ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ザ・バニシング ―消失―」

「ザ・バニシング―消失―」観ました。
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1988年公開。ジョルジュ・シュナイツアー監督作品。

 

7月。オランダからフランスへドライブ旅行をしていた、レックスとサスキア。

深刻な喧嘩もあったけれど。結局はラブラブ。途中立ち寄ったドライブインで最高潮に盛り上がる二人。なのに。

「飲み物を買ってくる。」そう言って別れたっきり、サスキアは戻ってこなかった。

そして三年。

恋人を忘れられず。最早憑りつかれたように執念を燃やしてサスキアを探し続けるレックス。ポスターを配布。果てはテレビ番組に出演し呼びかけ。

その後、サスキア失踪の真相を知ると匂わせる手紙がレックスの元に届くが。

 

「これまで観たすべての映画の中で最も恐ろしい映画だ。S・キューブリック監督 震撼。」「サイコ・サスペンス映画史上NO.1の傑作!」

強気に出るなあ~。兎に角、S・キューブリック監督が相当お気に入りだった作品なんだなと思い。そして約30年前の作品をなかなか映画館で観られるのは貴重だぞと。すっかりお馴染みになってきた映画館に向かったのですが。

 

「気色悪う。でもこういう作品は大好き!」決して交わる事の無い(物理的に不可能)S・キューブリック監督に駆け寄って、肩を叩いて「分かるで!分かるで!」と騒いで怒られたい。そんな気持ち。

 

最愛の彼女サスキアを、恋愛に於いて最もピークの状態で失った。

「何故?一体サスキアに何が起きた?」「そして今サスキアは何処で何をしている!」血眼になって探し回るレックス。

「いや…お気持ち分かるけれどさあ。何て言うか…ちょっと落ち着こうか、レックス。」

 

思い切り話がズレますが。内田百閒の『ノラや』。ペットロスにまつわるエッセイ。

ふとした縁で内田家に居就いていた野良猫『ノラ』が居なくなった。そうなると居ても経っても居れなくて。探し回るにしても自身も高齢。探し猫の新聞広告、外国人向けの英語で書いたビラを刷る。立派な大先生が「ノラやノラや。」と言って泣く姿…18年猫と暮らした当方には、思わず涙が止まらなかった作品でしたが。特に動物と関わる事が無かった人には恐らく「いい年した大人が…」と呆れ、滑稽だと笑われてしまう。そんな話。

(何故今猫の話を?と思われそうですが。)

 

つまりは「ちょっとレックスやり過ぎちゃうの?」「彼女、自分の意志で姿をくらませたのかもしれないやん。」サスキア失踪直後は同情的だった周囲の人間も「それ。三年も前やろう?もうレックス前に進んでもいいんじゃないの?」と言い出してしまう。それだけの時が経ってしまった。

 

「違う!俺たちはラブラブだったんだぞ!」「確かにその直前深刻な喧嘩をした!けれど仲直りして…あのドライブインでサスキアが自ら姿を消すはずがない!」(というセリフはありませんでしたが)

 

どうしても納得できない。何がどうなったらサスキアが居なくなる?俺は信じない。俺が信じられる答えを見つけるまでは。

 

そんなレックスの姿は、最早周囲の人間にとっては近寄りがたい狂気。

 

けれど。レックスにとって対になる人間が現れた。

 

「犯人よ。君に会いたい。」

 

大学教授のレイモン。結婚し娘が二人。経済的にも恵まれた家庭。そんな不自由のない生活を営む一方で、子供の時から「善と悪について」の実験と考察を行っていた。

 

テレビ画面越しに「君への怒りは無い。兎に角何が起きたのか知りたいんだ。」切々と訴えかけるレックス。その姿を見て、遂に「私はサスキアに何が起きたか知っている」と手紙を送るレイモン。そして二人は対峙する。

 

「フランスに向かう。」あの日の再現。オランダからフランスへ。レイモンの運転する車に乗って。あのドライブインを目指す二人。その車中で淡々と語られるレイモンの半生。

 

内容としては「やりたい事 やったもん勝ち♪」という『100%勇気』のフレーズが延々当方の脳内に流れ続けた感じ。

「もし今このバルコニーから飛び降りたらどうなる?」「もし川で溺れている子供が居たらどうする?」「この睡眠薬はどれくらい効く?」そういう、自身に沸き起こる疑問。それらを実際に実行に移してみたら。一体自分はどういう気持ちになる?

~というレイモンの己に酔いに酔った自分語り。(演出なんでしょうが。レイモンの役者がまた、えらく気取ったわざとらしい演技をするんですよ。)

 

そして。「もし女性を睡眠薬で眠らせて拉致してみたら?」という発想に行きつく。

何度も何度もイメトレを繰り返し。滑稽な失敗も経て。完璧と思われるプランを練り上げた。そして向かったのがあの日。あのドライブインだった。

 

順当にネタバレしいってはいけないと思いますので。ここいらで風呂敷を畳んでいきたいと思いますが。

 

結局は『知りたい男二人の闘い』。

真実を知りたい男と、己の欲望の果てを知りたい男。そんな二人が出会った時。

「知りたい」を餌に。喰うのか。喰われるのか。どっちらが勝つのか。

 

当方は臆病者なので。「確かに恋人に何があったのかは知りたいけれど…。」おっかなくて自ら犯人だと名乗って近づいてくる輩とは絶対に二人っきりにはならない。相手が何と言おうと警察に通報するし、ましてや車には乗らない。(レックスよ。子供の時「知らない人の車に乗ってはいけませんよ」と言われませんでしたか?)そしてそんな得体の知れない相手が差し出してくる『手作りの食べ物』には口を付けない。

 

そして。例え興味が過っても、バルコニーから飛び降りないし、不必要な薬を己に試したりしないし、ましてや人さらいをしようだなんて思わない。

 

『知りたい男二人』レックスとレイモン。サスキアという女性を挟んで被害者と加害者であるけれど。実は二人は表裏一体。『知りたい』という欲求の成れの果て。そんな二人の成れの果て。

 

「レイモンは女性を拉致してどうしたかったのか。そして今。まさにレイモンの新たな実験が行われているんじゃないのか。」

 

あああ。こういうラストかああ。後頭部に手をやって溜息。気色悪う。でもこういうの、大好き。

 

ところで。大型連休目前の現在、当方が今回得た教訓から二つ。

 

『ラブラブな恋人が居たとして。ドライブ旅行に行くならば、ドライブインで油を売っていないでとっとと現地に向かおう。』『ドライブインでは恋人と一緒に車から降りて、行動を共にしよう。」

 

悲しいかな当方には机上の空論ですが。

しかと心の手帳に書き留め、周囲に発信していきたい所存です。