ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「女王陛下のお気に入り」

女王陛下のお気に入り」観ました。
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ヨルゴス・ランティモ監督作品。

 

18世紀のイギリス。アン女王(オリヴィア・コールマン)。国を統治する立場でありながら、その身体及び精神は不安定。そんなアン女王を心身ともにサポートしていた、アン女王の幼馴染で親友のマールバラ侯爵夫人=サラ(レイチェル・ワイズ)。

しかし二人の関係は次第に政治的な分野にまで波及し。最早サラの傀儡同然となっていたアン女王。

おりしもフランスと戦争中の時代。微妙な戦局。このまま戦争を続けるのならば、軍資金として国民の税金を上げる決断をしなければならない。けれど実行すれば国民の不満を買うのは必須。一体、女王としてどう振舞うのがベストなのか…。

 

そんな時宮中に現れたアビゲイルエマ・ストーン)。没落貴族。遠い親戚であるサラを頼ってやって来た。移動途中馬車から落ち、泥だらけの姿で。

 

貴族?馬鹿馬鹿しい。父親の借金のカタに15歳で身売りされた、今はただの小汚い若い女。せいぜい女中どまり。そこで骨をうずめる…そう思われたのに。

 

加齢。過剰な食生活。運動不足。…肥満。糖尿病。ある夜、女王が痛風発作で苦しんでおり、その処置に呼ばれた女中に同伴したアビゲイル。しかしそれは患部に冷やした肉を貼りつけ、包帯で巻くというお粗末なもの。(余談ですが。あれ、一体どういう状態なんですか?当方は『痛風』って尿酸が溜りに溜って神経痛を起こす病気だと認識しているんですが。皮膚ボロボロになっていましたけれど…あれって『蜂窩織炎』じゃないんですか?「女王は糖尿病云々」というセリフもありましたし…痛風発作も起こしているんでしょうけれど。何らかの傷をきっかけに炎症が収まらなくてああなっていたんじゃないんですか?)

明らかに炎症を起こしているその皮膚に合う薬を、と女王が寝ている間寝室に忍び込んで自作の薬草軟膏を塗るアビゲイル。捕まって。

不法侵入の罪で鞭打ちの罰を受けている最中。女王に呼ばれたアビゲイル

 

それをきっかけに。女王の寵愛を受け始めるアビゲイル

初めはおどおど。次第に虎視眈々と『お気に入り』の座を仕留めていくが…。

 

「これ。スポ根コメディ作品ですわ。」

 

孤独で不安定な女王。その女王を操る、女王の恋人。そこに乱入してきた没落貴族。

「あの二人…親密だなと思ったら…ヤッテんの!(作中には無い、下品な言い回し)」。アン女王とサラの関係を偶然知ってしまったアビゲイル。けれど「私はもっとエロいことが出来るわよ!」という発想の転換。「あの子。口でしてくれるの。(作中にあった、下品な言い回し)」

「私を愛してくれる?」「貴方は私のもの。私だけのもの。」「何が何でものし上がってやる」そんな三つ巴の攻防戦。

 

こまごまとした手口はすっ飛ばしますが。アン女王の恋人サラと成り上がりアビゲイルのアン女王を取り合う、丁々発止の闘い。

「これでどうだ!」「はっ。甘いな小娘が!」「うぬう…ではこれはどうだ!食らえ!」「うわあ!やりやがったな!」そんなスポーツさながらのやり取り。全然情緒なんて無い。(まあでも。この内容をドロドロにやられたら、ただのメロドラマになってしまって食傷した予感がします)

けれどその中心に居るアン女王ときたら「私を取り合うなんて…(うっとり)」という「喧嘩をやめて~二人を止めて~私の~為に~争わないで~」という、舐めに舐めたまったり声すら出さない塩梅。

 

この三人の女性の中で。当方が好きだったのはサラ。

アン女王の幼馴染(全然見た目年齢が合っていませんでしたけれど)。少女だった時から二人は一緒。女王と侯爵夫人と身分は違うけれど、昔からの付き合い。それ故にずけずけと周囲には言いにくい事も指摘出来る。

「立場こそ女王だけれど。あの子は私が居ないと何にも出来ない甘ったれ。」そんなセリフは無かったけれど。間違いなくそう思っている。そう確信する当方。

アン女王に対して彼氏面で接していたサラ。けれど。

 

アン女王。17人の子供を妊娠したけれど。誰一人として成人まで育たなかった。その代償として17匹のウサギと暮らす女性。…というしんみりエピソードも持ち合わせては居るけれど。

不安定なメンタル。誰かが寄り添っていなければどうしていいのか分からない。だからサラや、ポッと出のアビゲイルに舵を取られてしまう。

「何と言うか。彼女にまともな忠臣がいない事が本当に不幸だと思う。ちゃんと中立で客観的な視点でアドバイス出来る人物(恋愛感情無し)が居たら…意外と職務を全うできそうな気がするのに。女王に寄ってくる奴らが軒並み自己主張したい奴過ぎて。」「後、精神年齢が女子高生(女子ばっかりで仲良しこよし)。」

あかんたれよのう。しっかりせんと。あんたは一国一城の主やのにのう。当方、溜息。

 

成り上がり没落貴族、アビゲイル

サラ贔屓の当方なんで。アビゲイルは「この泥棒猫が!叩き出してしまいたい!」の一言。狡猾で図々しい。

初めこそ大人しく。けれどひとたびチャンスを得たと思えば、必死にしがみついてくる。

何故。何故あんたがのし上がる為に私たちの安定の地を提供しないといけないの。私たちは閉ざされた空間でひっそり楽しくやっていた。何故あんたがそこを踏み荒らすの。何故私がここから追い出されるの。

私たちは心で繋がっていた。体も繋がっていたけれど。私たちには共有した時間と経験と、そこから生まれた信頼関係。そして愛があった。だから繋がっていた。

あんたには何もないくせに。あんたはただ自分の欲だけでアンに近寄った癖に。(サラ拝当方)

 

イギリスとフランスの戦争。不安定な情勢と経済。政治家や軍人はここぞと女王に取り入って自分の思うように国を動かしたいと画策するけれど。「私はそういう事には加担しない」ガンと突っぱねるアビゲイル

 

「じゃあ貴方が最終的に手に入れたかったものは一体何だ。」呟く当方。

 

貴族の地位?贅沢な暮らし?

徹底的にやり合って、相手から全てを奪って。貴方は何を手に入れたの?

 

思わず映画館がどよめいた幕切れ。あのぼんやりと瞼を閉じるような不親切なラストに『散々殴り合った後、疲れて眠りに落ちる真っ白なアイツ』を連想してしまった当方。

 

これはスポ根コメディ作品。

散々打ち合って、疲れたらお休みなさいです。