ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ビューティフル・ボーイ」

「ビューティフル・ボーイ」観ました。
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「堕ちていく我が子を。変わらず愛していけるのか。」

 

成績優秀でスポーツ万能。将来有望と目されていた学生のニック。ふとしたきっかけでドラッグに手を出して。「ただの気晴らし。」「すっきりする。」「皆やっている。」「直ぐに止められる。」けれど。次第にのめり込み、抜け出せなくなり…立派な薬物依存者の出来上がり。

心身共に病み。更生施設に入所しては抜け出し、何度も過剰摂取を繰り返し。そんな息子を、時には突き放しながらも支え続けた父親。

実在する親子の8年に及ぶ闘いを映画化。息子ニックをティモシー・シャラメ。父親デヴィットをスティーブ・カレルが演じた。

 

「薬物依存かあ。完全な脱却って難しくない?」

「正直ほぼ無理やな。『今はやっていない』っていう期間がどれだけ続くかっていう話で。」

「ちょっとしたきっかけで直ぐ薬物依存に逆戻り。あの。薬物更生施設ってどうなん?」

「あれなあ~うさん臭いのもあるみたいやし…なかなか全てが上手く訳じゃないみたい…。」

この作品鑑賞後。身近に居る、精神科施設に勤める人物に思わず色々聞いてしまった当方。薬物依存症は根治困難な精神疾患。鑑賞中も唸り、溜息が止まらなかった当方。

 

ライター業の父親デヴィット。息子のニックが幼い頃妻と離婚。デヴィットに引き取られたニック。その後現在の妻カレンと再婚。ほどなく二人の間に二人の子供が生まれた。

とは言っても。決して新しい親子間がギスギスしていた訳では無い。カレンとニックの関係も良好。年の離れた兄弟とも仲良し。

文武両道。気立てが良く、特に問題を起こした事も無い。そんな優等生だったニックが。ちょっとしたきっかけでドラッグに手を出した。「こんなの皆やっている。父さんだって楽しんだことあっただろ?」二人でそっとドラッグを吸って。最高だなと笑った。その程度のはずだった。なのに。ニックはどんどんドラッグから抜け出せなくなっていった。

 

『クリスタル・メス』という(当方は薬物に対しての知識が無いのでこういう表現になりますが)どうやら超ド級の危険覚せい剤。依存性が高く、また脳に与えるダメージも大きく不可逆的。どうやらそんなドラッグに手を出していたニック。

心身共に崩壊していくニック。聡明であったはずの彼の表情は豹変し、何度も施設に入所しては逃亡、のたうち回り、嘘を繰り返し、幼い兄弟のお小遣いをちょろまかし、彼女も道連れに堕とし。(当方が一番痛々しいと思ったのは、幼い弟が「ニックはまたドラッグなの?」とデヴィット夫妻に言った時)

 

「あの子を救う事は誰にも出来ない。」疲れ果てて、思わずそう放ったカレンの言葉に同調。心が折れそうになった事もあったけれど。

 

「会いたい。私のビューティフル・ボーイに。」

決してあきらめない。そうしてニックをサポートし続けたデヴィット。妻カレン、そして前妻ヴィッキー。

 

作品の内容としては『何度でも何度でも何度でも立ち上がり呼ぶよ 君の名前声が枯れるまで』という感じ(どういう感じだ)なんで。こまごまとは書きませんが。

 

「兎に角薬物依存は脱却が難しい。完全な克服なんてありえないと言い切っても良いくらいだ。」そう思った当方。そして。

 

「誰もが(出会うきっかけさえあれば)こうなってもおかしくない。」という空恐ろしさ。

 

実在する人物の自伝ベース、それを読んだ訳ではないのであくまでも映画作品からの印象ですが。

幼い頃両親が離婚。そして再婚した。けれど新しい家族との関係性に問題があった様には見えなかった。親から過剰な期待を寄せられて嫌々勉強をしていた訳でも無い。特に強いコンプレックスがあるようにも見えない。『どちらかと言えば優等生』だったニック。けれど彼は無理やり優等生を演じていた訳では無い。

 

なので、当方が『薬物依存者に於けるきっかけステレオタイプ』として想像していた「誰からも愛されていない。」「今の自分の置かれている環境が辛い。」「現実逃避をしたくてドラッグに手を出した。」という風には見えなかった。

 

特別心に闇を抱える人間だけが、ドラッグの世界に足を踏み込む訳では無い。誰でも、出会うきっかけさえあれば…その世界は突然目の前に広がってしまう。

 

「初めて『クリスタル・メス』をやった時。とてつもない高揚感があったんだ。どうしてもそれが忘れられなくて(言い回しうろ覚え)。」

 

そうか。そんなに…でもな。そう怪訝な顔をしてニックを見てしまったのは、当方は実際にドラッグを体験した事が無いから。けれど。もし?もしその味を知ってしまったら?

 

「どう考えても行きつく先が破滅。そうとしか思えないから、ハナから出会わないようにする。ケミカルな高揚感なんて要らない。その味は知らなくていい。」

 

一旦その感覚を知ってしまったら。制御出来る自信なんて無い。だから出会わないようにする…けれどもし。ニックの様に受け入れてしまったら?又はそういう人物が身近に居たら?

 

「薬物依存は立派な精神疾患」そう思っている当方。(過度な依存症は薬物に限らず同様と認識)

こんなものに溺れるのは心が弱いからだ。同じことを繰り返すのはお前の弱さだ。がっかりだ。違う。薬物依存は病気。精神力では克服出来ない。

(当方は専門家でも何者でもありませんので。何を偉そうにという発言ですが。)

 

結局何が依存から抜け出せるきっかけなのか、依存症患者に共通した回答なんて無い…例えば人間関係に問題を抱えてドラッグに走ったとして、その関係性が改善されたらドラッグも止める事が出来るのかというと、そんな短絡的な問題では無いと思う当方。

 

「じゃあどうしたらいいの?薬物依存者は勝手に死ねと?」

繊細な問題故おいそれと答えは出ないと思いますが。この作品の出した回答は「まずは周囲が諦めずに寄り添うこと」だと感じた当方。

 

もう手が付けられない。我々には出来る事なんて無い。そもそも誰もニックを救うことなんて出来ない。絶望し、諦めつつあったデヴィット夫婦が参加した『薬物依存患者を持つ家族会(名称うろ覚え)』

そこで語られた、娘を薬物依存で亡くした母親の言葉。「娘はもう生きていても死んでいる様なものでした。」「けれど。娘が死んだ後はもう本当に何も無い。何も無いんです。」(言い回しうろ覚え)

 

お前は弱くない。何回同じ事を繰り返しても信じている。大丈夫。どんな時だって、お前を愛している。

 

ところで。父親デヴィット視点の自伝ベースなので父子に焦点が当たったのは仕方が無いとは思いますが。義母カレンの心中はどうだったのか。そして元妻ヴィッキーは。

幼い我が子を前にニックにばかり気を取られるデヴィット。家族が不在時に実家に侵入。コソ泥さながら荷物を運び出し、家族が帰ってきたからと車で逃げるニックを涙をぬぐいながら車で追ったカレン。「もう無理!」と放った時もあった。

離婚したけれど。デヴィットと同じく、ニックを大切に思っていたヴィッキー。

立場や距離は違うけれど。ニックを見放さずサポートし続けた母親達。

「美しき父と息子の話だけじゃなくて。母の視点ももう少し見たかったかな。」

そこは一点。気になりましたが。

 

最後の『シラフの状態が続いている』という結びに、強い祈りを送った当方。