ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「天国でまた会おう」

 

「天国でまた会おう」観ました。
f:id:watanabeseijin:20190307204847j:image

第一次世界大戦終結寸前のフランス。

1918年。西部戦線。そこで知り合った、同じ部隊兵士のアルベールとエドゥアール。

その舞台を率いていた暴君、プラデル中尉。彼の無茶な指令に従った結果、敵からの攻撃にて生き埋めに会ったアルベール。そんなアルベールを救おうとして爆破を浴びて、結果顔の下半分を失ったエドゥアール。

何とか命を取り留めたエドゥアールだったけれど。ボディイメージの変化に耐えられず「誰にも会いたくない」と戦死を偽装。アルベールと一緒にひっそりとパリに帰ってきた。

しかし。戦没者には哀悼の意を見せるものの、帰還兵には冷ややかな母国。帰ってきたけれど、かつての恋人も職も失ってしまったアルベールは安定した職に就けず。貧しい部屋にエドゥアールと二人で住んで。日々不安定な生活を送ってきた。

元々は良家の御曹司。加えて芸術的センスに長けていたエドゥアール。醜く変化してしまった顔。傷はひどく痛み、強い鎮痛剤が手放せない。

昔部隊で一緒だった時、エドゥアールが描いていた絵を見ていたアルベール。貧しかろうが。エドゥアールには絵を描いて欲しい。そうして少ないながらも画材を買って自宅に置いて。

悲観していたけれど。次第に創作意欲が湧いてきて…変化してしまった顔を覆う仮面を作るエドゥアール。しかし。そこで二人は終わらない。

 

かつて戦地で戦った…戦った?混乱している現場をいいことにサディストっぷりを振りかざしていたプラデル中尉。

帰還した彼が今、パリで成功していると知り、復讐を企てるエドゥアール。

その内容は。「戦没者を悼む記念碑を販売する企画に応募」「戦没者記念碑コンクールに応募」その落ちは「優勝し実際のモノは納付せず、報酬だけもらって高跳びする」というもの。

「こういうことを考える奴の好きな作風はこういうんだよ」受け狙いの作品デモを作成するエドゥアール。活動資金を稼ぐ羽目になったアルベール。

 

けれど。「戦没者追悼記念碑コンクール」の主催者はエドゥアールの父親だった。

 

冒頭。西部戦線での修羅場シーンが「あれ?『ダンケルク』のノーラン監督居るんですか?という位しっかりしているんですね。砂にまみれ、疲弊した兵士達。緊張感。爆音と共に上がる砂煙。次々倒れ、亡き殻と化す兵士達…。

そこで語られるエドゥアールとアルベールの関係性。ただ同じ釜の飯を食った(日本人的表現)だけじゃない、互いが互いにとって、命の恩人。

「よくそんな不衛生な環境で感染症も起こさず…(当方の声)。」まさかの生還を果たしたエドゥアール。けれど顎を砕かれた彼のビジュアルは本人にとって耐えがたく。(ってそりゃあそうでしょうよ。)しかも声は出ない、ご飯も食べられない。痛みはモルヒネ等の強い鎮痛剤でしか緩和出来ない。

 

「パリに帰ってきた。けれどそれが何だっていうんだ。人前に出られる顔じゃなくなった俺が一体何が出来るというんだ。」「絵が描けるじゃないか。」

 

戦地に行く前。裕福な家庭で育ったエドゥアール。父親は不在がちで、金さえ与えておけばいいと考えている。なのに、自分が絵を描く事を許さなかった。

絵が描きたい。何かを生み出したい。姉は自分の絵を喜んでくれた。なのに。滅多に姿も見せない父親が。自分の才能を認めてくれない。…自分を認めてくれない。

 

なのに。戦地で知り合ったアルベールが。きらきらした目でエドゥアールに絵を描いてくれ、何かを生み出してくれと迫ってくる。

 

そして。たまたま配達で二人の住処を訪れた少女。怪我のせいで、声を失ったエドゥアールの気持ちを通訳出来る少女との出会い。彼女が仲間に加わった事で三人の結束は高まり。戦没者関連詐欺へと加速していく。

 

「計り知れない痛みを受けた者が復讐をする話…でもその対象者は二人。意味合いの違う二人。」「『天国でまた会おう』これは誰が誰に向けて言った言葉なんだろう。」

 

「今は戦争中だ」そう言って。混乱した現場で、仲間であろうが誰彼構わず銃を向けたかつての上司プラデル。そんなクズが今、のうのうと戦地から帰って来て。『戦没者関連事業』で財を得ようとしている。

確かに誰もが必死。なりふり構わず生きていた時代なのかもしれない…けれど…やっぱり許せない。しかもよりによってプラデルはエドゥアールの姉と結婚。二人の間に愛は無く、明らかにエドゥアールの実家の資産目当て。こいつは潰さなくては。

「また清々しいまでのクズ。彼には彼なりの悲しい事情が…とかが一切無いから…。」

最後。戦地でああ言った事を思うと感慨深い、そんな一言をプラデル自身に言わせて。そして陥った顛末。冷え切った当方の一言「因果応報。」

 

もう一つの復讐。それは戦地に向かう前まで、一切エドゥアールの才能を認めなかった父親。けれどこれはさっきのストレートな案件とは全く違う。

エドゥアールが戦死した」そう聞かされて。エドゥアールと関わる時間が少なすぎた。もっとエドゥアールと触れたかった。言うべき言葉があった。そう思い打ちのめされていた父親の元に、エドゥアールがかつて自宅で画いていた絵数枚を差し出した、エドゥアールの姉。

戦没者追悼記念碑コンクール。子を失った父親は、恐らく純粋な気持ちで企画した。

そこに寄せられた幾つかの作品デモ。どれもこれも似たような…なのに、一発で息子の絵を見抜いた父親。

これは…?何だか知っている。このサインは?この絵の作者は?

会いたい。この作者には何としても必ず会わなければ。会って話をしなくては。

 

父親側の心理描写はありませんでしたが。実際のあのシーンから察するに、絶対こういう気持ちであったと推測する当方。

何も俺の事なんか分かっていない。そう思っていた相手=父親からの言葉。

 

「あの爆発を受けた時俺は死んだ。こんな姿になって。それでも何故生きている。何の為に。何の為に。」

あの父親との会話の為…だったんじゃないですか。そう思った当方。だからああいう選択をしたんじゃないですか。

 

「天国でまた会おう」エドゥアールからのメッセージ。

一旦は死んだと思った自分に生きる価値をくれた人たちに。エドゥアール自身は生きる答えを見つけた。でもゴールは人それぞれ。「俺は先に飛ぶけれど。ゆっくり来たら良い。また会おう。今度は天国で。」

 

どうなんでしょうね。当方は大筋ではそういう話であったのだと。そう思っているのですが。

 

後、単純に美術が非常に美しい映画作品なんで、観ていて麗しい気持ちになる。

幻の様にはかなげで…残酷で。泣けてくるけれど、これはハッピーエンドだ。だっていつかまた会えるから。今度は素顔で。笑いあって。そう思う作品でした。
f:id:watanabeseijin:20190308000037j:image