ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「おっさんのケーフェイ」

「おっさんのケーフェイ」観ました。
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谷口恒平監督作品。川瀬陽太主演。

 

大阪。河川敷の土手に佇む小学生三人組。彼らがぼんやり見つめる先は、対岸でダッチワイフ相手にひたすらプロレス技をかますおっさん。

「あのおっさん、毎日何してんのやろ。」「楽しいんかな。」

特に秀でた特技がある訳じゃ無い。楽しいと思える事も無い。何ともぱっとしない彼ら。その中のヒロトが主観として進行。

ある日出会った道頓堀プロレス。そこで行われていた『ダイヤモンドウルフ引退試合』。瞬く間にアマチュアプロレスに惹かれていくヒロト

興奮冷めやらぬまま。プロレス雑誌を購入し浮かれていたヒロトを襲った、中学生からのカツアゲ。大ピンチ。そこを助けてくれた例の『河川敷のおっさん』。

その時。おっさんがダイヤモンドウルフのマスクを持っている事に気づいたヒロト

「おっさんがダイヤモンドウルフなの‼」「お願い!僕にプロレスを教えて!」

こうして『おっさん=坂田』とヒロトを初めとする小学生三人の、プロレス特訓の日々が始まった。

 

川瀬陽太主演作!」(呼び捨てで申し訳ありません)

世の中で。名脇役と言えば、という俳優さんは何人も挙げられていますが。その中の一人、川瀬陽太さん。

どうしようもないクズや、一風変わった変人、いやらしい役、こせこせした小悪党、そう思えば人情味あふれるお父さん等。本当に引き出しの多い役者さんだなあ~と。彼の姿をスクリーンで見つけると感心と安心に包まれる当方。という贔屓の役者さんなんですが。

川瀬陽太がどうしようもないおっさんの役!それは観に行かんと!」

 

 

映画鑑賞後。「何やろう。このぬるい感じ。」「ベッタベタの人情劇。」「最後の茶番もうちょっと見せ方あったんちゃうんか。」そう思う反面、「くっそ…こういうの…嫌いじゃない。」という当方も居る。

 

正直、奇抜な展開やスペクタクルは起きない。冴えない小学生と、冴えないおっさんの交流の日々。(当方はこういうアマチュアプロレス…と言うかプロレス自体に疎いのですが、流石におっさんが全然現役の選手に見えないことは分かる。ヒロトよ!何故鬼殺しを常飲しているアンタッチャブルな中年男性を現役プロレスラーだと思ったんだ!)

 

まあ。はっきりネタバレすると「おっさんはダイヤモンドウルフでは無い」んですよ。

 

とはいえ無関係ではない。ではおっさんとダイヤモンドウルフは一体どういう関係なのか。(流石にそこまでネタバレしませんよ)

 

プロレスに対する愛や情熱は本物。けれど何もかもが中途半端で、結局自分で自分を『偽物』という立ち位置に追い込んでしまった。

けれど。そこから虎視奮闘して這い出す努力も、見切りをつけて出ていく事もずっと出来なかった。そうして燻っていたおっさんを、見つけ出して、引っ張り出して、背中を押したのは子供達だった。

 

冴えない。学校で配られた『自分の特技を発表する会』というプリントにも、書き込むべき特技なんて思い付かない。(というかなんだその公開処刑は!)

小学生なんて、可能性に満ち溢れているはずなのに…ただただ平凡でぱっとしない。そう思っていたのに。初めて興味を持って飛び込めるものを見つけた。

 

「当方にとってそれは本だったと思う。」新しい世界。見た事も無い世界が広がるワクワク感。分かる。当方のそれとヒロトのプロレスはジャンルは全く違うけれど、そうやって、自分の前にキラキラした世界が現れた時の高揚感。

 

その時。毎日ただ景色として認識していただけのおっさんが、全く意味を違えて現れた。

おっさんが?こんなに近くに自分の想いを共有出来る大人が居た⁈凄い。凄い凄い。

 

「大丈夫なのか?」正直、初め少しハラハラしてしまった子役達の演技。けれど。あのヒロトの「うわああああ~」というプロレスに魅せられた表情を見てから、何だか力が抜けた当方。(そして安定の川瀬陽太さんが引き上げてくる)これは大丈夫だと。

(そしてあのおっさんのオカン。同じく素人ギリギリの雰囲気を漂わせながら…子供達と話しているシーンで何だか泣きそうになった当方)

 

おっさんは本物じゃない。偽物。でもプロレスに対する愛や情熱は嘘じゃない。じゃあ、本物になればいい。

勝ち負けじゃない。中途半端からの脱却。

 

あの体育館での茶番に対しては、もっと尺を取って盛り上げたら…とやっぱり勝手ながらに思ったりもしているんですが。

「『おっさんのケーフェイ』って。そもそもケーフェイってどういう意味だ。」

作中の子供同様、当方もあっさりスマートフォンで調べてしまい。(おっさんにスマートフォン投げられる案件)そうか、そういう意味だったかと画面を閉じて。

「それなら。これがベストアンサーなのか。」

偽物に対する本物からの回答。それはやはり辛辣で、でも優しさでもある。何より茶番に付き合ってくれた。きちんとリングに上がってくれた。

そこに、大仰な音楽や演出は野暮なのかもしれない。

 

「後、夕暮れが堪らなく綺麗。」

おっさんが。子供たちが。夕暮れに染まるシーンが一々綺麗で。何故かそれだけで泣きそうになった当方。

 

あの子供達。これから大人になっていく彼らには、色んな出来事が起きるだろう。そうして経験を積むことで世界は段々馴染みの色になっていく。些細な事は忘れていく。けれど。大人になった彼らがふと、このおっさんとの日々を思い出した時。

 

「それはきっと馬鹿馬鹿しくて、恰好悪すぎて、恥ずかしくて…でも甘い気持ちで胸が一杯になってしまう…当方なら…泣く。」

(またねえ。主題歌の『メタルディスコ/チッツ』が最高なんですよ!)

 

映画鑑賞後。「何やろう。このぬるい感じ。」「ベッタベタの人情劇。」「最後の茶番もうちょっと見せ方あったんちゃうんか。」そう思いながらも「くっそ…こういうの…嫌いじゃない。」今では「嫌いじゃない。寧ろ好きに…。」

そう思って。悶えるばかりです。