

「専門家じゃ無いから適当な事を言うけれど。日本のスーパーって、基本的に目の高さ~少し上位までしか棚の高さが無いし、成人ならほぼ自力で手を伸ばして商品を取る事が出来る。在庫は殆どがバックヤード。つまりはあんなに(フォークリフトで取らなければならないような)高い所に商品の在庫を積んだりしない。落ちたら危ないからだ。」

「大体、ダースとかで箱詰めされている様な飲料水(例えば500㎖のビール缶×24本だとしても…缶そのものの重さを抜いても12㎏。しかも記憶では、木箱でビンだったような…。)をはるか頭上に配置しているスーパー。新人がフォークリフトで下ろそうものなら途中で「おい!もうここからは俺に代われ!」とかベテランに言われるような技術が必要。危ない…危なすぎる。」

「そもそも客が買い物をしている店内で、フォークリフトに乗った従業員がうろうろしている…。いつか子供を轢いてしまいそうな気がするけれど。」

「そこまで広い店内ならば、いっそバックヤードをしっかり確保して、そんな高い所に重い在庫商品を置かなくても良いようにしたらいいのに。」

 

もういっそ海外のスーパー事情を知りたくなってきた。画面にフォークリフトが映る度、何だか全く本編とは違う事が延々気になってしまった当方。

 

この作品がフォークリフト描写に結構な時間を割いた様に。当方もまたフォークリフトの話を延々としてしましたが。

 

何度も何度もユニフォームに袖を通すシーンを繰り返したクリスティアン。『これはお客様から見たあなたの姿です。』更衣室の鏡に書いてあるフレーズ。長袖ユニフォームでギリギリ隠れる、うなじと腕にあるタトゥー。クリスティアンのやんちゃ時代の名残。誰かと積極的につながりたくない。でも何だか寂しい。時々昔の仲間と遊んでしまう。あいつらだって本当は悪い奴らじゃないんだ。皆寂しいんだ。

クリスティアンの想い人、マリオン。

初めから何だかウマが合った。良い雰囲気。きっと好意は伝わっている。けれど彼女は結婚している。でも…マリオンだって自分の事を好いてくれているんじゃないかな?そう思った途端、「私が辛いのが全部自分のせいだってうぬぼれないでよ!(言い回しうろ覚え)」突き放され。距離を置かれ。…でもまた結局スーパーに戻ってくるマリオン。

ずっと一緒に居てくれる。見守ってくれる。そう思っていたブルーノが一人で下した選択。

 

「ブルーノがそんな事を思っていたなんて。」

クリスティアン以上にショックを受け、打ちひしがれるトラック時代からの仲間達。

 

「どうしてずっと何も変わらないと思っていたんだろう。」そう思う当方。

毎日出勤して同じ仲間と同じような仕事。代り映えの無い日々。でもそれは決して永遠では無い。実に危ういバランスの上に成り立っていた。

一緒にクダを巻いて、馬鹿をして。でもそんな仲間には、誰ものぞく事が出来なかった、ぞっとするほど暗い沼があった。

 

「その梱包されていた紐は何かに使えるから取っておけ。」

 

昔を懐かしむ思い。今収まっている場所は余りにも地味。こんな所に自分は骨をうずめるのか、そう思う時もある…でも一方でこの場所が心地よいと思っている自分も居る。この場所が愛おしくなってきている。それならそれでいいじゃないか。

 

ともすればうつらうつらと夢の中に連れて行かれそうな、静かな作品なのですが。

引いては押し寄せる。そんな繰り返しをしていた波が、終盤思いがけないうねりを見せた後、また穏やかに凪いでいく…そこには確かに何かの灯りが見えた。そんな気がした心地良い終わり。

 

そして。「今後何か資格取得をせねばならない事態があれば、フォークリフトも考慮したい。」(当方の職種に一切不要)

当方にまさかのフォークリフト熱を持たせた、貴重なフォークリフト映画でもありました。