ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「グリーンブック」

「グリーンブック」観ました。
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1962 年。アメリカ。ジム・クロウ法(黒人差別が盛り込まれていた、当時のアメリカ南部州法)が施行されていたアメリカ南部で。コンサートツアーを決行した、黒人の天才ピアニスト、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)とドン専属のがさつな白人ドライバー、トニー・リップ・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)の友情話。

 

 2019年米アカデミー最優秀作品賞受賞作品。

 

年に一回、2月に行われる、アメリカ映画界の最大の祭=米アカデミー賞授賞式。

アメリカで。今年一年で一番面白かった映画を決めようぜ!の会。』

同時期に行われる日本アカデミー賞授賞式よりよっぽど当方の関心度が高い祭典。とは言え仕事の合間に結果を確認し高まる程度。「授賞式までに大方の公開作品を観よう!」とか「授賞式の中継放送をするWOWWOWに加入しよう!」とまでは至っていないのですが。(去年、WOWWOWに加入していた職場後輩が居まして。あんまりにも当方が騒いだので授賞式をDVDに録画してくれた事がありました。大感動。「2019年は家に行かせて欲しい。ピザくらいは作るから!」と言ったのに…一身上の都合で退職し、地元沖縄に帰郷してしまった後輩。寂しい…。)

今年の作品賞。下馬評として挙げられていた『ROMA/ローマ』と『グリーンブック』。前者が映画館では無くNetflix公開作品だった事もあって大注目。結果蓋を開ければ『グリーンブック』に勝敗は上がり。

「結局アカデミー会員は古いんだよ。」そんな風に揶揄されていましたが。

 

当方は、近年の米アカデミー賞に関する『黒人映画問題』。ざっくり言うと「白人のみの受賞者、作品で埋め尽くされた年があり、差別だと批判された。以降、黒人の受賞者やかつての黒人問題などに絡めた作品が評価されている現状がある」という…非常に繊細な問題について、大した知見も無いのに知った顔して語る事は出来ません。

 

「と言うか。これって『アメリカで。今年一年で一番面白かった映画を決めようぜ!の会。』なんですよね?」

 

随分前置きが長くなってしまいましたが。当方は『グリーンブック』という作品が「2018年アメリカで(アカデミー会員的に)一番面白かった」という評価にいちおうには納得しました。

というのも「人と人との間に信頼関係、そして友情が芽生えるまで」を丁寧に、コミカルに、そして時にはぐっと胸を打つようにと、非常にテンポよく描いた秀作だったと思ったから。

 

1960年代のアメリカ。奴隷制度こそ無いけれど。未だ黒人に対し偏見、差別の目があった時代。

主人公のトニー。イタリア系。NYのナイトクラブで用心棒として働いていた。腕っぷしが強く、がさつで口八丁。けれど妻と二人の子供を愛してやまない一家の大黒柱でもある。

ある時。店が閉店し失職したトニーは「大劇場の上に住む金持ちがお前を運転手として探している。」という誘いを受け、面接に向かう。

しかしそこで会ったのは黒人ピアニスト、ドン。「君の腕っぷしの強さは知っている。君を雇いたい。」

 黒人に対し差別的な感情のあるトニーはすぐさま踵を返すが。ドンはトニーの自宅に電話しトニーの妻を説得。そうして二人の、約2か月の南部の旅が始まった。

 

「何で俺が黒人野郎の下で働かないといけないんだ。」旅の初め。嫌々な態度を隠さなかったトニー。けれど。旅を続ける事で変わっていく気持ち。

 

「ドクター(ドク)が黒人差別の激しい南部地域を。北部よりもっと安いギャラで、敢えてコンサートツアーをするのは何故だと思う?」

ドクと同じバンドメンバーの一人がトニーに聞いた言葉。

 

知性と教養を兼ね備え。ピアノの才能と人を酔わせる演奏が出来る。そんなエレガントな男性が。たった一つ、肌の色が違うだけで貶められる。

コンサート会場に集まる紳士淑女の面々。そこで皆演奏される音楽に魅了されるけれど。それを奏でる人物に、同じ会場にあるトイレも使わせないし、同じ敷地にあるレストランで「前例がない」と食事もとらせない。まともな控室も与えない。

「黒人は夜出歩くな」「黒人はうちの服を買うな」理不尽で制限される事ばかり。

 

そんな中で。「いつもの事だ」「暴力を振るったら終わりだ」あくまでも誇り高くあろうとするドク。ドクにとってこのツアーは戦い。言葉や態度、時には暴力で差別を行使してくる相手に、暴力では無く。自分の音楽で戦う。音楽の力は無限なはずだから。

 

旅の初め。口には出さなかったけれど。「何だよ黒人野郎が」「偉そうに」「スカしやがって」「小さな事でガタガタ文句言いやがって」インテリで、とっつきにくいと思ってドクが好きになれなかった。けれど。実際にドクが演奏する所を聞いて「アイツ、すげえじゃないか」と感動するトニー。

 

そして。「黒人差別の激しい南部ツアーで、腕っぷしの強い白人用心棒が欲しかった」という理由でしかなかった…と当方が推測する『ドクがトニーを雇ったきっかけ』。

ドクだって初めは嫌だったはず。がさつで自分への嫌悪感を隠さないドライバー。トイレだって車を止めて道端でしてくる。ドライブインで土産物の小物を万引きしようとする。品が無い。およそ普段関わらないタイプ。なのに。

 

二人っきりの車中で。流れる流行りの曲。「こんなのも知らないの?」「これは…良いな。」ピアニストドクとナイトクラブで色んな音楽を聴いてきたトニーの打ち解けていくきっかけ。

 

「黒人ならこういうのが好きなんじないの?」「決めつけるな」けれど。

「手が…服が汚れる…」とドクが恐る恐る口にしたケンタッキー・フライド・チキン。最高に美味しくて。(最後最高のセッションをした店で自ら注文して食べていましたね)

 

誇り高きドクと豪胆なトニー。けれど、決してすべからくドクが聖人でトニーがだらしなかった訳じゃ無い。互いに危なっかしい所、恥ずかしくて知られたくなかった所もあったし、逆に互いに足りない部分を気付かせてくれる相手でもあった。

 

「何て手紙だ。綴りも間違っているし…いいか、手紙って言うのはこう書くんだ。」会えない妻子にとりとめもない日常をだらだら綴っていたトニーに、ロマンチックな手紙をアシストしたドク。(この手紙の最終形態。最高でした)

かと思えば、「兄が居るが連絡は取っていない。私の住所は知っているんだから云々。」と御託を並べるドクに「寂しい時は自分から言うもんだぜ。」ときっぱり答えるトニー。黒人だと見下していたのに。ドクが知られたくなかった事には「色々あるよな」と寛容な態度。

 

「悪い癖が出てきた。気が付けばだらだらとネタバレをしている。」はっとした当方。という事で、ここいらで風呂敷を畳んでいきたいと思いますが。

 

「まあ非常にテンポの良い、良く出来たヒューマンドラマやった。ただ…これがアカデミー作品賞を取った事の最大のひっかっかりはおそらく『よく出来すぎていた』という所。」

 

題材。二人のキャラクター。エピソードの数々と伏線回収。音楽家ならではの音楽シーンでの盛り上がり。起承転結に至るまで、文句が無い秀作。

 

「だからこそ文句を言いたくなる。出木杉君は、ドラえもんでも皆から距離を置かれているからな。あいつには一点の曇りもないのに。」

 

誰に薦めたとしても大丈夫な作品。老若男女問わず好かれる作品。そして。

「観終わった後、フライドチキンが食べたくなる作品。」

 

本当にねえ。スポンサー欄にKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)があってもおかしくなかったですよ。